第3話  手放さない

「ふぁぁぁあぁ」

あーやる気出ねぇー

琴梨と別れて早一ヶ月ちょっと。

まだ妙に心に穴があって虚しいと言うか寂しいような感覚が離れない。

離れなくていいから慣れてほしい。


いつも通り支度をして大学に行く。

ただ変わったこととすれば—

「おはよう」

「おう、おはよ」

朝挨拶する人ができたぐらいだ。


俺は今すぐに家を借りる金はないから友達の家に泊まっている。ただ完全にタダ飯食うのも悪いので出来る限りお金は出してる。


「ちょ待って、俺も出るから」

「おうよ」


大学の講義がある日には一緒に家を出る。


いつも通りに見慣れた道を通り、見慣れた電車に乗ろうとしたけれど—


もう見慣れてはいけないはずの人がいた。


「おはよ」

—声をかけてきたのはだった。


「⋯なんでここに」

「ちょっと話があってね……」


俺はきっとどこか期待してしまったのだろう。

なにも言わずついて行くのが少し惨めだと自分で思った。


——


彼女はそのまま近くの公園に行った。

どうして俺を見つけられたのか不思議に思ったがそれよりも今日俺に会った目的の方が気になった。


たまたまなのか広い公園には俺たち以外誰もいなくて寂しいベンチがポツンと置かれてるだけだった。


彼女は後ろにいる俺を確認するわけでもなくそのままベンチに腰掛けた。


俺もそのまま腰をかけようとしたが緊張からか喉が乾いたので近くの自動販売機でお茶を買ってから座った。


二人とも座って話すのに準備は万全なはず—

「「………………」」


なのにずっと続く沈黙。


「今日の用事は?」

俺はこのままではダメだと思い、残りわずかの勇気を絞って声を出して聞いてみた。


すると彼女はなにも言わないまま—

目から頬に熱いものが伝った。


正直熱いかはわからないけどまるで彼女の存在を訴えてくれるような儚い涙。


俺はどうしていいかわからず戸惑ったが、やはり心が痛くなるものだ。

先程買った水を彼女に差し出したが。


数瞬の後—

絹糸のごとき髪が、その軌跡を描くようにふわりと揺れる。


そしてほぼ同時に俺の胸に軽い衝撃が走る。

「グスッ……うぅぅ」

次第に隠していたはずの彼女の涙も露わになってきて—


「わああああ、あああ」


やがてははっきりした泣きへと変わった。


「うぁがれだくないよぅぅ、なんれ、なんれぇ」


今日俺に会うための要件も胸の中で嗚咽を漏らしながらも話してくれた。


「そっか」

流石に俺も鈍感主人公ではない。

なんとなくでも琴梨がなにをしたかったのかはわかった。


だからもう、そんな愛おしい彼女を泣かせたくない。


「そうか、そうか」

俺はただただ頭を撫でてあげた。





琴梨視点—

今日はダメ元で復縁を求めにやってきた。

正直自分で別れるとか言っておいて今更なのが醜い。


公園について座るまでは怖くて後ろを振り向けなかった—

(もしかしたら彼はもう愛想尽きて後ろにはいないかも)


そんな勝手に自分で想像した恐怖に脅されて怖がっていた。


でも本当に振り向いたら彼がいないかもという恐怖には勝てなかった。


ベンチに座ってからもなにも言えない、言ったらもう元の関係には戻れないかもしれない。下手したらもっと悪い関係になる。


そうビクビクしているうちに先に話したのも彼だった。


思わず泣いてしまう時も、彼は昔のように優しく撫でてくれた。


彼からは復縁の返事なんてなにもないのにいつも通り優しい彼でどこか安心した。


この時私は決めた。

もし許してもらえるなら、二度と手を離さない。

一生その手を握ってやるんだから。




どうも作者のタヤヒシです。

この作品文章力無いと気持ち熱くならないので鍛えてました(言い訳)

ちなみに連載中はネタ切れまくってるのに新しい作品はバンバン出したいとなぜか思ってます。

今回もそんな新作の宣伝をします—


「魔術の世界から魔法の世界へ飛ばされたから好きに生きていく」


最初は展開遅くて最初当たりは楽しさ少ないかもしれませんがこの作品書きたいことは割と多めです。

興味あったら是非読んでください。

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