第105話 ヴァレフォールの懇願


 俺のカミカゼ神風によって、九割以上のゴブリンが真っ二つにされた。

 しかし位置が悪かったりなんだりで、まだ数百くらいは生きてるのがいる。

 あのトカゲに乗ってたゴブリンキングも、トカゲは真っ二つにされていたが上に載っていたゴブリンキングは無事だった。


 生き残ったゴブリン達は、何が起こったのか理解するのに時間が掛かっているようだ。

 大分時間が経ってから辺りの惨状に気づき、わいのわいの騒いでいる。

 ってそんな可愛い感じではないな。

 まさしく阿鼻叫喚といった感じだ。


「ちょっと残った奴らを蹴散らしてくるわ。今回お前達はそこで休んでていいぞ」


 すでに敵の戦意はほぼゼロといった所。

 先ほどあれだけ息巻いてたゴブリンキングも、未だに茫然として動く気配がない。

 なので俺は近くの奴から手当たり次第狩っていく。

 今日は剣縛りはしてないので、少し離れた場所にいる奴は魔法や超能力で仕留める。


 残敵を処理しつつ目指しているのはゴブリンキングのいるところ。

 ゴブリンロードは実際に戦って、どの程度の強さかを把握している。

 一つ上となるキングがどの程度なのか。

 そいつを確かめておきたい。



【いよう、何ボーっと突っ立ってるんだ?】


【き……さま……】


 俺にゴブリンの表情の変化は分からないが、特に運動もしていないのに大量に汗をかいている辺り、人間と近い反応をするようだ。


【勘違いしていたという奴に知らしめる事は出来たのか? んん? それとも勘違いしていたのはお前の方なんじゃないのか?】


【何なのだ……貴様は!】


【人間】


【そんな……そんなバカな事があるかあ! やはり貴様、吸血鬼なのだろう!? それもかなり高位の!!】


 ほおう。

 つまり高位の吸血鬼とやらなら、今俺がやった事位は出来る。

 少なくともこいつはそう考えているって事か。

 まあ俺が同じことされても問題ないが、他の三人だと心配だな。


【くだらんやり取りは終わりだ。さあ、キングの力を見せてくれよ】


 すでにゴブリンキングの遺伝情報や"鑑定"による調査は終わっている。

 後は実際に戦ってみて肌でその実力を感じるだけだ。


【ぐ……ぬぅ】


 苦み走った声を出しつつ、手にしたハルバードで俺の攻撃を受けるゴブリンキング。

 実力を計る為に、初めは手加減をしながら様子を見る。


 少しずつギアを上げていく俺に対し、どんどん表情が険しくなっていくゴブリンキング。

 あ、なんか険しい表情ってのもなんとなく分かるな。

 意外とゴブリンの表情は人間からすると読みやすいのかもしれない。



 それで肝心の強さなんだが、そうだな……。

 回復タイプのタンゾーを除いて一番最弱とされる、俺の所有機であるキガータマンサク。

 それといい勝負が出来るかもしれない。


 まあ動かしてる奴にもよるけどな。

 俺や沙織。それから火神が操作していたら、ゴブリンキングに勝ち目はないだろう。

 あくまで目の前のこいつを基準にした場合だけど。


【ふーん、大体どんなもんかわかったよ。最後死ぬ前にさっきのゴブリンを従えた能力? について教えて欲しいんだけど】


【……ほざけ】


 お?

 ゴブリンってイメージ的に姑息だったり、危なくなったらすぐ逃げ出すようなイメージあったんだけど、こいつは少し骨があるな。


【ぐああぁっ!】


 まあ関係なく殺すんだけど。


 さて、俺がゴブリンキングとやり合っている間に、他の生き残ったゴブリン達は四方八方に逃げ出していったようだ。

 ただ腰でも抜かしたのか、その場を動かないゴブリンもいる。

 よしよし。

 ならば仲間の下へ送ってやろう。


 俺は仏の心を持ってゴブリンに救済をもたらしていく。

 南無阿弥陀仏、仏説摩訶般若波羅蜜多心経、妙法蓮華経。

 さあ、救ってやろう。この残酷な世界から解放してやるのだ。



【ギャアアアッッ!】


【ごふぁ!?】


 先ほどまではただ軍団が移動するだけで大きな音を立てていたというのに、今や戦場には静かにゴブリンの叫び声だけが響き渡るのみ。


【う、うわああ!? 殺すのは勘弁して欲しいっす!】


 ……ん?


