第100話 ゴブリン実験
「コボルド族ねえ」
「ファンタジーな世界では定番な奴ッスね」
「そうなのですか? 私はあまりその辺りの事知らないのですが……」
二人に話を聞いたところ、どうやら彼らは獣人ではなくコボルドだという。
コボルドもゴブリンと同じく『進化』していくものらしいが、二人は普通のコボルドだそうな。
上のクラスにはコボルドチーフとかコボルドメイジとかがあって、ゴブリンと似たような感じに進化してくらしい。
【で、その進化ってのはどういうもんなんだ?】
【それはよく分からない。訓練して進化する奴もいれば、敵を倒しまくって進化する奴もいる。何もしないでも、年を取っていく内に進化する奴だっている】
【つまり、進化の条件がハッキリしてないという事か】
【そういう事だ】
ふうん、進化ねえ。
これまで倒した各種ゴブリンの体を調べてみたけど、まるっきり違うって訳でもない。
見た目では大きな違いはあるけど、人間で言う背の高い低い、肌の色の違いのようなもんで、遺伝子的にみると同じ種に含めてもいい範囲だ。
実際に進化した後と前でも、交配は可能なようだからな。
【まあ、その事はもういい。次はこの村の武器庫や食糧庫などの場所に案内してくれ】
【わ、分かった】
この村はゴブリンが千体以上いるような少し大き目の村だったが、コボルド君の案内でそれなりに効率よく回る事が出来た。
奪った物を次々とアイテムボックスへと収納していく。
ちなみに武器やくいもんだけでなく、ノスピネル王国のものとは異なる貨幣や、ちょっとした装飾品なども稀に発見している。
「ほんとその魔法って凄いわね。あたしも覚えられないかな?」
次々と収納していく俺のアイテムボックスを見て、樹里が羨ましそうな目をする。
しかし、俺のこのアイテムボックスはちと普通じゃないからなあ。
「うーん、難しいと思うぞ。独力でそれっぽいのに仕上がってはいるが、他人に教えるとなると下手すると教えた相手が死ぬ」
「うえぇ!? どーゆーアレなのよ!」
「俺も最初失敗して、光も空気も何もない空間に吸い込まれてビビッたからな」
「その環境でビビるだけで済むってのがそもそもおかしいッス」
いや、あれはマジでビビったんだって。
ブラックホールに吸い込まれたのかと思うような感覚だったわ。
ちなみにコボルド君達は、俺が次々とものを収納しているのを恐怖の表情を浮かべながら見ている。
そこは驚きの表情じゃないのかね?
「大地さん。魔民族の方達はどうしますか?」
とりあえず物資は回収したが、今回はまだ魔民族とは接触していない。
これまでの傾向からして、襲撃を掛けた後だからなのか大体魔民族は一か所にまとめられている。
ただこの村は規模が大きいので、一つの建物では収まりきらない位いそうだな。
「んー、めんどいから放置で」
これまた今までの傾向なんだが、ゴブリンを殲滅した後の魔民族の反応はどれも鈍い。
解放されたと喜んだりする様子がないのは、新たに表れた
これまで殲滅してきた村の魔民族は、その後どうしているのかねえ。
「分かりました。ですが、この村は大きいせいか討ち洩らしたゴブリンがまだ村内にいますね」
「それ位なら魔民族たちでもなんとかなるんじゃねーか? 別に俺たちは慈善事業をしてる訳では……あっ」
「うっ、何かろくでもない事思い付いた時の顔してるッス」
「失敬だな根本君。これはちょっとした探求心なのだよ」
「そういう口調になってるって事はやっぱそういう事ッス……」
ううむ、どうも根本は何でも物事を深刻に捉えがちな気がする。
もっと単純に物事考えた方がハッピーになれると思うぞ。
「これは今後の事も考えて実験しておきたい事の一つだ。という訳で、ちょいと活きがいいゴブリンを五、六体捕まえるの手伝ってくんねーか?」
「うぁ、人体実験ッス。解剖ッス」
「えぇぇ!? 大地、ほんとにそんな事すんの?」
「そんな事する訳ないだろ」
