第186話 コールド勝ち
従魔の面々に散々魔甲機装を披露していたら、それだけで結構時間を取られてしまった。
まああの後グレモリィからは興味深い話も聞けたし、たまにはオモチャで遊ぶのもいい。
そんな訳で、タニアの街への到着がさらに遅れてしまったんだけど、あと一日程で到着っていう今の段階になって、更に予定が遅れそうな出来事が発生していた。
「おー、うじゃうじゃおるのお」
「久々に大暴れできそうっす!」
「あのしゅーるしゅと……なんちゃらって奴。あんだけビビってたのに、まだ歯向かうつもりのよーね」
「どうなんッスかねえ? あの怯えようはかなりのもんでしたよ……」
「あのエルヴァンが大地さんにひれ伏したとしても、報告を受けた側が同じ反応をするとは限りませんよ」
数キロ程離れた先に見えるストランスブール軍を前に、俺達は呑気に会話をしている。
キルディアの街で俺が力を見せつけたせいか、従魔達は誰もこの状況に不安を持っていないようだ。
例え、徐々に周囲が包囲されつつある現状であったとしても。
「何でわざわざ包囲なんかしてるんっすかね?」
「たぶん、私たちを一人も逃がさないためじゃないかしらぁ?」
「あの、ぼくたちを包囲しようと兵を展開してるけど、逆に言えば一点突破しやすくなってないですか?」
確かにグシオンの言うことも間違いではないが、相手の兵の数はおよそ一万。
それに比べ、十人程度の小集団では突破するにしても壁が大分厚くなる。
それと……、
「マスター。私見ですが、これはマスターの範囲魔法を警戒している可能性もあるかと」
「そうじゃな。包囲というても、みっしりと包囲している訳ではない。兵の配置の仕方からみて、強力な範囲魔法攻撃を警戒しとるように見える」
つまり俺達に攻撃を仕掛けようとしている奴らは、それなりにシュトレングスの忠言を取り入れたと見える。
「で、どーすんのよ?」
「うーん、そうだな。ここいらで、お前達のこれまでの功夫を見せてもらうとしようか」
「くんふー?」
「腕試しってことだ。まとまって行動しながら、俺が危ないと思った所はフォローを入れるから、とりあえずお前達中心に出来る所までやってみてくれ」
「良いッスね。やってやりますよ……」
普段は暴力行為に消極的な根本が、妙にやる気を出している。
なんだろう。そういう時期かな?
「お、おう。まあ、死ぬ程度にがんばれよ?」
「そこは死なない程度に、だと思うんッスけど!? 死んだら全て終わりッス!!」
よく分からんが、やる気があるのは良いことだ。
「あたしもあの街で奴らがやったことは覚えてっからね。派手にやってやるわ!」
あー、もしかして根本がやる気出してるのもそれがあるのか?
俺もあれには内心むかついてたからな。
「ヴァル、グシオン、アグレアスはまだ不安が残るから、三人一緒で動いて互いにカバーをしておけ。ロレイや俺のことは気にせず、敵にどんどん切り込んでいっても構わんぞ」
「りょーかいっす!」
「フンッ、儂は元々鍛冶師じゃからの。だがまあ、タイチの従魔となったからにはやれる所まではやってやるぞ」
「あ、あの、がんばります……」
「承知」
こちらが話をしている間に、包囲網は大分整っていた。
なお、今のところ包囲してくるだけで相手から攻撃や降伏勧告などはない。
「よし。では九時の方角から敵を突き崩していくぞ!」
「わかりました」
「く、九時の方角ってどっちっすかああ?」
時計が一般的な世界でないせいか、俺の言葉の意味を理解できたのは日本組だけのようだったが、「え? 九時って何よ? 時間?」…………。日本組だけのようだったが、根本や沙織の移動する方角を見て、他の従魔達+
「
根本はすっかり技術として身に着け始めた、念動力による魔法剣操作を行う。
今では四本の魔法剣を同時に操作することも可能だ。
それに発火能力やプラーナも開眼してるので、応用力も増している。
「デク、トラピカンタッジ、フラマンタ、ランコォ……」
次に樹里の詠唱によって生まれたのは、炎で出来た十本の槍だ。
その炎の槍は、俺達を包囲している一角に向けて放たれる。
放たれた槍の数は十本だったが、貫通したり延焼したりしたせいで、確実に十人以上の敵兵に被害を与えていた。
「あの崩れた場所に飛び込むぞ!」
そして樹里の魔法によって包囲が崩れた場所に向けて、ペイモンを先頭にヴァルやロレイらが切り込んでいく。
敵の総数はこちらの千倍ちかくだが、包囲しようと分散していたのでそこまで周り中が敵だらけという状況でもない。
「とらあああああっす!」
「えーと……えい! うーんと、そいや!」
敵の包囲網の一部に取り付いたヴァル達は、奮闘しながら敵を薙ぎ払っていく。
どうやら敵軍はエルヴァン族が三割で、残りの七割が魔民族のようだ。
そして魔民族はろくな装備が与えられておらず、完全に肉壁のような扱いを受けている。
つまり実質的に問題なのはエルヴァン族だけだ。
彼らの特徴としては、エルフよりは劣るが人族よりは優れた魔法的素質。
エルフよりは劣るが、人族よりは優れた弓の才能。
そしてエルフより優れた肉体能力、の三つがあげられる。
ああ、あと他にも魔導具の開発が得意というのもあるか。
だがエルフより優れた肉体能力を持つ割りに、前衛で積極的に戦うエルヴァン族は少ない。
これも魔民族という肉盾が存在するからだろうか。
そういった状況なので、離れた後衛の位置からはちょこまかと敵の魔法が飛んできている。
だがそんなこともあろうかと、以前に沙織に作ってやった魔法結界の魔導具を、前衛全員に持たせてある。
ついでに、沙織のブレスレット型の魔導具も改良を加えてある。
今回このような作戦を取ったのも、その魔法結界の魔導具があったからというのもあるし、ついでにこの魔導具の性能実験を行おうと思ったからでもあった。
見たところ魔導具は上手く機能しているようで、おっかなびっくりに魔法を受けているグシオンらに、魔法による直撃ダメージはない。
ただし、この魔導具は魔石内に蓄えられた魔力が尽きたら、発動しなくなってしまう。
まだまだ大丈夫だと思うが、このまま魔法攻撃を受け続けるのは余りよろしくない。
「むう、ダーリンよ。妾も派手に暴れてよいかの?」
他の皆が、圧倒的なまでの兵力差を前に果敢にも戦闘を繰り広げる中、俺とグレモリィは近くにいる樹里と一緒にちょこまかとした攻撃や、仲間のフォローを行っている。
「まだ始まったばかりだろ? まだまだお前の出る幕じゃないぜ」
「しかしじゃなあ、こう、皆が戦っているのを見ておると体が疼いてくるのじゃ」
こんなロリな見た目でも、やはり戦闘好きな魔族の血が流れているということだろうか。
「まあここは大人しくみとけ。お前のことは九回裏のサヨナラのチャンスまでとっておく」
「九回裏のサヨナラってなんじゃあーー!?」
当初はそんなことを言って沈めていたんだが、それからしばらくの間戦闘を続けていく内に、何の山場もなく敵の半数近くを打ち倒し、何の盛り上がりもなく敵軍は退却していってしまった。
うーん、九回裏に行く前にコールド勝ちしてしまった気分だ。
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