第108話 新装備
ゴブリンの軍勢を
その後は磁力魔法で金属をまとめた後、炎魔法でゴブリンだけを火葬にする。
その際になんだか妙にヴァルがビビッていたんだが、ゴブリンは火が苦手なのか?
って、まあ人間でも火で炙られたらたまったもんじゃないけど、妙に怯えていた気がする。
ゴブリンを焼き尽くした後は、赤熱状態の金属を水魔法で流してからアイテムボックスに収納する。
精錬はまた旅の道中にでもちょこちょこやっとこう。
【ところでこれからどこに向かうんっすか?】
金属の回収を終え、元々の目的地に向かって移動を再開した俺ら。
その間、俺は主に新しい旅の仲間であるヴァルと会話をしていた。
【ここから南西の町だ】
【南西っつうと、ゴルダンの町っすか】
【そんな名前だったのか】
【知らずに向かってたんっすね】
【殲滅してしまえば名前なんか意味ないからな】
【うわぁ、流石親分。激ヤバっす】
……何が流石なんだろうか?
そこがいまいち掴めなかったが、その後ゴブリンの町や村を襲う事に関して尋ねてみると、あっさりとした反応が帰ってきた。
同族が根絶やしにされる事を望んでいる訳ではないが、強い相手に食い破られるというのは自然の摂理なので、それも仕方ないという考えのようだ。
【それはゴブリンでは一般的な考えなのか?】
【さー、どうなんっすかね。大体そんなもんだと思うっすけど、ゴブリンも色々な奴がいるんで】
それもそうか。
人間の中にも結構ヤベー奴はいたりするからな。
中には仲間を殺されたら激怒して襲って来るゴブリンなんてのも、いるかもしれない。
【とりあえず俺たちはゴブリンの町や村を潰しながら、西の帝国へと向かっている。襲撃の際にはお前はどうするんだ?】
【勿論親分達と一緒に戦うっす!】
【そうか。それならお前を強化してみよう】
【強化っすか?】
【そうだ。腕を出してくれ】
【はいっす】
ここで素直に腕を出してくる所が、根本との違いだな。
奴はすっかり警戒心が強くなってしまったので、一捻り加えないといかん。
【動くなよ】
俺はいつものようにナノマシンの移植作業を行っていく。
最初に磁力魔法でえらい目に会いそうになったせいか、ヴァルはまるで漬物石のように素直に固まっていた。
これは別に契約魔法による強制力ではなかったんだが、最初に尻から串刺しになりそうになったのが大分効いているようだ。
【これで一先ず終わりだ】
【へ? もう強くなったんっすか?】
【いや。お前の場合はじっくり書き換えていくことにしたから、徐々に効果が……出たらいいなといった所だ】
【よく分かんないけど分かったっす!】
ちなみにヴァルにはゴブリンロードの遺伝子ではなく、ゴブリンキングの遺伝子を参考にして書き換えを行っている。
それと俺なりにここをこうしたらいいんじゃないかって部分を、今後ちょこちょこ手入れしていく予定だ。
「あれがゴルダンの町ね!」
「流石にこれまでの村と違って大分大きいッスね」
あれから数日が経過した。
ようやく目的地であった町が見えてきたが、根本の言うようにこれまでとは規模が大分違う。
町の周囲には空堀が掘られていて、その内側には掘り出した時に出た土でも利用したのか、土壁が築かれている。
壁自体は脆そうだし、堀も野生動物に効果がある程度のものだが、それでもこれまでの村にはなかった設備だ。
「それで今回はどうなさるのですか?」
「ゴブリンの数は多いが、俺と沙織でフォローしつつ地道に殲滅していこう」
今回はヴァルが戦力として加わるが、残念な事にこの数日間の間にヴァルは進化していない。
前回と違って急激に書き換えを行っていないからだろう。
その代わりといっては何だが、今回は根本が新戦法をお披露目する予定になっている。
「という訳で根本、よろしくな」
「突然よろしくって何ッスか? 大地さんはもう少し主語の重要性を理解するべきだと思うッス」
「その腰の両脇に佩いた二本の剣の事だよ」
「ああ……これッスか。上手くいくんッスかねえ」
