第183話 グレモリィ
「お、お前は何を言ってるんだ?」
「何ってナニのことじゃよ。お主の股間にもモソッとついておろうが」
「んなのは分かってんだよ。なんで、突然そんな話になる?」
「強い雄の子を孕むのは女の本能ではないか? それは強さを求める魔族だけでなく、人間たちもそう変わらぬと思っておるのだがのお」
ま、まあ遺伝子の仕組み的にはそういうのあるかもしんないな。
現実的にも、財力や権力を持った男の下には女が集うもんだし。
といっても人間の場合、純粋な力に惹かれて集まる奴は少ないかもしれんが。
「確かにお前の言うことも間違っちゃいないかもしれんがな。ガキのような見た目の相手じゃあ、たつものもたたん」
「なぬ? 妾のこのせくすぃーな肢体の良さが分からぬと申すか?」
「生憎と俺はソッチの人じゃないんで分からんな」
「ソッチってどっちじゃあああ!?」
どうやらこののじゃロリ。余程自分に自信があったらしい。
ブツブツと「昔はブイブイ言わせてたのじゃが……」とかなんとか言ってる。
まあ
利家さんも従兄妹のロリと結婚して、すぐに孕ませてたからな。
「まあ、それは一旦置いといて……。本当についてくる気なのか?」
「一旦置くでない! 妾は本気ぞ」
「……なんで見た目ロリなのに、そんな行き遅れて気付いたらアラサーになってて、慌てて婚活始めた女子みたいになってるんだよ」
「あら……あらさー? 何のことか分からぬが、妾は常に強い男を求めているのじゃ!」
う、うううん……。
見た目と言っている内容に激しくギャップを感じはするが、改めて話を聞くとつまる所こういうことらしい。
他の普通のクラスの吸血鬼達は、血を吸うことで眷属を増やし、いずれその眷属が進化することで新たな吸血鬼が誕生するという流れになる。
つまり、他の種族のような交配して子供を産むという繁殖方法を取らない。
そして始祖種……オリジンヴァンパイアとも呼ばれるクラスの吸血鬼は、逆に血を吸って人間を眷属とすることが出来ない。
代わりに下位クラスの全ての吸血鬼が、始祖種には逆らえないようになっているそうだ。
ではどのように数を増やすのか。
通常の吸血鬼が進化して、始祖種になる可能性は限りなく低い。
そしてこちらも可能性は低いのだが、交配して子を産むという方法もある。
ただこの場合、交配する相手が強ければ強いほど子が生まれやすいと言う。
グレモリィが俺に目を付けたのも、これが理由のようだ。
なんせここ数千年の間で新たに生まれた始祖種の数は、推定で片手で数えられる程度らしい。
それも実際に確認出来た訳ではないので、下手したら一人か二人程度しかいない可能性もある。
「実際ここ数百年の間、妾以外の始祖種を見かけておらぬ。そうそう死ぬこともなかろうが、このままだといずれ我ら始祖種は途絶えるであろう」
「昔はもっと数がいたのか?」
「妾が生まれた頃には、すでに始祖種は数える程しかいなくなっておった。その時の
つまりこいつは絶滅危惧種ってことか。
にしても、それってかなり末期状態だよな。
「なんでバラバラになってるんだ? 数を増やすなら残った者同士で子を成せばいいだろうに」
「……そう上手くはいかんのじゃ。皆が皆、妾のように始祖種の未来を案じてる訳ではないからの」
「ああん? どういうことだ?」
「妾の知らぬところで始祖種が生まれていない限り、残っている始祖種は皆妾より年上じゃ。そして、長い時を生きた始祖種は風変わりな者が多く、必ずしも生に執着しておる訳ではないのじゃ」
こののじゃロリで数千年ってんだから、それ以上長く生きているとなると、かなりの年月になるな。
人間とは必ずしも精神構造が同じではないと思うが、そんだけ長く生きていると生きることにも飽きてきたりするんかね。
なんか今の俺も普通の人間の寿命で死にそうにないし、他人事でもない問題だぞこれは。
「それは……なんとなくだが理解は出来る。てか、そんな状況ならもう滅ぶ運命なんじゃねーか?」
そもそも、始祖種ってのがこいつみたいな能力の持ち主だけだったら、人間と同じように数が増えていった場合、勢力バランスとか一気に崩れるよな。
そうならないように、最初に始祖種が生み出された時点からバランス調整でもされてたんじゃねえか?
