1101話 やっと君たちに会える
〈2036年11月1日〉
気づけば実験回数はとうに200回を超えていた。装置も壊れては修理するの繰り返し。私は、もはや実験が成功するとは一切思っておらず、ただこの施設での暇つぶし程度にしか思っていなかった。
そして、今日もいつものように実験を行っていたが、誤って実験の段階を1つ飛ばしてしまった。
慌てて装置を停止させようとしたが止まらず、私は実験室から急いで飛び出た。
しかし何故だろうか、装置は爆発どころか順調に動いていた。
「えっ……なんで」
私は足をすくめながら実験室へと戻り、実験を再開した。そして私は少々不安を抱きながら、とうとう毎度失敗する実験の最終段階へと差し掛かった。
「お願い成功して!」
最終段階を初めてしばらく、いつもはもうこの時点で装置が停止してしまっていてもおかしくないがいつになっても停止しない。ましてや装置がますます安定化してきていた。
「これってもしかして……成功した?」
私は、とうとう成功したかもという喜びと、本当に成功したのか分からない、という不安が込み上げてきた。
「とりあえず……成功したってことでいいよね? よし、それじゃあ今日はもう豪華に今まで大切に保管してたお米とか……お肉とか食べよう!」
私は装置を一時停止し、若干小走りで実験室から食堂へと向かった。食堂に入り私は、テーブルの上にいつも置いてあった非常用の肉料理とお米、更にこの食堂でまるで子供のように大切に育てていた名前も知らない野菜を皿に並べた。
「さぁーて、食べますか!」
私は約2年ぶりの肉をゆっくり口に入れた。その味はおそらく2年前食べた肉より遥かに味は劣るだろう。しかしこの時ばかりはこの味が今まで食べた何よりも美味しく感じた。
「うぅ……美味しい……」
私は涙しながらゆっくり噛み締め食事を終えた。
「ご馳走様でした」
皿を片付けると、そのまま実験室へとまた小走りで向かい、少しワクワクしながら装置を再起動させた。
「よし、ちゃんと動いてる。それじゃあとうとう本番といきますか!」
私は装置の周りをぐるりと周り、装置に壊れている部分がないか確認すると、とうとう私は、装置に自分の体を固定した。
装置が最後の段階へと移行し装置が発光しだす。
「ありがとう! この装置! ありがとう! この世界! ありがとう! この…… 」
施設中に響いていた声が突然消え施設にはただ、ガタガタ、ガタガタと装置の音だけが響いていた。
◆◆◆◆◆
〈2032年4月5日〉
「明日香、もう明日の入学式の準備は終わったの?」
「もう終わってるよ!」
(全く、お母さんは心配性だなー……ってあれ、ここって名前と苗字どっちも書くのかな?)
「お母さん、この紙って名前と苗字どっちもここに書くんだよね?」
「そうよー、お母さんが書いてあげようか」
「いいよ、自分で書く」
私は自分の部屋へと戻りボールペンで重要そうな書類に名前を書いた。そして、ドサドサと階段を降りリビングにいるお母さんへと見せた。
「どう? お母さん。これで大丈夫でしょ」
(ふふん、私だってもう高校生なんだからこんな紙の1枚や2枚余裕だよ)
「ちょっと……明日香、これじゃ名前、
「えぇ! そんな……書き直してくる!」
「もう1枚この紙ないでしょ」
「あっ……」
苗字と名前の欄を間違えるという前代未聞の事態により、私は明日から始まる高校生活が不安になってしまった。
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