 なんか今ちょっと変わった奴が混じっているな。

 ええと……、あのゴブリンか。


【今のはお前が言ったのか?】


【は、はい! そうっす!】


【そうか。よかったな? ちょっと遅かったらお前も流れ作業で殺してたぞ】


【う、それはイヤっす……】


 妙に根本イズムを感じるこのゴブリンは、俺の右斜め前方一メートル程の場所にいた。

 あと少し遅かったらなます切りにしてた所だ。


【お前、名前は? それと、見た感じウォリアーとはちょっと違うな。クラスは何だ?】


【おいらの名前はヴァレフォール。クラスはゴブリンナイトっす】


【ゴブリンナイト?】


【えーと、ゴブリンロードとゴブリンウォリアーの中間位のクラスっす】


 そうなるとゴブリンの中では大分上の方のクラスだと思うんだが、こいつの態度からはそうしたもんが見受けられないな。

 さっきのゴブリンキングなんかは一人称が「我」だったぞ。


 しかし、「ヴァレフォール」とか名前だけは妙にかっこいいというか、ゴブリンらしくない名前だな。

 なんだか一々俺の琴線に引っかかる。



【で、お前は救済を拒むという事か?】


【きゅ、救済って何のコトっすか?】


【体を真っ二つにしたり、心臓を撃ち抜いたりすることで、この世界から救ってやろうという俺の慈悲だ】


【ぎゃー! それは救済じゃなくて虐殺って言うんっす!!】


 おお?

 このゴブリン……良い!

 何故か知らんが妙にしっくり来るぞ。


【そうか、ゴブリン達の間ではそう呼ぶんだな。それなら、お前。俺と契約を結ぶか?】


【……けーやくって何っすか?】


【なあに、心配いらない。痛くないぞ】


【体を真っ二つにしたり、心臓を撃ち抜いたりするんじゃなければ良いっすけど……】


【お、そうか? よし、じゃあまだ完成はしてないけど、ついでにお前で最終調整をするとしよう】


【なんか早速嫌な予感がしてきたっす】


 新しい実験体を得た俺は喜々として契約魔法を行使した。

 さっきも契約を結んでいたゴブリンがゴブリンキングの命令に逆らえていたようだし、最低限俺の意図する魔法は出来上がってると思う。



【よおし、じゃあヴァレフォール……は長ぇからヴァルでいいな。ヴァル、お前は今日から俺の従魔だ】


【……ホントに痛くはないんっすね】


【言っただろう? まあ、後で痛い目に会うかもしれんけど】


 あ、でも今度は短期間で遺伝子を書き換えるのはやめて、少しずつ書き換えてみるか。

 そうすれば前の時みたいに叫び声をあげる事もなかろう。

 じっくり書き換える事で、前とは違う結果がでるかもしれないしな。


【ひいぃっ。後からそういう事言うのはひきょーっす!】


【はっはっは……】


 相手はゴブリンなんだが、既に今の段階でこいつとは楽しくやってけそうな気がしてきたぜ。

 さて残りのゴブリンは……っと。


【む、生き残りのゴブリンがいなくなってるな】


【おいらと話してる間にみんな逃げてったっす】


【……俺を足止めしてたのか?】


【へっ? 何でそんな事しなくちゃいけないんっすか?】


 この様子だと仲間を逃がす為とかそういうんでもないらしい。

 ゴブリンには同族意識が余りないのかもしれん。


【まあ、いい。行くぞ】


【はいっす!】


 こうして俺は新たなゴブリンおもちゃを手に入れるのだった。


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