第112話 二体目のゴブリンキング
【貴様らがゴールドクラスの鉄人形の使い手だな? 我の名はゾルボ! 五王最弱のヴァーガンを破って調子に乗っているようだが、我が――】
前の時より数千体ほど多い、二万体のゴブリンを引き連れてきたゴブリンキング。
何故だか前と同じように、トカゲに乗ったゴブリンキングが一人前に出て来たと思ったら、何やら口上を述べ始める。
なんだ? これがゴブリンの戦の際の風習なのか?
「
だが俺は構わず魔法で一掃する事にする。
前回使用した
【グオオオッッ!? な、なん……雷? そんなバカな……】
二万体のゴブリンの軍勢に向けて、雲一つない空から無数の雷が落ち続けていく。
それも広範囲に複数同時にだ。
落雷そのものの威力も高く、直撃したゴブリンは即座に黒焦げになったり、体がはじけ飛んだりしているが、その周りにいたゴブリン達にも巻き添えを食らってバタバタ倒れていく。
幾つもの雷が落ち続けるせいで、辺りにはすげえ轟音が鳴り響いている。
俺の特殊な聴覚でなければ、この轟音の中ゴブリンキングの言葉を捉える事は出来なかっただろう。
ゴブリンキングは体ごと表情も固まったまま動かない。
ふと後ろを振り返ると、樹里たちがあまりのうるささに文句を言っている姿が見える。
「確かにここまで煩いとは思わなんだ」
どうせ魔法の謎の力で生み出してるんだから、音を小さく出来ないかと思って途中から調整を始めたが、多少はマシになったレベルで相変わらず激しくうるさい。
「いや、待てよ。風魔法で音を遮断すればいいか」
こっちの方はすぐに上手くいって、轟音をシャットダウンする事に成功した。
けど見ればすでにゴブリンの大半が死んだあとのようだ。
【さて……なんて言ったかな。そこのゴブリンキング、首を頂くぞ】
なんだか呆けたままのゴブリンキングに、態々声を掛けてやったというのに、反応がさっぱり返ってこない。
【ショックで固まってるのか? まあ、それなら楽に……】
と俺が近づこうとすると、ゴブリンキングは騎乗していたトカゲからスルリと落ちて地面へとダイブを決める。
体に力が入っていない……というよりも意識を失っているようで、首の骨が折れるんじゃないかという態勢で落下した。
「キュウウエエェェェッ!」
ゴブリンキングが落馬……落トカゲすると、トカゲは忌々し気にゴブリンキングの首元を踏みつけた後に、凄い勢いで俺から遠ざかるように逃げていった。
「…………死んでるな」
ゴブリンキングがひ弱なのか、あのトカゲが意外と強いのか。
ともあれ、二人目の五王とやらはこうしてあっさりと死んだ。
雑魚ゴブリン達も、大体は仕留められたようだ。
「ちょっと! あんな魔法使うなら先に言っといてよ!」
まだゴブリンの取りこぼしが少し残っていたが、既に決着はついたとみて樹里達が俺の下までやってきた。
そして最初に出た言葉がさっきの奴だ。
「いや……、思い付きでやってみただけなんだ。あんなにうるさいとは思わなくてな。正直スマンかった」
多分……いや確実に、普通の人間であれば鼓膜が破れる程の轟音だ。
実際にゴブリンキングも、外傷はなかったが両耳から血を流していた。
「あー……、なんかジェット機の音を近くで聞いた時以上にすごい音でしたよ」
「途中からは音をシャットアウト出来ただろ? 次やるときは最初からあれでやる事にしよう」
「途中って……ほとんど最後の方だけッスよね?」
ジト目の根本に軽く睨まれる。
一方ヴァルは耳から血を流しながらも、興奮冷めやらぬといった様子だ。
ひたすら少ない語彙で凄いと褒めてくる。
「ヴァルさんの耳から血が流れてますが、大丈夫なのですか?」
「あー、まあ大丈夫だろう。鼓膜が破れたとしても、ナノマシンが修復してくれるさ」
そもそもナノマシンによって、遺伝子操作だけでなくプチ肉体改造が行われている。
