第190話 スカイダイビング
人数が多いせいか、まだ距離が大分あるというのに敵軍が待ち受けているのがすぐに分かる。
てか俺らがそれを見て逃げるとか回り道をするとか思わないんだろうか。
まあ俺は「退かぬ、媚びぬ、省みぬ!」の精神で突っ走るつもりだけど。
「わー、なんかたくさんいるっすね」
「これはまたダイチのとんでも技が炸裂しそうだわい」
普通なら震える所だろうに、俺の従魔達はまるで他人事のようだ。
しかし、ナベリウスの予想だと流石にもう反抗はしないだろうってことだったけど、見事に裏切られたな。
「……で、ロレムス君。あれは一体どういうことかね?」
今はストランスブールの大軍を前にして、みんな馬車から下りている状況だ。
この場には俺達とロレンス以外にも、もう一人ヴァル達が乗る馬車の御者の男がいる。
「アレですかい? アレは旦那たちの出迎えでやすよ」
それはこれまでと同じ腰の低い態度でありながら、微かに窺えるほどの心の機微が僅かに見て取れた。
しかし何を考えているのかまでは分からず、遅れを取ってしまう。
「えっ?」
「ほう、転移か」
いつの間にかロレムスの手には妙ちくりんな石像が握られており、その石像が光を放つや否や、俺達は別の場所へと強制転移させられていた。
それは三方をストランスブールの大軍に囲まれた場所。
距離はまだそこそこあるものの、超長距離タイプの攻撃なら届きそうな位置だ。
「この集団を転移させるとは、今の時代の魔導具にしてはなかなか……」
「ッ! 危ないッス!!」
グレモリィが呑気に転移について語ろうとしていた所、急にロレムスともう一人の御者が動きを見せる。
しかし根本の反応は早く、ロレムスを念動力で吹き飛ばしていた。
「チッ、そういうことか」
もう一人の御者も妙な動きを見せていたが、慌てて俺も根本がしたのと同じようにして御者の男を弾き飛ばす。
と同時に、今では全員に持たせてある魔法結界の魔導具を、俺の方から強制的にアクセスして起動させた。
その直後、火薬庫に火がついたかのような大爆発がロレムスと御者を中心にして発生する。
状況からして自爆魔法でも使ったかのようだが、爆発直前に奴らの体内から異様な魔力反応を検知していたので対処は間に合った。
恐らくは、体内に魔力で動作する爆弾のようなものを予め仕込んでいたんだろう。
「うわあああああっ!」
「み、耳が、耳がああ!」
根本らの慌てふためく声が聞こえてくる。
咄嗟に俺が魔導具を起動したから、直接的なダメージは受けていない。
爆風もきっちり凌いではいたんだが、爆音だけは遮断できずに耳にダメージがいったようだ。
「大地さん、どうしますか?」
「敵さんはどうやら完全に俺達を取り囲んで、少数の集団に分けて攻撃を仕掛けてくるらしい。そういや似たような戦法をゴブリン達もやっていたな」
少し離れた場所では、敵指揮官の指示の声が幾つも飛んでいる。
それらをしっかりと聞き取った俺は、沙織にそのことを伝えた。
「確かに範囲攻撃を避けるには有効な手段だと思いますが……」
沙織もこれまでの旅ですっかり理解しているようだ。
俺にはそのような小細工は無意味であるということを。
「そうだな。生憎と俺相手には通じない」
「どうされますか?」
「今回俺達は集団転移という体験をした。これを皆さんにも味わって頂こう」
方向性が決まったので、新たに魔法を構築していく。
なんかこうした状況に陥る度に大規模魔法を考えていると、「今回のビックリドッキリマジック~!」って感じがしてくる。
「ほおう、ダーリンは何をするつもりなのじゃ?」
「ヤッター、ヤッター、ヤッター〇ーーンだよ」
「……なんじゃそれは」
「知らんのか。リメイクされたり夜になったりした奴だよ」
「サオリは分かるかの?」
「いえ……。恐らくは私達の故郷に関することだと思うのですが……」
あらら、沙織が真面目に考え込んでしまった。
いいんだよ、そういうのはノリで理解してくれれば。
とか、そんなやり取りしてる間に魔法の構築も完成だ。
「よおし、そんじゃあいくぞ。俺達を罠に嵌めるような奴らにはお仕置きだべぇ~。ポチッとな!」
早速魔法を発動させると、その効果はすぐに現れた。
「な、なんとおお! 押し寄せてきた者達はどこにいったのじゃ!?」
「え、これって何ていう魔法なのよ!? もしかして人を一瞬にして消滅させる魔法? こわっ!」
これまでとはまた違う意味で派手……というか、異色な魔法に沙織とグレモリィが即座に反応してくる。
ああ、そういえば今回は魔法名を言うのを忘れていたな。
「この魔法の名はズバリ
「……転移魔法は消費魔力だけでなく、制御するのにもベラボーに大変な魔法なのじゃが……」
今回は俺が普段使ってるアイテムボックス内の空間を利用する転移方式ではなく、この世界の転移魔法の仕組みを使って、全員を上空へと飛ばしてみた。
以前にもっと小規模で試したことはあったが、今回は大規模で運用できるかのテストもついでに試そうという訳だ。
ただグレモリィが言うように、確かに消費魔力はベラボーに高い。
試行錯誤もせず、ただ規模を拡大させただけだと無駄に魔力を消費してる感が強い。
他の奴が似たようなことをやろうとするなら、もっと効率的に魔法を構成しないといかんだろう。
「あ、ほらほら。人はともかく、武器なんかは先に降ってくると思うから、全員俺の近くに集合!」
上空一万メートルまで飛ばしたので、落ちてくるまでには多少時間の余裕はある。
きっと今頃ストランスブール軍の諸兵は、空の旅を楽しんでいる頃だろう。
「……所々から魔力を感じるわねぇ」
「現代魔法ではこの状況に対応できるような魔法はあるのか?」
「ううん、なくはないと思うけどぉ。使用出来る者は多くはないと思うわぁ。特にあの状況で咄嗟に使えるかは怪しいわねぇ。多分大半は死ぬんじゃなぁい?」
空を見上げながら魔力を感じ取ったナベリウスが、所感を述べる。
魔民族の割合が多いとはいえ、同胞も大分ダイブしてるというのに冷めた反応だ。
「大分えげつない魔法ッスね」
「これでも俺達は平和的に解決する為に森都に向かっていたんだ。それなのに、転移や自爆テロまで仕掛けてくる連中には力を示してやらんとな」
「大地さん……」
沙織は俺のことを妄信的に慕ってはいるが、残虐なことが好きな訳でもない。
それは勿論樹里も同じだ。
だが俺はどうも自分を抑えることが出来ない。
何故だろうか……。
『……あ、お前も……やるぞ……』
ぐっ、なんだ?
今……何かが……。
ダメだ。思い出せん!
何故だ? 俺は火星人に改造されて、記憶能力もベラボーに良くなってるハズ。
「あっ……」
ふと樹里が漏らした声が俺の耳に届く。
その声に一旦考えを中断して誘われるようにして辺りを見渡すと、人の雨が降り注いでいる場面であった。
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