ゴブリンは人間じゃないから人体実験ではないし、俺にはスキャンがあるからわざわざ解剖する必要もない。
「では捕らえてきます」
「おう、頼む」
疑問を挟むことなく沙織が応じると、仕方ないといった様子で樹里と根本も動き出す。
そして数分後には俺の下に活きのいいゴブリンが集められた。
「それでこのゴブリン達で一体何をするのですか?」
「ん? ああ。これまでゴブリンを倒してきたが、その際に俺はこいつらの遺伝情報についても調べていてな」
「そのような事まで出来るのですね」
「ああ、俺の体には色々なセンサーが埋め込まれている……というか、俺の体そのものがセンサーのような……、まあそんな感じなんだ」
「流石大地さんですね」
「いや……、そんな言葉で片付けられるような説明じゃなかったと思うんッスけど……」
根本が何か言っているが、引き続きこれからやる実験についての説明を続ける。
「でだな、その遺伝情報を調べた結果、ゴブリンもゴブリンメイジも基本的にはゴブリンという同じ種族だという事が判明している」
「人間でも魔法を使えるのとそうでない人がいるみたいなもんね」
「まー、そんなとこだ。ノーマルクラスと進化したクラスではそういった差異が遺伝情報にも表れている」
人とは異なる種であるが、検体数も多かったから科学的に見たゴブリンの遺伝情報の解析は終っている。
ここを弄れば特定の病気に強くなるだとか、背が伸びやすくなるだとか、そういった調整をする事もナノマシン経由で可能だ。
「そうした遺伝情報を人為的に書き換えてやる事で、ここにいるノーマルゴブリンを進化させる事が出来るのか。これが今回の実験内容だ」
「遺伝子を調べるだけじゃなくて、書き換える事も出来るんですね」
「え? それって遺伝子組み換えとかいう奴よね? あんま良くないんじゃないの?」
「樹里が言ってるのはもしかして食品の原料表示の部分の事か?」
「そうそう。なんかわざわざ『遺伝子組み換えでない』なんて書いてあるって事は、組み替えた方が良くないって事よね?」
まさか樹里がそんな所を気にしてるとは予想外だ。
でも言いたい事は分からんでもない。
「そうは言うけどな。法的には確か遺伝子組み換えのものが混じっても、5%以下なら『遺伝子組み換えでない』と表記してもいいハズだ」
「えっ! マジでッ!?」
こういった表記による誤解って結構多いんだよな。
普通に暮らしてるとそんなに気にならないけど。
「それに、俺がこれから行うのは遺伝子組み換えじゃなくて、遺伝子の書き換え。所謂ゲノム編集って奴だから論点が少し違うぞ」
「げろ……げのむへんしゅー?」
「そうだ。ほら、そんな事よりさっさと実験を開始するぞ」
俺はそう言ってアイテムボックスから陶器で出来た瓶を取り出す。
「それなんなんッスか?」
「これには俺の血が入っている」
「……なるほど」
ナノマシンを移植するっていう機会が増えたので、専用に用意したものだ。
まあ別に体外で培養するなら血でなくてもいいんだけど、最初に瓶の中に俺の血を入れたので、以降は瓶の中に材料として適当な
ヨーグルトを食べた時に一部を残しておいて、そこに牛乳を混ぜる事でヨーグルトを作るみたいな感じだな。
元々は俺の血だけど、有機物を原料にナノマシンを増殖させつつ、媒体となる液体の方も増産する感じだ。
こうして俺のナノマシンは、この陶器の瓶の中で増殖していく。
「そんじゃあ、こいつらの腕をサクッと切ってえ……」
言いながら魔法で軽く腕の部分に傷をつける。
「んでもって、そこに
色々なものを突っ込んだせいか、すでに血の色とは少し違う感じになってるが、別にこれでも害はない。
液体の部分じゃなくて、肝心なのはナノマシンだからな。
「これで準備は完了だ。後はナノマシンが体に馴染むのを待って、実験開始といこうか」
さあて、どうなるかな?
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