「そうやもしれぬ。実際妾もお主に会うまでは半分諦めておったからの。じゃがこうして運命の出会いを果たしたのじゃ。今すぐに情けをもらわなくともよい。妾もお主らに同行させてもらうぞい」
すっかりついてくる気になっているようだが、ここは仲間にも聞いておくか。
「……ちゅうことらしいが、お前達はどうだ?」
「主の思うがままに」
「正直伝説の存在を前にして怖気づいた部分もあるが、よくよく考えてみればマスターという更に規格外なお方がおられるのだ。我もマスターの意に従おう」
「ううん、私もペイモンと同じよぉ。ダイチ様なら手綱も取ってくれそうだしぃ」
ヴァルやアグレアスら他の従魔達からも、反対の声は上がらない。
こいつらに関しては一応俺に従属している立場だし、強くは言い出せない部分もあるんだろう。
「根本はどうだ?」
「え、僕ッスか?」
「そうだ。
「えーっと、僕も絶対反対って訳でもないけど……ちょっと不安なんで、大地さんが従魔契約してくれると安心出来るッス」
「そーね。あたしもそれならいいと思うわ」
「……大地さん、心配はいりませんよ。もしお手付きなさったとしても、私は殿方の性向には理解が広いですから」
沙織のその言いようは、まるで武家の生まれの娘のようだ。
この調子ならきっと戦国時代に生まれていても、強く生きることが出来るんじゃなかろうか。
……今もめらっさ圧がかけられてるし。
「……ということだ。もし俺達と一緒に行動するなら、俺と従魔契約を結んでもらおう」
「従魔契約? それは何なのじゃ」
「俺の考案した契約魔法だ。俺や俺の仲間へ、危害を加えさせないようにさせることが出来る。特にお前みたいな奴を好きにさせるのは危険が危ないからな」
「妾はそのようなことは毛頭するつもりはないが、構わんぞ。契約魔法というのにも興味があるのでな」
「よおし。じゃあ、今から魔法を使用するから俺の従魔となることを受け入れるように念じといてくれ。だが詳しく聞かなくてもいいのか? まあ、別に過度に行動を縛るつもりもないんだが」
「構わぬ、妾には先見の目があるのじゃ! その目が言うておる。お主は信じるに値する男なのじゃとな!」
先見の目……。
それはなんぞ吸血鬼の特殊能力かなんかか?
ともあれ、初見だというのに妙に懐かれてしまっているが、これはもしかしたらバトルした後に生まれるという、謎の友情的な何かなのかもしれん。
この世界の魔族はバトル脳の奴が多いし、力を見せつけることですんなり従うケースも多いしな。
「本人がそういうならさっさと済ませよう」
早速俺はいつも通りに契約魔法をグレモリィに……って、これは……。
いざ魔法を使おうとなった所で、俺は
この契約魔法というのは、相手の魂の表面に魔法文字を刻むというものなんだが、グレモリィの魂の表面はこれまで従魔にしてきた者達とは異なっていた。
まあこの魂の表面って表現もいまいち伝わりにくい表現だが、グレモリィの場合は……なんちゅうか、こう、鎧を纏っているかのようになっているのだ。
これなら軽度の精神魔法とか、魂に作用する魔法やスキルなどにも対応出来そうだ。
これは俺もちょっと真似て後で対策をしておこう。
これを視た後では、俺の魂はなんだかとても無防備に晒していただけだということに気付いた。
まあそんなグレモリィの魂の防護壁も、俺が魔力でゴリ押しすればどうにかなりそうではある。
今は向こうも受け入れ態勢に入っているから、特に抵抗も受けていないけどな。
「……よし、契約は終わったぞ」
「ふむ? ……ふむ」
自分の魂に直接何かされたことには気付いているようだが、そのことでギャーギャー喚くでもなく、なんとなく満足したような反応をするグレモリィ。
目に見える変化はないのだが、自身の体を一通り眺め終わると口を開いた。
「改めて……、妾は従魔として同行することになったグレモリィじゃ! これからよろしく頼むぞい、ダーリン!」
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