第115話 デストロイレインボー
これも一つの魔法の勉強になるだろう。
そう思ってまずはおおまかな魔法の構想を練る。
軍勢の中の魔民族の位置は、大体特定出来ている。
……が、範囲魔法だと端っこの方の奴やはみ出たやつらに一緒に当たりそうだ。
まあ多少の被害は樹里も許容してくれるかもしれんが、どうせなら徹底的にゴブリンだけにターゲットを絞りたい。
それには魔法そのものに誘導効果を持たせ、特定の相手に向かって飛んでいくようにすればいい。
特定方法は魔力の波形パターンが使えそうだ。
同じ人間同士でも波形パターンは異なっているが、ゴブリンともなると大分違いがある。
それだけの違いがあれば、特定の魔力パターンの相手に構築した魔法を誘導する事も出来るはずだ。
ただし周りを巻き込んではいけないから、範囲魔法ではなく単体向けの攻撃魔法にするべき。
そうなると敵の数の分だけ魔法を放たないといけないが、それは繰り返し処理をさせる事で対処しよう。
誘導式だから狙いを定める必要もないしな。
ただ同じ相手に何発もいかないよう、ばらけさせる処理も必要だ。
ついでに見た目でも楽しめるように色を付けよう。
「……ふむ、なんとかいけそうだ」
前回の雷魔法は轟音がヤバ過ぎた。
今回は音は問題ないと思うが、派手になる事が予想されるから光量を予め抑えておいた方がいいだろう。
「ちょっと大地。早くしてよ! もう結構近くまで迫ってきてるわよ!?」
む。
俺が魔法の構築をしてる間に、大分近くまでゴブリン軍団が迫ってきていたらしい。
十五万の軍勢ともなると流石に結構迫力あるな。
「よし、じゃあいくぞ」
【お! また派手な魔法いくんっすね? 今度はどんなのか楽しみっす!】
樹里とは日本語で会話していたんだが、状況的に俺がまた新しい魔法を使うとヴァルは思っているらしい。
ふふふ、その通りだ。
今回はちょっと今までにない位に凝った攻撃魔法だぜ。
さあ、とくと見よ!
「ゴブリンだけを狙い撃つ魔弾の射手!
最初の魔法が発動し、続けて繰り返し処理に入ろうとした所で、俺はこの魔法の致命的なミスに気づいてしまった。
「あっ……」
慌てて途中でキャンセルしたが、間に合わずに既に幾つか発動してしまった後だった。
それも虹の色を彷彿とさせるカラーリングで、光の矢は一つ一つ色が異なっている。
色とりどりの光の矢の内、数本は少し離れた場所にいるゴブリンの下へと飛んでいき、見事にその胸を貫いて絶命させた。
だが……。
【ぎゃああああぁぁっっっす!】
俺は失念していた。
一番身近な所にもゴブリンがいた事を。
ヴァルは突然自分の下に飛んできた赤い光の矢を、かろうじて躱……そうとして、避けそこなって左肩を貫かれている。
おー、躱そうとした事で致命傷を避けたか。
【ちょっ、何なんっすか!?】
【すまんすまん。ゴブリンだけを狙って攻撃する魔法だったんだが、お前もゴブリンだった事を忘れてた】
言いながら、俺は回復魔法でヴァルの左肩を治してやる。
【う、あ? 痛いのがなくなったっす】
【今のは俺のミスだ。次はお前を狙いから外すように調整しよう】
直前にヴァルが話しかけてこなければ、流石の俺でもキャンセルが間に合わず、もう二、三発ヴァルに光の矢が飛んでいってたかもしれん。
ふう、危なかった。
「ちょっとぉ?」
「……確かにゴブリンを狙い撃つってのは間違ってなかったッスね」
根本と樹里がジト目で俺を見てくる。
「いや、でもホラ。途中で気づいて慌ててキャンセルしたし」
「でも今の感じだと、まともに食らってたら心臓貫かれてたんじゃ……」
いつもはヴァルに対して張り合う事が多い根本だが、今だけは憐みの視線を送っている。
というか仲間を見つけたような感じにも見えるな。
「大丈夫だ。物理的に即死するようなダメージでも、多分俺の回復魔法なら治せる」
「……それって既に回復魔法じゃなくて蘇生魔法でしょ」
外野があれこれ言ってくるが、こうしてる間にもゴブリン達は雲霞の如く迫ってきている。
「あーあー聞こえなーい。もう時間もないし、一発ぶちかますぞ。
「今度はえらく決め台詞があっさりしてるッスね」
ヴァルだけ例外処理をした
打ち出される光の矢は、秒間六十発。
最初に真上方向に打ち出された後、放物線を描くように今回指定したゴブリンの下に向かっていく。
30fpsと60fpsだと大分違いを感じられるよね。
そんな感じで秒間六十発に設定したが、もたもたしてる間に大分敵も接近してきていたので、このままだと取りつかれそうだな。
俺は途中から秒間百二十発へと変更する。
120fpsともなれば大分滑らかだが、30fpsから60fpsにした時のような明確な違いは感じにくいよね。
まあそれは単にフレームレートでの話だ。
俺の放つ
明るさも事前に調整していたお陰で目にも優しい。
ド派手な光の矢の雨が次々と生み出され、近くにいたゴブリン達へと順に降り注いでいく様子は、とてもファンタスティック。トレビアーン!
「す、すごいわね」
この光のイリュージョンには樹里も素直に脱帽しているようだ。
【おいらに飛んできたあの光の矢が、あんなにたくさん……】
ヴァルはさっきのがトラウマになったようで、ガクガクと震えながらゴブリン達が倒れていく様子を見ている。
そして当のゴブリン達もこのとんでもない光景に、俺たちの下へと打ち寄せようとしていた足を止めていた。
それどころか、反対方向に逃げようとする奴らも出始めた。
この感じだと、外縁部にいた奴らが逃げ出したら魔法の範囲からは逃れられるだろうけど、まあそれはそれでいいか。
別に全滅に拘っている訳でもないし。
しばしライトイルミネーションを楽しんだ俺は、周囲からゴブリンの姿が粗方いなくなったのを確認して、魔法の発動を止める。
魔力消費量は
やはりシンプルな分、
「なんか、チラホラ残ってんのがいるわね」
「魔民族に……コボルドも混じっているみたいッスね」
今俺達がいるギルガからは、山を挟んで反対側にコボルドの国がある。
そのせいか、コボルドの数は魔民族よりも少ない。
あっという間に、自分達を支配していたゴブリン達がいなくなった事で、魔民族やコボルドも酷い混乱状態にあるようだ。
だが一人が逃げ出すと、それに釣られるようにして他の連中も我先にと逃げ出していく。
「流石にこの状況では襲い掛かってこないようですね」
「こんな状況で向かってくるような奴はいないッスよ」
自分でやった訳でもないのに、妙に得意げに言う根本。
しかし俺はすでに別の反応を感知している。
「根本よ。お前がそんなフラグを立てるから、追加のゴブリンがこちらに向かってきたようだぞ」
「ええぇっ! マジッスか? ってかそれって僕関係あります?」
さあて、そろそろ最終ラウンドも近づいてきたってとこかな。
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