時系列的にはもう少し前の話になるんだが、実は根本に"神通力"というスキルが芽生えていた。
王国に居た時に根本に"鑑定"を使用した事はあったが、その時にはなかったスキルだ。
ゴブリン村を潰していた頃に、突然根本の超能力が強まったので何事かと思って"鑑定"を掛けた結果明らかになった事だ。
効果はそのまま超能力が大幅に強化されるというもの。
しかし超能力は直接的な攻撃には向いていない。
俺くらいになると念動力で相手の体をねじ切る位は出来るんだが、強化された根本の超能力でもそれは厳しいらしい。
他には発火能力で炎を生み出したり、念動力で衝撃波をぶつけるなんて攻撃方法もあるんだが、このファンタジーな世界ではそれだけでは相手を仕留めきれない場合もある。
そこで俺が思い付いたのが、根本の腰の両脇にある二本の剣。
念動力でこの二本の剣を操って敵を切りつけつつ、根本自身もメイスを持って攻撃をするという攻撃法だ。
実戦ではまだ使用したことはないが、ここまで来る道中に訓練は重ねてきている。
最初は一本の剣を操るので手一杯だった根本だが、今では二本+自分自身の操作を平行して行えるまでには仕上がった。
後々は同時に操る剣の数を増やしていけば、攻撃力もあがるんじゃないか?
ちなみに俺はこれを
きっと闇を裂いて夢を救い出してくれるはずだ。
サイコパワーだ!
「あたしも今回はこれでバッサバッサ切り倒すから!」
そう言って嬉しそうに剣をブンブンと振り回す樹里。
その手には根本が背に持つのと同じ見た目の剣が握られている。
実はこれらの剣は俺が作ったものだ。
鍛冶をするための施設なんかはないので、基本は魔法を使った鋳造みたいな作り方になっているが、それで一応簡易的な魔法剣を作る事が出来た。
お手本となる魔法の武器は、王国にいる頃に幾つか仕入れていた。
他にも魔甲機装や、城に忍び込んだ際に盗み見た文献なども、色々と参考になっている。
けど多分俺の魔法剣の作り方はちょっと力業というか、他の人には真似できない気がする。
その方法とは、鉄をドロドロに溶かして成型する段階で、魔力を大量に流し込むというものだ。
しかし鉄は魔力と相性が悪いのか、流し込んだ魔力の大部分は定着せずに大気へと散ってしまう。
そこで俺は大量の魔力をごり押しで流し込んで、強引に鉄に魔力を定着させた。
そうして作った魔力を宿した鉄を、俺は魔鉄と呼ぶことにしている。
科学的に見ると組成は鉄と同じなんだが、金属としての性質は別物だ。
ちゃんと他に名前があるかもしれんから、あくまで魔鉄(仮)ではあるが。
その他にも、柄頭の部分には俺が魔力を込めまくった魔石が埋め込んである。
以前樹里にプレゼントしたペンダントと同様のものだな。
ただし、そのまま埋め込むのではなく
ただ魔鉄で作っただけの剣では、魔鉄剣とか魔力剣でしかない。
俺が魔法剣と呼んでいるのは、この加工の工程があればこそだ。
その加工とは、使用していない時は周囲や身に着けている人物から魔力を吸収してため込み、戦闘中にはため込んだ魔力を使って剣の切れ味を上げるというものだ。
また魔力が刀身を覆うので、生物を切っても油で切れ味が悪くなることもない。
この周囲から魔力を吸収する部分は、魔甲機装に組み込まれていたシステムを応用している。
魔甲機装は大きく破損すると自動的に魔甲玉に戻ってしまい、しばらく着装が出来なくなる。
実はそのあいだの魔甲玉は、使用者や周囲の魔力を吸収して破損を修復している。
その周囲から魔力を取り込む機能だけを利用させてもらったという訳だ。
ちなみに樹里の場合は魔石から魔力を引き出す事で、自身の魔力を消費せずに魔法を使う事も出来る。
魔力バッテリーみたいな感じだな。
元々は根本用に剣を作ってたんだが、結果としては樹里の強化にも繋がっている。
沙織にも魔鉄製の槍を渡してあるし、戦力は以前より増しているハズ。
これならゴブリンの数が多少増えようが、問題ないだろう!
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