第99話 新種発見


 最初にのゴブリン村を発見してから一週間程が経過した。

 その間に俺達は更に二つのゴブリン村を発見し、これを殲滅していた。

 そして今俺達の前にはそれなりの規模の村……人間からしたら小さな町といった規模のゴブリン集落が見える。


「ちょっとぉ、あれは規模が大きすぎるんじゃない?」


「あれだけの規模ですと、上位クラスがいそうですね」


 沙織がいう上位クラスとは、ゴブリンロード以上の連中の事だ。

 ノスピネル王国にいる時も軽くその辺は習っていたんだが、どうせ本人……本ゴブリンがいるんだから、実際に彼らに聞いてみたほうが話は早い。

 ということで、俺は二つ前のゴブリン村で聞き取り調査を行っていた。


 その親切なゴブリンさんの話によると、俺たちが進む方向には今目の前にあるような大きな集落も増えてくるようで、そうなるとロードクラス以上のゴブリンがいる可能性が高くなる。

 というか、一定規模以上のゴブリン村は、大抵ロードクラスが治めているものらしい。


 ちなみにクラスというのは、魔族の職業というか特性を現わす名称だ。

 王国でも使われている「ゴブリンメイジ」だとか「ホブゴブリン」だとかいうのは、ゴブリンという種族に於けるクラスの一つだという。

 このクラスというのは、『進化』という現象を経て変化する事もあるらしい。


 それと今いる場所からずっと南西に行った場所には、『ギルガ』の首都がある事が判明した。

 ギルガというのはこの辺りのゴブリン国の名前で、ここより北に『グルガ』というゴブリンの国があって、両国は元々一つの同じ国だったみたいだ。


 話を聞いたのが少し知能の高いゴブリンメイジだったせいか、思いのほか情報を得る事が出来た。

 ノーマルゴブリンだと会話がそもそも片言だしな。

 情報を教えてくれたゴブリンメイジは、慈悲の心を持って生かしたまま開放してある。

 ……魔民族が十人以上いたから、今頃どうなってるかは分からんけど。



「それでどうするんッスか? いつもみたいに正面から行くんッスか?」


「あたぼうよ!」


「うっ……。でも流石にここは数多そうですよ? 下手すれば千体以上いるんじゃ……」


「ゴブリン無双の始まりだな!」


「そんなゲームみたいに……。大体その名前だとゴブリンが無双するみたいに聞こえますよ」


 相変わらず根本はこういう時に及び腰だ。

 道中に三人共各種訓練を行っているので、根本もゴブリン程度相手なら十分に戦えるようにはなっている。

 特に超能力の伸びがよいので、何度か根本のナノマシンのプログラムを調整している程だ。


「大丈夫! お前も一対一ならゴブリンロードにも勝てる位にはなってる。それ以上となると、キングかエンペラー。或いは特殊進化の奴くらいだから、行けるって!」


 俺が見た所、三人の中で一番近接戦闘力が低いのは根本だが、超能力を使えば魔法で身体強化した樹里を超える。

 まあ樹里の魔法火力を考えると、総合戦闘力では根本が最下位になるけど。


「うううん、やるっきゃないんスね……」


「うむ。やるっきゃナイトだぞ!」


「そうよ! ゴブリン程度ならあたしが蹴散らしてやるわ!」


 樹里は相変わらず相手が人間でなければ頼もしい限りだ。

 同じ人型には違いないと思うのだが、そこは何故か割り切れているらしい。

 ……もしかしたら、あの時の初実戦任務の記憶が頭に残っているせいかもしれん。


「じゃあいつも通り、俺は単独で動きつつフォローをしていくから、お前達は三人一組になって動いてくれ」


「うぃッス」


「分かりました」


「任せて! あ、でも今回の村は大きいから先に魔法で仕掛けてもいい?」


「好きにしな」


「よしきた! 派手にぶちかますわよ!」


 腕の袖をまくり上げそうな程にヤル気満々な樹里。

 この村は周囲が簡単な木の柵で覆われていて、異変に気付いたゴブリン達が門前に集まってきている。

 そちらの方に一歩先に出た樹里が、魔法の詠唱を開始する。



「セス、ブルランタージェ、ファジログロボジョー。フォルブルヌ、ヴィアジン、マレェミカン、カジルダヌ、シオン、アル、シンドロポルヴォ!」


 詠唱が終わると樹里の近くに六つの炎の玉が出現し、それらが門前に集まってきていたゴブリンやゴブリン村の中へと打ち込まれる。


「うひゃあ、何度見ても笹川さんの魔法はヤバイッスね」


「今の魔法だけで数十体は倒せたのではないでしょうか」


 確かに樹里の魔法はなかなかえぐい。

 現代日本では近代兵器でもっとやばい兵器も存在するが、この世界では十分な火力だな。


 この世界の魔法は大体の威力や効果によって、クラスⅠからクラスⅩまでの十段階の位階に分けられているけど、今の樹里の魔法はクラスⅤ位はあるんじゃねーか?


