第118話 ギルガ国崩壊の日


【ま……さか……】


 魔力を解放した途端ビビりまくるエンペラー爺さん。

 さっきまでの勢いがすっかりなくなってしまっている。


【その魔力……。まさかお主が黄昏の吸血姫トワイライトプリンセスじゃというのか!?】


 ぬ?

 なんか妙なワードが飛び出したな。

 人名というよりは二つ名といった感じの名前だったが。


【なんだそれは?】


【……お主は黄昏の吸血姫トワイライトプリンセスではないと言うのか?】


【当たり前だ。そもそもその名前からしてソイツは女だろ? 俺は見ての通り男だぞ】


【ワシらゴブリンからすると、人間は時に見分けが付きにくいのでな……。では吸血鬼の眷属ファミリアでもないという事じゃな?】


【俺はただの人族だ】


【フォッフォッフォ……。ただの人族か】


 なんだ?

 さっきまで恐怖に震えていたかと思ったら、一週しておかしくなったか?


【あい、わかった。弱者が強者に敗れるは、この世界の数少ない不変なる真理の一つ。ワシらを打ち破り先へと進むがよい】


 なんか急に中ボスみたいな事を言い出すエンペラー爺さん。

 覚悟を決めた目つきに……なってると思う。ゴブリンの目つきとかよく分からんけど。


【じゃがワシらもただやられはせん。全身全霊を持って、お主と戦ってみせよう】


 そう言ってプラーナを練り始めるエンペラー爺さん。

 二体のゴブリンキングも寡黙なゴブリンキングも、ついでにまだ何体か残っていたゴブリンロード達も。

 全員が俺を取り囲み、襲いかかろうとしている。


【さあ、最後の戦の始まりじゃ! お主も全力でもってかかってくるがよい!】




 ……とかエンペラー爺さんが言ってたもんだから、ちょっと本気を出してみた。


 その結果、一秒で取り巻きのゴブリンロードをぶった切って、二秒でゴブリンキングを一体、追加の二秒で残りのゴブリンキング二体を真っ二つに切ってやった。


 そんでもって次の一秒でエンペラー爺さんを切ろうと思ったんだけど、最初の一撃は爺さんが持っていた槍で防がれてしまった。

 仕方ないからもう一秒だけ追加して再度攻撃をしようとしたら、


【は、はひゅっ……】


 という妙な呼吸音を出してパタリと倒れてしまった。


「えっ?」


 思わず素で日本語による驚きの声を上げる俺。

 すり足で近寄って軽くエンペラー爺さんの頭を蹴ってみるが、まるっきり反応がない。


「んんんーーー?」


 納得がいかない俺はエンペラー爺さんを"鑑定"で調べてみる。

 もしかしたらプラーナの技とかスキルで、死んだふりとかがあるかもしれないからな。

 その結果判明したのが……、



「胸部圧迫による内臓の破裂……と」



 そういう診断結果が出た。

 どうやら最初に俺の攻撃を槍で受け止めた時の衝撃によって、肺や心臓が破裂してしまったらしい。


 えー、どんだけーー!?


