第116話 ゴブリンエンペラー
接近してきてるのは、数十体程度のゴブリンの小集団が幾つか。
しかしこれは……。
「数はどんくらいなの?」
樹里が尋ねてきたので、俺はさっき捕捉したゴブリンの数を伝える。
「ふぅん。そんくらいならあたし達の出番ね!」
「そうッスね。せっかく大地さんに負担かけて休ませてもらったんだし」
「それはいいが、今回は全員で固まって動いた方がいいぞ」
「どういう事でしょうか?」
「あー、沙織なら問題なさそうだけど、今近づいてきてるのは全部進化した奴らなんだ」
具体的な編成はわからんが、近づいてきているゴブリン達の背は軒並み高かった。
ゴブリン族は進化してクラスが変化すると、身長が高くなっていくので見分けがつきやすい。
「うーん、それだと一人で相手するのは厳しい……かも?」
ゴブリンウォリアー位ならまだしも、ざっと見た感じゴブリンロードも結構いるんだよな。
そうなると、沙織以外では単体で敵集団を撃破するのは厳しい。
「ゴブリンロードも結構うじゃうじゃいるからキツイとは思うぞ。それと集団の内の一つにゴブリンキングらしき姿も確認している」
「ゴブリンキングッスか? あれっていつも大地さんがサクっと倒してるから、どれくらい強いのかよく分かんないんッスよね」
「そうだな。今の根本が一対一で戦ったとして、いい勝負ってとこじゃないか?」
「
根本も
実際、俺以外の操るキガータマンサクなどの魔甲機装程度なら、今の根本なら素でも戦える位にはなっている。
俺自身も、この世界の強さの基準ってのがまだよく分かってはないが、今の根本はそれなりに強い方なのではないだろうか?
「ちなみにそのゴブリンキングのいる小集団は、どうも最精鋭のゴブリンだけを集めた集団のようだ」
話題に上ったので再度見てみると、明らかにその集団だけ平均身長が高い事に気づいた。
「起死回生の一手……という事でしょうか」
「まあそんな所だろう。なんせゴブリンキングらしき奴だけで四体もいる」
「四体……ですか? ですが確かゴブリンキングは残り三体なのでは?」
五王を名乗っていたゴブリンキングを二体倒しているので、計算の上では沙織の言う通りだ。
「最近進化した奴ッスかね?」
そういう事もあるかもしれないが、この場合は違うだろう。
なんせそいつはゴブリンキングらしき個体より、更に背が大きいのだから。
「いや、あれは恐らくゴブリンエンペラーという奴だろう」
「えっ。それってこの国の一番偉い人なんじゃないの?」
「まあそうだな。人ではないが」
「うわぁ、マジで
俺たちが接近しているゴブリン集団の話で盛り上がっていると、気になったのかヴァルが話しかけてくる。
【どうしたんっすか? なんか話が盛り上がってるようっすけど】
【ゴブリンの小集団が幾つか接近してきてるって話をしてた所だ】
【うぇっ? あれを見てまだ襲い掛かって来る奴なんていたんっすね】
同じゴブリンのヴァルから見ても、あの魔法は相当な衝撃を与えたらしい。
近づいて来てるゴブリン達を、まるで神への反逆者であるかのような言い方をしている。
【近づいて来てるのは全部進化したクラス。ゴブリンロードの姿も多いから、今回はお前も根本らと一緒に共同であたれ】
【りょーかいっす! で、親分はどうするんっすか?】
【俺は一番精鋭が集まってる集団を叩く。どうもゴブリンエンペラーがゴブリンキング三体を引き連れて、直々に襲い掛かってくるようなんでな】
【えー、マジっすか!? ジャヒール様ってそんな好戦的なイメージじゃなかったんっすけど】
進化していたとはいえ、ただのそこら辺のゴブリン兵だったヴァルにまでそう思われているのか。
これまで出会ったイキりまくったゴブリンキングとは、一味違うのかもしれん。
【そんだけ奴らも必死って事だろう。そういった訳で、お前はお前のやれる事をやるんだ】
【はいっす!】
俺たちがこうして話している間に、敵集団は根本らでも捉えられる距離にまで接近していた。
接近前に魔法をぶちかましてやろうと、樹里が魔法詠唱の準備に入る。
「数が多いので、沙織はいつも以上にフォローに気を使ってくれ」
「分かりました」
両者の距離がある程度近づいた所で、ゴブリン達から弓矢による攻撃が始まる。
ゴブリンアーチャーは手先が器用で、多少の距離があってもそれなりに相手を狙える腕がある。
とはいえ根本らも慣れたもので、超能力や魔法。沙織なんかは飛んできた矢を掴み取るなんて真似をして矢を防いでいた。
ヴァルは元ゴブリンナイトだけあって、盾を翳して身を守っている。
「モントゥル、アンタゥ、ミ、ラ、コレロン、デ、ラ、シエロ。ラ、クヴィン、エクヴリロッジ、デトラウス、ミアジン、マラミコジュン!」
それに対し、樹里はある程度距離が近づいてきたゴブリン集団に対し、雷の魔法を放っていた。
連続的に放たれた五条の雷は、その集団の半数近くを一度の魔法攻撃で削り取っていた。
「へえ。雷の魔法は苦手って言ってなかった?」
「練習してるのよ!」
これも俺の『
だが次に放った樹里の魔法は、一番得意だという炎系の攻撃魔法だった。
「それより大地はゴブリンエンペラーに挑むんでしょ?」
ヴァルと話していた内容は、改めて樹里達にも話してあった。
確かに大分近づいてきてるし、そろそろ動き始めてもいいかもしれない。
「んじゃあ、そろそろ行ってくる。……危なくなったら『着装』しておけよ」
これは根本にも言ってあるが、少なくとも魔甲機装に搭乗すれば、ゴブリン相手なら身を守る事が出来る。
沙織も生身の状態での戦闘力は高いけど、それでもまだ着装した方が強い。
魔甲機装は適正があって登録さえできれば、ずぶの素人でもそれなりに強くなれるのが長所だ。
しかし戦闘技術的な点を磨く位しか、より強くなる方法がない所が魔甲機装の欠点でもある。
俺が三人の素の能力を強化してるのも、いずれは魔甲機装を素の状態で倒せるようになってほしかったからだ。
そこまでの強さを身につければ、この死が日常的な世界でも生きていけるだろう。
っと、考え事をしてる間に目的の集団がすぐ目の前の位置に迫っている。
俺も魔法だけでなく、近接戦闘の腕も磨かんとな。
アイテムボックスから俺の作った魔法剣を取り出すと、相手がどう出てくるか様子を窺う。
魔法剣を手に一人飛び出してきた俺に対し、ゴブリン達がまとまって襲いかかって来た。
近くでみるとよくわかったが、この集団はゴブリンエンペラーやキングだけでなく、その他のゴブリンも全てがゴブリンロードで構成されている。
こりゃあ、あっちの四人だけで相手してたら沙織がいてもやばかったかもしれないな。
なんて事を思いながら、俺はゴブリンロードを四、五体ほどバッサリと切り捨てていった。
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