閑話 ヴァレフォール
おいらはヴァレフォール。
ついこないだまではただのゴブリンナイトだったっす。
あ、ただのっていうのもちょっとおかしいっすね。
ゴブリンは進化してない奴も多いんで、おいらは大分出世出来た方っす。
ただおいらはゴブリンの中では変わり者らしく、周囲からの風当たりが大分きつかったっす。
一応ゴブリンウォリアーよりは上のクラスのはずなんっすけど、普通にゴブリンウォリアーの雑用とかやらされてたっす。
まあ、やってるおいら自身、そんなに気にしてなかったんっすけどね。
その辺が変わってるって言われる理由かも。
そもそもゴブリンナイトってのも、あまり進化できる奴が少ないみたいっす。
なんでも、ウォリアーから進化するとしたらロードが一番多いっぽい。
なんで、本来ならゴブリンナイトや同じく成り手の少ないゴブリンジェネラルは、周りから一目置かれるらしいっす。
「おい、ヴァレフォール。ヴァーガン様が例の人間達を殺しにいくゴブ。お前も一緒に出陣するゴブ」
「はあ、そうなんっすね。でもおいらまともな装備もないっすよ?」
「なあにい!? お前ゴブリンナイトの癖して、武器の一つも持ってないゴブかあ? 笑ってしまうゴブ。コボッ! コボッ! コボボボッ!」
目の前で偉そうにいるのは、ゴブリンウォリアーのゴブキチ。
別にゴブリンだからといって、語尾に~ゴブってつける奴はそうそういないんっすけど、何故かこいつは意識してそう言ってるっす。
しかもどうもそれをカッコイイと思ってるようで、おいらにはよく分かんないゴブリンっすね。
それと何故か笑い声だけコボルトっぽいっす。
「それはあんたがおいらの装備を取っていったからっす。いい加減返して欲しいっす」
「ああ? 何を言いがかりをつけてるゴブか? あれはお前が俺にケンジョーしたものゴブ。返す曰くはないゴブ」
普通のゴブリンよりはマシとはいえ、やっぱウォリアークラスだとまだ頭が弱いようで、時折言葉遣いを間違うのがゴブキチの特徴。
にしても、あれがないとおいらの装備は「ぼろ布の服」しかないっす。きついっす。
「それにだなあ。俺の事は親分と呼べといったゴブなあ? ちゃんとそう呼んだらお前から奪った装備は返してやってもいいゴブ」
さっきは献上したとか言ってたのに、すぐ言い分が変わったっす。
きっと、「献上」って言葉の意味も理解してないに違いないっす。
「親分、おいらの装備返して欲しいっす」
「んー? そうかあ。装備を返して欲しいかあ」
「はいっす。あれがないと戦えないっす」
「そうかそうかあ。だが断る! ……ゴブ」
あ、思い出したように語尾にゴブを付け足したっす。
結局この後もゴブキチは装備を返す事もなく、ついにその日がやってきた。
ゴブリンの村を襲いまくってるっていう、人間を退治する日。
「む、なんだ貴様。体格からすると、ゴブリンウォリアー……いや、ゴブリンロードか?」
「そのどちらでもないっす。おいらはゴブリンナイトのヴァレフォールっす」
「む、ゴブリンナイトか。どちらにせよ、何故貴様はそんな貧弱な装備なのだ? というか、武器も防具も身に着けていないではないか。いいか? 武器や防具は『装備』しないと効果がないのだぞ」
おいらに声を掛けてきたのは、今回の討伐軍の大将のヴォーガン様。
ヴォーガン様は、最近ゴブリンキングになったばかりなせいか、おいらのようなゴブリンにもそんな偉そうにしないみたいっす。
「えっと、その、無くしちゃったっす」
「何? ……仕方ない。おい、そこのお前! こいつに相応の装備を渡してやれ!」
「合点承知!」
「いいか? お前はただのゴブリンではないのだ。戦に赴くのならば、それ相応の装備を身に付けなければならん」
「ヴォ―ガン様……」
こんな事言われたの思えば初めてかもしれないっす。
家族からも除け者扱いされてきたんで、こんな真正面からおいらに向き合ってくれたゴブリンは今までいなかった。
「お届けにああっしたあーー!」
「うむ。ではこれらの武具を『装備』するといい」
やたらとテンションの高いゴブリンが持ってきた装備を身に着けるおいら。
ヴォーガン様はやっぱゴブリンキングなだけあって、ゴブキチとは懐の深さが違うっす。
「まあ我があっさりと片付ける予定故、お前の出番はないかもしれぬがな! わははははっ!」
……そう語っていたヴォーガン様。
けど、村を襲っていた人間というのは人の皮を被った悪魔のようなお方だったっす。
とんでもない魔力を発したかと思ったら、一瞬にして周りにいたゴブリン達が真っ二つにされたのをみて、正直震えたっす!
どうもおいらは、たまたま転んで地面に横になっていたので助かったみたい。
完全に体が硬直しちゃって、そのまま動けずにいるとヴォーガン様との会話が聞こえてくる。
そして少し話をすると、
「ぐああぁっ!」
っていうヴォーガン様の声が聞こえてきたっす。
それから始まったのは、生き残ったゴブリンへの容赦ない追撃。
そしてついにおいらの近くまで迫ったその方を前に、おいらは叫ぶ。
「う、うわああ!? 殺すのは勘弁して欲しいっす!」
驚く事に、この言葉をきっかけにおいらはこの方の子分になったっす。
ゴブキチは勿論っすけど、結局ヴォーガン様も親分って呼べる相手じゃなかった。
この方こそが、唯一無二にして絶対なるおいらの親分!
そう判断したおいらに間違いはなかったっす。
その後も次々襲い来るゴブリン達を撃破していき、おいらもあっさりとゴブリンロードに進化した。
そして今、ついにギルガの首都であるギルガグロスまで辿り着いた。
これまでの短い旅の間にも、散々親分の偉大さは分かったっす。
何やらけーやくという奴を結んだけど、そんなんなくてもおいらは親分についていくと決めたっす!
思えばおいらはこれまで周りに流されるままで、自分の気持ちというのがなかった。
でも、今おいらの胸の内に流れるアツイ何かはきっと大切なもので、それこそがおいらが変わり者扱いされてきた理由なんじゃないか?
そんな事まで考えられるようになったっす。
親分。こんごともよろしくっす!!
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