第113話 ギルガグロス、最終防衛線


 あれから俺たちは、残りの五王やゴブリンの軍勢に出会う事もなく村や町を潰していった。

 順調とも言えるが、同じ作業の繰り返しのせいで単調だったとも言える。

 だがおおよそ一か月ほどかけてギルガの首都ギルガグロスに近づいてからは、少しゴブリンの動きに変化が生じてきた。



「また来たッス。次は誰が行くッスか?」


「では私が……」


 沙織はそう言ってゴブリン達の下へと向かう。

 その先にはゴブリンの小集団……数十体程のゴブリンがいた。


「じゃーあたしたちはその間ご飯にしよっか」


「そーだな」


 俺は昼飯の準備を始める。

 少し離れた場所では沙織とゴブリン達の戦闘が始まっている所だ。


「にしても、いつまで続くんッスかね?」


「そりゃあギルガグロスに着くまでずっとじゃないか?」


「意味ないような気もするッスけど……」


「でも一度にたくさん襲ってきても、大地の魔法で一発でしょ。ゴブリンもやっとその事に気づいたのよ」


 樹里の言うように、ギルガグロスに近づいてからは軍勢を引き連れてくるのではなく、小集団をちょこちょこ送り込んでくるようになった。

 不定期に送り込まれるゴブリン達を、俺たちはその都度蹴散らしながら先に進んでいた。


「だからってこれはどうも……」


「奴らに残された手が、こうした人海戦術しかないって事だろ。確かに人数だけでいえばこちらは少数だから、体力切れや魔力切れを狙うのは間違いじゃあない」


 先に進むにつれて、一時間に一回の襲撃が三十分に一回位になってきている。

 この嫌がらせみたいな襲撃が始まったのは三日前で、ギルガグロスまではこのペースで進むと後二日といった所。


 その間、夜は俺が一人で見張りを担当していた。

 夜だろうが奴らは構わずちょこちょこ襲ってくるので、丁度いいやと攻撃魔法の練習に使う。

 初めは装備の回収も行っていたが、今はもう面倒なので装備など気にせず魔法の実験台になってもらっている。



「ただいま戻りました」


「おう、おかえり。飯の準備が出来てるぞ」


「ありがとうございます」


 礼を言って椅子に座る沙織。

 すぐ近くで戦闘を行っていたというのに、俺たちはその辺の平地にテーブルと机を並べて食事を取っていた。


「お疲れ様ッス」


【親分、次はおいらが行くっす】


【分かった。好きにしろ】


 ここまで来る一か月の間に、ヴァルは更にゴブリンロードからゴブリンエリートに進化している。

 こんな短期間に進化するのも普通はありえない事だし、ゴブリンエリートというのも相当珍しいクラスらしい。

 このクラスに進化してから、ヴァルのやる気は大分上がっていた。


「次はヴァルが出るそうだ」


「む。ならその次は僕がいくッス」


「ああ、好きにしてくれ」


 王国を抜け出す前と比べると、根本達も大分強くなっている。

 数十体のゴブリン程度なら、最早魔甲機装など必要ない位だ。


 根本は超能力が強化され、サイキックソード念動剣を長時間発動出来るようになってきた。

 それに細かい操作や剣の動かし方、それに合わせた自分自身の動きも大分洗練されている。


 樹里は魔法関連が強化された。

 火星人が埋め込んだ情報の中から、魔法に関連する知識などを樹里には教えていたのだ。

 樹里が日本にいた時に学んだ魔法知識とは大分食い違いも多いらしいが、言語の勉強とは比べ物にならない程熱心に勉強している。


 沙織は戦闘力の伸びという点では、三人の中で一番滞っていた。

 しかしそれは元が高かったせいだ。

 戦闘技術は俺を抜かせばダントツだし、身体能力も俺の次に優れている。



「ごちそうさまでした」


 最後に沙織が食べ終えたので、俺はテーブルや椅子などを収納して、再び移動を再開した。

 流石にこの鬱陶しい状況では、言語の勉強や訓練などの時間は取らず、その分を移動に充てている。

 まあ訓練に関しては、実戦が訓練の代わりと言えなくもないか。


 そんなこんなで特に大きな問題が起きる事もなく、俺たちはついにギルガグロス手前まで到着した。

 これまでは散発的に小集団を送り込んできたゴブリンだったが、流石にここにきて全兵力を投入したようだ。


 俺の魔法を警戒してか、細かく分かれたゴブリンの集団が俺達を大きく取り囲んでいる。

 そしてこれ以上先には進ませないとばかりに、これまでと同じ戦術で俺達のスタミナを削る作戦に出た。


 しかしそのペースは速い。

 また一度に送り込む数が増えていたり、同時に複数の小集団を送り込んだりしてくる。


 これまでも、町規模を落とす際には長期戦になっていた。

 そうした戦いを何度か経験した事で、根本達も長期戦には慣れてきている。

 しかし今回はこれまでにない規模のゴブリンの数だ。


 昨日まではそれでも間隔をあけて襲ってきていたが、今日は崖っぷちに立たされたゴブリン達がノンストップで小集団を送り付けてくる。


「ちょっと……これはきついッス」


「あたしも、流石に魔力マギアが限界かも……」


【親分、ちょっと、休憩しても、いいっすか……?】


 このゴブリンの攻勢に、遂にこの三人が根を上げる。

 根本は地面に横になったまま息を荒げているし、樹里は気を緩めるとそのまま意識を失ってしまいそうだ。

 ヴァルも似たような有様だった。


「私はまだいけますが……」


 そんな中沙織は確かにまだいけそうではあったが、流石に疲れが溜まっているように見える。


 ここいらで一旦休憩を入れさせるか。


「いや、沙織は無理しなくていい。他の奴らも休んでてくれ。これからしばらくは俺が対処しよう」


 俺が休憩を伝えると、樹里と根本がその場で寝始めた。

 ううむ、大分限界まで無理してたようだな。

 でも魔力や超能力を伸ばすにはこれが効果的だったりする。


 筋トレなんかはやりすぎてはダメだと言う。

 だがこの二つ魔力と超能力に関して言えば、限界まで魔力なり超能力を使い果たしてから、 泥のように眠って回復させる。

 これの繰り返しが、てっとり早く力を伸ばすには効率が良い。


「そう……ですか……。では申し訳ありませんが、私も休ませて頂きますね」


 沙織もそう言って寝息を立てはじめた。

 ヴァルもいつの間にか、地面にうつ伏せのままぶっ倒れている。



 俺以外の全員がぶっ倒れているのを見て、チャンスと思ったのかこれまでになく全方位から小集団が幾つも迫ってきた。


「甘いんだよなあ」


 俺は近づいてきたゴブリン集団を、次々と魔法で仕留めていく。

 それでも懲りずに迫りくるゴブリン達。

 正直この戦術は普通の相手には有効かもしれないが、俺相手には悪手としか言えん。


 現に、こんだけ魔法を撃ち続けても俺の魔力は尽きる所かほぼ最大値を維持したままだ。

 これは使用する魔力よりも、回復する魔力の方が多いという事。


 俺が魔法でゴブリンの処理を始めると、大分殲滅ペースが上がってきている。

 この調子だと今日中には終わりそうかな?



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