「ふふーん、どーんなもんよ!」


「威張ってる場合じゃないぞ。相手も反撃してきてる。根本、サイキックバリアー念動盾だ」


「これそんな名前ついたんッスね」


 そう言いながら、根本が飛んできた矢を弾く障壁のようなものを超能力で生み出す。

 前は一本一本無効化していたが、こっちの方が大勢相手にはいい。

 その分負担は大きくなるけどな。


 根本のサイキックバリアー念動盾に守られながら、俺たちは門前のゴブリン集団の下に突っ込んでいく。

 ただサイキックバリアー念動盾は純粋な魔法の攻撃には対応していないので、魔法攻撃に関しては樹里と俺で散らしていく。

 ゴブリンメイジの使う魔法程度なら、樹里も簡単な詠唱で無効化が可能だ。


 そうしてゴブリン達に取りついてしまえば、後はいつも通りの虐殺タイムだ。

 最初の時はあんだけ取り乱していた根本も、今はハンマーでワニを殴る筐体ゲームの如く、メイスでゴブリンの頭をかち割っている。


「あっ! アレッ!」


 ゴブリンを血祭に上げていると、樹里が声を上げる。

 その視線を辿ると、そこにはゴブリンより少し背の高い犬の顔をした亜人がいた。

 よく見るとその周囲にも同じ奴がちらほら見える。

 魔民族と同じようにゴブリン達には逆らえないのか、武器を手に俺たちの方へと向かってきている。


「一人は生け捕りにして話を聞くぞ!」


 見た感じ獣人の子供のようにも見えるが、全員が同じ身長だとすると、あれで大人なのかもしれない。

 にしても同じ人型の亜人種族なのに、ゴブリンの場合は無意識に~体と数えてしまうけど、ああいうタイプになると~人と数えてしまうもんなんだな。


 そんなしょうもない事を考えながら一時間半ほど戦い続けた結果、この集落のゴブリンを殲滅する事に成功した。

 今回は流石に数が多かったので、随所で俺も魔法攻撃で敵の数を減らしている。

 あの獣人っぽいのも二人ほど生きたまま捕らえる事が出来た。



「今回はまた一段と派手にやったわね」


「最初に派手にやったのは一色さんではないですか?」


「あはは……、でもあれで少しは楽になったっしょ?」


 俺たちの周りはまさに死屍累々といった有様だ。

 試しに周囲をスキャンした所、千体以上のゴブリンの死体があった。

 その内半数以上は、俺と樹里の魔法によるものだ。


 炎の魔法による肉の焼けた臭いや、風の魔法で切断されたゴブリンの死体などが、辺りに散らばっている。

 そんな中でも普通に会話を出来る位、三人とも順応している。

 沙織に関しては元々肝っ玉が太かった気はするけど……。


「なにか?」


「いや、なんでも」


 そんな事を考えてたら、沙織から声を掛けられてつい焦ってしまう。

 チラッと見ただけなのに、こういう時の沙織の反応は妙に鋭い。


「ねえ、今回も村を漁るの? 流石にこんだけ大きいと大変そーなんだけど」


「食糧庫とか倉庫とか、そういった所があればいいんだが……。あー、そうだ。せっかくこの二人を生け捕りにしたんだから、二人から話を聞こう」


 そう言って俺が視線を向けると、二人は尻尾が下にぺたんと降ろし、硬直したままこちらを見ている。

 種族が違っていても、どんな感情なのかはその仕草だけでも伝わってくる。


【お前達に話がある。この村の事について聞きたいんだが……その前にお前達自身の事について教えてくれ】


 自分たちの理解出来る言語で話しかけられたせいか、二人は少し落ち着きを取り戻したようだ。

 恐る恐るといった状態だったが、俺は彼らから話を聞くことに成功した。


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