第185話 久々の着装


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 吸血鬼の始祖種だというグレモリィが従魔に加わって数日が経過した。

 次の目的地であるタニアの街までは、このペースで行くとあと三日ほどで到着するらしい。


 この数日の間、グレモリィは積極的に仲間とコンタクトを取っている。

 好奇心が旺盛なようで、ヴァルのゴブリン女の落とし方講座から、アグレアスの鍛冶話まで、特にジャンル関係なく色々と話を聞いていた。


「のお、ダーリン」


「なんだ?」


「ネモトに聞いたのじゃが、お主らは異人召喚によって別の世界から召喚された人族らしいの?」


 この辺の話については、すでに従魔達とも情報を共有している。

 外部には漏らすなと言ってあるので、情報漏洩も気にしなくていいだろう。


「うむ。ノスピネル王国の奴らに召喚されたのだ」


「ふうむ。異人召喚の魔法はてっきり失われたものだと思ってたんじゃがなあ」


「いいや、バリバリ召喚されているようだぞ。っつっても、俺らの前は小規模に召喚してたようだから、余り目立ってなかったのかもな」


 あの召喚魔法はこの世界で主流の現代魔法ではなく、魔法文字や魔法文様を使用した……所謂魔法陣を用いた魔法だ。

 確かに異世界から人を召喚するなど、俺がこれまで見てきたこの世界の魔法レベルからすると、少し逸脱している気がする。

 グレモリィの口振りからすると、魔甲機装を作った連中が開発したんだろうか?


「妾も長いこと生きておるが、異人と遭遇したことは少ない。……同胞始祖種と同じくらいレアな奴らじゃ。それが今は目の前にも四人もおる」


「俺らは同時に召喚された組だからな。ノスピネル王国に行けば、まだまだピチピチの異邦人がいっぱいいるぞ」


 そういや、俺らが国外脱出したことで新たに追加召喚はしたんだろうか?

 まあ、西のゴブリン国はほぼ壊滅って感じだし、少しは楽になってるだろう。

 それと魔民族の……なんつったかな。

 アイツの活躍次第では、王国と協力体制を取ることも出来ているかもしれん。


「ほほう。全く興味がない訳ではないが、ダーリン以上に興味を惹かれる相手がいるとは思えぬ。わざわざ見に行くまでもないな!」


 見た目に騙されそうになるが、こいつは何千年も生きているらしいからな。

 幾ら異なる世界の人間とはいえ、特殊な能力もないのでは普通の人間とそう変わらんのだろう。



「ところで、ノスピネル王国は何故に異人召喚などを行っているのだ?」


「なんかぁ、まこーきそーとかいうのに使うんでしょお?」


「む、我も聞いたことがあるな。なんでも、東の人間の王国が使用する魔導兵器であるとか」


「そうそう、それねぇ。でも王国の人は適正が低いからぁ、異人を召喚してるって聞いたようなぁ」


 へぇ……。

 ナベリウスが所属していたストランスブールは、ノスピネル王国からは結構離れた位置にある。

 それなのに、一諜報員にもそのレベルの情報が知れ渡っているのか。


「よく知ってるッスね」


 根本も同じことを思ったのか、少し尊敬したような面持ちをしている。


「まあ、かつては魔甲機装は猛威を振るっておったからのお。未だにその時の脅威が伝えられておっても不思議ではあるまい」


「そうなんッスか? でも今だから思うかもしんないんッスけど、あれってそこまで圧倒的な力でもないッスよね?」


「おお、言うようになったじゃないか根本」


「いや、これも大地さんのお陰ッスよ」


「そう思うなら、これからは朝昼晩の三回。俺のいる方角に感謝の祈りを奉げておけ」


「大地さんのいる方角ってどっちッスか! ちょろちょろ動き回られたら、落ち着いて祈ってられねッス!」


 その言い方だと俺が動き回らなければ、祈りを奉げること自体は構わないって聞こえるな。

 ちなみに根本が言ってるのはフカシでもなんでもなく、実力に応じた発言だ。


 実は、沙織に続いて根本のプラーナも開眼している。

 途中経過だと樹里の方が順調に思えたんだが、追い越してしまった形だ。

 更に超能力の方も念動力だけでなく、発火能力も使えるようになっている。


 そんな今の根本なら、低クラスの魔甲機装相手に生身でも十分やりあえると思う。

 まあ根本の場合、直接武器を振り回したり格闘したりがメインじゃないから、パワードスーツ代わりに着装するのもアリだ。



「親分、おいらそのまこーきそーっての見てみたいっす!」


 む?


「そうねぇ。私も話に聞いただけでぇ、実物は見たことないのよねぇ」


「某、まこーきそーが何なのか詳しくは知らぬが、魔導兵器というのには興味がある」


「おう。儂も興味あるぞ! 構造を解析すりゃあ、儂でも作れるかもしれんしな!」


 いや、流石にこれ魔甲機装はアグレアスでも無理だと思う。

 分野が違い過ぎるからな。


「妾はノースポールがブイブイ言わせてた頃に、戯れに遊んだことがあったのお……」


 遠くを見るような目をするグレモリィ。

 ノースポールってのは、俺がノスピネル王国にいた時に調べた情報で見た記憶がある。

 昔あの辺り一帯を支配していた国の名前だ。

 グレモリィの奴は当然のように、その時代のことも知っているらしい。

 まさに生き字引といった所だな。


「まあ、別にもう今更追跡を気にする必要もないし、別にいいか。じゃあ行くぞお! 着装ッ!」


 俺は少し皆から距離を取って、久々にキガータマンサクを着装してみた。

 その場で軽く体を動かしてみたり、軽く根本をどついてみたりする。

 しっかし、根本。

 キガータマンサクで殴っても、だいじょーぶーー!


 ……まあ、そもそもキガータマンサクは動きがすっとろい。

 咄嗟に念動力で対処され防がれた俺は、舌打ちする。


「ちょおお、いきなり何するんッスかああ!?」


「根本よ。戦場ではいつ何時なんどき敵に不意をもらうか分からん。常日頃から注意力を磨くことで、咄嗟の不意打ちにも対処できるようになるのだ」


「いや、そんないきなり味方から不意打ちされるとか、そーてーがいッス!」


「常在戦場。常に心は戦場にあれ」


「かっこよく言っても無理あるッス!」


 ううむ、まあ根本の成長が見れたのでよしとしよう。


「成長を量るなら普通に訓練中にして欲しいッス……」


 いかん、また口に出ていたらしい。




「ほおおおおっ……」


「これって一体何の材質で出来てるのかしらぁ」


 根本とそんなやり取りをしてる間にも、アグレアスやナベリウスが興味津々な様子で俺の魔甲機装の足元をペタペタと触れている。

 ロレイやペイモンが魔甲機装と手合わせしたいと言ってきたので、俺の代わりに根本に相手してもらうことにする。


 どうやら着装状態の根本とロレイでは根本の方に分があり、ペイモンとの手合わせだと逆にまだ着装根本では及ばないようだ。

 世間話から始まった魔甲機装の話は、手合わせに発展したり詳細を調査したがるアグレアスらによって、大分時間を取られる結果となるのだった。



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