第109話 サイキックソード
新入りのヴァル以外の装備は全て一新され、戦力が強化された俺達。
ちなみに根本に渡した二本の剣は、見た目は樹里のものと似ているが魔石に刻んだ魔法文字が異なる。
こちらは魔甲機装に備わっている、超能力を魔力に変換する機能が籠めておいた。
これによって根本が念動力で剣を操作する際に、ついでに超能力のほんの一部を魔力に変換している。
このちょっとだけ変換した魔力によって、魔法剣を起動状態にさせ、以降は魔石に蓄えられた魔力で魔法剣としての機能を果たす。
手元から離れた場所に魔力を通すのは難しいので、ちょっと手順を挟んではいるが、間に魔石を挟む事で魔法剣としての機能に超能力を割かなくて済むので、大分省エネだ。
【そんじゃーいっちょ新入りとして頑張るっス!】
「なんかそのゴブリン君。これから仲間の町を襲うってのに、妙に張り切ってるわね」
「なんでも新入りとしてはいいとこを見せたいそうだ」
まだ魔族語が不十分な三人に軽く通訳する。
「む……。僕も今回は大地さんに魔法剣を頂きましたからね。活躍してみせますよ」
ヴァルに張り合うように胸を張る根本。
毎回戦闘時のテンションが高くなかったが、今日はヴァルのせいかやる気になっているようだ。
俺たちはいつも通り、特に作戦を立てる事もなく真正面からゴブリンの町へと乗り込む。
すでに俺達の事が知れ渡っているのか、町の入り口付近にはすでに結構な数のゴブリンが集まっていた。
「大分、数が多いようです」
「今回俺は派手な魔法は使わないぞ」
「おっけ。じゃあまずはあたしの魔法でドッカンドッカンね!」
今にも腕まくりしそうな勢いで、早速樹里が詠唱を始める。
「ヴェントゥ、キルリィグ、ファリィグ、ウヌ、ヴォルティコ、カジ、トランクシオン!」
樹里の放った魔法はドッカンドッカンとか言ってたくせに、実際は大きな竜巻を作り出すものだった。
そして例によって、ただ強風に煽られているようにしか見えないのに、内部にいるゴブリン達は切り刻まれている。
風系魔法の不思議だ。
樹里は火魔法が得意との事だが、だからといって他の系統の魔法が使えない訳ではない。
ずっと火魔法を使っていたら他のが上達しないからと、今回は風魔法を使う事にしたようだ。
【うわー、すごいっす! 親分のに比べるとしょぼいっすけど、これでも十分強いっす!】
言ってる事を理解してたら樹里が怒りそうだな。
樹里が今回風魔法にしたのも、前回の俺の
【マホウツカイがイルゾ!】
【サキにタオセ!】
町の入り口に集まっていたのは、恐らくこの町に暮らすゴブリン達なのだろう。
あれだけの数がいるのに、まとまった群としての動きを見せず、完全に動きがバラバラになっている。
取りあえず魔法を撃っていた樹里を狙うという奴が多いようだ。
標的にされた樹里は、ゴブリン達と接敵する前にもう一度同じ魔法を放つと、手に魔法剣を持ってゴブリン達を待ち受ける態勢に入る。
こちらは樹里、根本、ヴァルの三人が互いに背を向け合ってフォーメーションを組んでおり、その外側に俺と沙織が布陣している。
「僕の
根本は早速新技を発動し、宙に二本の剣を浮かばせる。
その様子に一部のゴブリンの足が止まっていたが、後ろから次々と打ち寄せる後続に波のように押されていく。
中には仲間に倒された挙句、踏まれまくっているゴブリンもいた。
根本の操る二本の剣は、次々とゴブリンに襲い掛かっていく。
それでいて、その攻撃網を突破してきたゴブリンに対しては、自身のメイスによる攻撃を加える。
訓練の成果はきちんと出ているようだ。
「切れる! さくさく切れるううッ!」
一方樹里は包丁の実演販売のようなセリフを吐きながら、次々にゴブリンを切り捨てている。
前は何体か切ったら切れ味が悪くなってたからな。
血まみれになってきてるが、大分嬉しそうだ。
それに魔法を扱う樹里ならば、魔力を操作したりすることで切れ味などを更に強化する事も出来る。
ノーマルゴブリン程度なら必要ないが、硬い相手でもそれなりにダメージを与えられるだろう。
沙織の方は相変わらず心配いらない。
しかも今回は魔法の槍に新調したので、いつも以上にゴブリンを捌くペースが速い。
「ハッハッハ! 我が軍は無敵ではないか!」
……などと思っていた時期が俺にもありました。
確かに最初の方は調子がよかった。
しかし倒しても倒しても打ち寄せるゴブリン達に、中心のトライアングルフォーメーションを組んでた三人がバテ始める。
戦闘開始から一時間程したころにヴァルが。
二時間半前後に根本と樹里の動きが悪くなってしまった。
特に根本は既に超能力も尽きているので、魔法剣を下においてメイスのみで戦っている。
直に握れば魔石の魔力を使って魔法剣も使用できるのだが、使い慣れたメイスで戦う事にしたようだ。
「うー、まだッスかあ!?」
荒い息を吐きながら根本が泣き言を上げるが、残念ながらまだ敵はうじゃうじゃいる。
ゴブリン達は単体の能力が低いせいか、仲間が次々にやられるような状況でも、とにかく数で押して来ようとするようだ。
仲間の屍を乗り越えて襲い掛かってくる様子は、襲われてる方からしたらなかなか怖いものがある。
今は俺や沙織がいるから根本らも平静を保っていられるが、そうでなければとっくに血路を開いて逃げ出してる頃だ。
「あー、もう! めんどいからそっちからかかって来なさい!」
態々ゴブリンの下まで移動するのもだるいのか、樹里は近づいてきたゴブリンだけを捌いている。
最初の張りつめていた時に比べ、大分体の力も抜けている感じだ。
大分お疲れモードが漂っているが、俺はこれも良い経験だと思ってそのままにしている。
軍隊の訓練なんかでは、こうして限界まで追い込んだりする事があるらしいが、それと似たような感じだ。
今回の経験を機に、体力配分や無駄な力の動きなどを押さえる術が身についたら御の字だ。
なんだかんだで、王国での訓練はキツさ的にはそこまででもなかったからな。
そして声を発する元気もなく、ただひたすらゾンビのようにゴブリンを倒し続けて四時間が経過した。
まだゴブリンはそれなりに残っているが、流石に根本らが限界っぽいので、少し本気を出す事にする。
「……うへぇ」
俺がアイテムボックスから出した十本の魔法剣を見て、根本がため息のような声を漏らす。
俺はその十本の剣を同時に念動力で動かしつつ、自分でも剣を一本手に持ってゴブリンの群れに突っ込んでいく。
ひとたび魔法剣が白い軌跡を描くと、十一体のゴブリンの首が飛んでいく。
「駆逐してやる!! この世から……一体も残さず!!」
なんだか楽しくなってきた俺はよくわからない事を口走りながら、ゴブリンを文字通り血祭に上げていった。
そんな俺に恐れをなしたのか、これまでどんなに仲間がやられても向かってきたゴブリン達が、散り散りになって逃げ始めた。
まあ大分数が減っていたのも理由なんだろうが。
「殺ったどー!」
【さすが……おやぶん…………。すごいっす……】
勝利の雄たけびを上げる俺に、息も絶え絶えながらヴァルが俺を持ち上げる発言をする。
しかし樹里と根本からは、腐ったバナナのような目線が送られるのであった。
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