視覚、聴覚といった五感に関しても、徐々に強化されているのだ。
「そういえば、そこに転がってるゴブリンもキングクラスらしいぞ。これで五王の内二体は倒したから、残りは三体だな!」
「へぇ……。今回も結構な数のゴブリンを倒したし、もうこの国終わりなんじゃないの?」
「別に虱潰しにするつもりはないが、まだギルガグロスも残ってるからな。勢力図は大きく変わるかもしれん」
地元の魔民族も動きを見せたことだしな。
リサールが魔民族を纏めれば、第三勢力となるかもしれない。
「ところで大地さん。なんか生き残ったゴブリンが逃げ散らかってますけどいいんッスか?」
「む? よおし、ここはお前らの出番だ!」
「はいきた! いっちょ暴れてやるわ!」
こういう所は妙に樹里って好戦的だな。
駆けだしていった樹里の後を、他の奴らも追いかけていく。
あいつらが残党狩りをしてる間に、俺はいつも通りに金属の回収に入る。
生き残ったゴブリンは……概算で七、八百といった所か。
逃げ出す奴も多いが、逃げ切れないと判断したのか立ち向かってくる奴もいる。
しかし集団行動は出来ていないので、樹里達に各個撃破されているようだ。
大分逞しくなったもんだ。
俺たちは再び襲ってきたゴブリンキング率いる軍団を殲滅すると、再び次の目標であった町へと目指して移動を再開する。
そしてその町でも前回と同じように、持久戦で戦ってみたんだが、今回はなんと殲滅するまで持ちこたえる事が出来た。
前回の教訓が活きた形だ。
そろそろギルガの首都、ギルガグロスも大分近づいてきた。
あと幾つかの村と、町を二つばかり経由すれば辿り着く。
そこではもっと凄い大軍が待ち受けているんだろうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何じゃと!?」
ゾルボと人間との戦いを、遠くから観察させていたゴブリンスカウトが戻ってきた。
酷く怯えていたそのゴブリンスカウトが言うには、その人間は鉄人形を使用せず、神の如き魔法でもってゴブリン軍団を一掃したという。
「雨のように雷を無数に落とすなど、そのような魔法は聞いたこともない……」
もしや、ワシは相手を見誤っていたのかもしれぬ。
そのような真似が出来るとしたら、それは人族ではなく吸血鬼……それもかなり高位クラスかもしれん。
しかし何故吸血鬼が……。
吸血鬼の国『アルテイシア』は、ギルガからだと国を跨いだ北の先だ。
北のゴブリン国『グルガ』であれば、山脈を挟んで反対側にあるからまだ分かる。
それが何故、我がギルガに高位の吸血鬼が現れたのだ!?
「ハッ……! ま、まさか……?」
そこでワシはおとぎ話のような、吸血鬼にまつわる話を思い出す。
「その魔法を使ったのはもしや、
――
それは魔族の間では、種族問わず伝わっている伝説的な吸血鬼。
神話の時代より生きているというその吸血鬼は、ヴァンパイアキングをも凌駕する力を持つとされておる。
また、その吸血鬼は吸血鬼の国に留まらず、この大陸のあちこちを放浪している。
そのせいか、この周辺の南部魔族領だけでなく、中部や北部にもその名が知れ渡っておる。
幾つかの噂話では、堂々と人族の国にも出入りしているらしい。
「そう考えると、残りの三人の人族というのも
何にせよ、得体の知れない強者が我が国を蹂躙しているのは変わらぬ。
直接このギルガグロスを目指している訳ではなさそうじゃが、道中の村や町は次々と壊滅している。
ここは全戦力を持って、事にあたらねばならんだろう。
例えそれによって甚大なる被害をもたらそうとも。
……そう、ワシは悲壮な決意を固めた。
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