 これでも俺はプラーナは使っていないし、魔法や魔力による身体強化も行っていない。

 つまり火星人に改造されたこの体だけでもって戦ったのだ。

 しかも、最初は様子見のつもりで軽くやったつもりなんだが……。


「でもまあ、ゴブリンっつったらRPGじゃ最弱の魔物だしな」


 そう思う事にした。

 ただ今度同じような事があった時は、もっと力を押さえた方が楽しめそうなので、次は気を付けようと思う。


「さて、そんじゃ樹里たちの所に戻るか」


 いまいち納得できない終わり方だったが、気を取り直して元居た場所へと移動を開始する。




「一色さん! そっちのゴブリンは僕に任せるッス! うおおおおぉ、さいきっくそーどおおお!!」


「バカッ、根本! 後ろがガラ開きよ! スルメッツァ、ラ、フラムーン!」


【おおお、こんにゃろう! そんな攻撃は効かないっすよおおお!!】


 ……なんかこっちはまともにバトルしてんなあ。


 ついつい良い大人が若いカップルを見て、「青春してるなあ」と呟いてしまうかのようなノリでそう思ってしまう。


 そんなのんびりした感想を抱いてられるのも、四人の戦いっぷりには余裕が見られるからだ。


 根本が近、中距離でサイキックソード念動剣を操ってゴブリンを跳ね除け、それでも接近してきた奴はヴァルが相手をする。

 遠距離の相手には樹里の魔法が飛び、先ほどのように時折援護の魔法もかかさない。

 沙織は一人遊撃部隊的な動きをして、厄介なゴブリンロードから優先的に仕留めていく。


 とはいっても、俺の当たった部隊にゴブリンロードが優先されていたのか、敵の総数からみるとゴブリンロードの数は少なめだ。


 俺はエンペラー爺さんが使っていたプラーナの隠密技、『隠身ハイド』を使って彼らの戦う様子を眺めていた。

 この技は初めて使うが、俺の"鑑定"を絡めた解析能力を持ってすれば、初見の技でも真似することは出来てしまう。

 スキルのような魂に直接関わるものでない限りは、魔法なんかでも真似する事は出来そうだ。


 最初に襲ってきたゴブリンの数はおよそ四百体程。

 すでに百体ほどは倒されているので、残りは三百体となる。

 数だけでいえば、町に攻め入った時にうじゃうじゃと湧いてくるのよりは少ない。


 しかしそのほとんどが進化クラスで構成されている上、今は俺抜きで戦っている。

 そのせいか、丁度いいバランスでの戦いになっていた。


「よし、そこだ! おおう、根本よ。詰めが甘いぞ」


 丁度いいバランスといっても、四人に危な気はなく、時折ヒヤッとする場面があっても、沙織が上手い事カバーしているので大事には至っていない。

 呑気にスポーツ観戦でもしているかのように見えて、きちんと戦況は把握済よ。

 もし沙織でも間に合わない状況があっても、いつでもサポートできる態勢は万全だ。


 という訳で、俺は観戦を続ける。

 単に楽しむだけじゃなくて、実戦を通して四人の問題点を探る事も忘れない。


 そして一時間半ほどが経過し、最後に残ったゴブリンナイトが手にしていた盾を、ヴァルの斧が盾ごと吹き飛ばした。

 その吹き飛ばした先には、根本が操作したサイキックソード念動剣が待ち受けており、そのまま串刺しとなってゴブリンナイトは事切れる。



「やったッス! これで終わりッスよね!?」


「うむ。でかしたぞ、根本よ」


 俺が隠身ハイドで根本の近くで声を掛けると、反射的にサイキックソード念動剣が俺を攻撃してくる。


「う、うあああぁっ!? って、だ、大地さんいつからそこにいたんッスか!」


「今さっきだ。うむ、咄嗟の反応も中々良い。腕を上げたな、根本」


「……もしかしてずっとあたし達の事みてたの?」


 魔力も大分尽きているのか、少し元気のない声で樹里が聞いてくる。


「然様。其方らの戦い、まっこと見事じゃった」


「はぁ……。なんなのよそれは……」


 樹里は疲れ果てて怒る気力もないらしい。

 ただ沙織だけはまだ余裕が見られる。

 というか、なんとなく俺が隠れて見てたのに気づいてたっぽい。


「大地さんもご無事なようで何よりです」


 そして俺にも労いの言葉を掛けてくる。

 特に苦労したという訳でもないけど、そういった言葉を掛けられると嬉しいもんだ。


 何はともあれ、これでギルガでの大きな戦いは終わりになるだろう。

 このあとギルガグロスや、道中の町や村でのゴブリンとの戦いはあるだろうが、この激戦を乗り越えた四人なら問題ない。


 俺たちはその場で休憩を取ったあと、目前に迫った目的地へと移動を始める。

 そしてついに、ギルガの首都であるギルガグロスへと到着した。


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