第98話 ゴブリン村調査
「あ、大地さん。その倉庫みたいなとこはなんかあったんッスか?」
やはりこの建物は俺以外の奴から見ても倉庫に見えるらしい。
「ああ。中に魔民族が数人いてな」
「……それって例のアレですか?」
「例のアレだ。まあ怯えてたせいか、目の事はそんな気にならなかったけどな」
まあ魔民族っつっても、どの魔族に飼われてるかで違いがあるのかもしれない。
「その人達はどうするんッスか?」
「どうもしねーよ。村で適当なもん漁ったら出ていくって言っといた」
「はぁ、そうですか」
なんだ? 根本の奴、魔民族が気になるのか?
「奴隷として連れてきたいなら、お前の責任の元好きにすればいいぞ」
「えへぇ!? いや、そんなつもりないッスけど」
「そうか? なんか気にしてたようだったが」
「ちょっとした好奇心って奴ッスよ」
一度も見た事がないならそれもおかしくはないか。
身体的な構造はほんと近いんだけどな。
この事に関しては本当に謎だ。
俺はこの世界に来てから魔民族を含め、
俺ら地球出身の人間を加えると、全部で四種類って訳だな。
この四つの人族は、遺伝的、肉体的に見て明らかに起源が別になるんだが、共通部分が多い。見た目だって、ほぼ同じだ。
俺はそれらの内、地球出身の俺達を除く三つのタイプの現地人を、α、β、γの三つに分類する事にした。
ノスピネル王国に多かったのはαタイプで、魔民族がγタイプだ。
ただ四つのタイプの中で、王国でたまに見かけたβタイプの人族だけは少し特殊な遺伝構造を持っているのが気になる。
もっと調査母数が増えれば、どういった違いがあるのかハッキリしそうなんだが……。
「――で幾つか持ってこようと思ったんですけど……って聞いてます?」
「聞いてるよ。食糧庫を見つけたって話だろ?」
「そッス。大地さんならアイテムボックスでそのまま収納出来るんッスよね?」
「そーだな。ゴブリンの食料ってのが気になる所だが、調べてみるか」
「んじゃ、案内するッス」
村はそれほど広くはないが、根本に案内されて食糧庫とやらへ向かう。
その途中、右脇にあった家から大声を上げて樹里が出てくる。
「いいぃやあああぁぁぁっっ!!」
そして勢いよく俺たちの方に走ってくると、先ほど出て来た家を指差す。
「あ、あ、あそこの家がば、バラバラで……」
確かに家はボロボロの粗末な家といった感じだが、バラバラになっている訳ではない。
それとも内部がバラバラになっていて足を踏み外したりでもしたのか?
しかしよく見ると、樹里は鳥肌をたてているようだ。
……これはもしかしたらもしかするな。
「ちょっと見てくるわ」
「え、えぇ……。いってらっしゃい」
根本もピンと来たのか、唇をヒクつかせながら俺を見送る。
俺は別に調べる必要あるのかなーと思いつつも、樹里の出てきた家の中へと入る。
扉は小さめでゴブリンサイズといった所だが、人の背丈でも入れない事はない。
ゴブリンロードや魔民族は身長も普通の人間と同じくらいなので、どこの家もそれを元に家を建てているようだ。
中へ入ると、早速俺の予想が的中した事に気づく。
というか、家にある程度近づいた段階で匂いで気づいてはいたんだけど。
家の中はほとんど部屋割りもされておらず、山小屋といったような雰囲気をしている。
そしてその部屋の隅には調理場が設置されていて、その近くには食材が
「……リアルスプラッター映画だなこりゃ」
血の匂いがまだしているので、比較的新鮮な食材なんだろう。
まあ幾ら新鮮でも俺は食べるつもりはないがね。
さて、他に何か気になるものはないかな?
先ほど目にした食材の周りには、
「となると、錆びた包丁くらいしかめぼしいもんがないな」
包丁も鋳つぶせば素材になるから一応回収しておくか。
表のゴブリン共の死体からも、すでに金属製のものは剥ぎ取ってある。
「こんなもんか」
めぼしいもんを漁った俺は、家を出て樹里と根本の元へと戻る。
「あの、どうだったんですか?」
「んー? 根本君、それを聞きたいのかね? なら詳細に話してやってもいいのだが、君は聞きたいというのかね?」
「え、いや、別にいいかなあ……なんて」
確かに中は酷い状況ではあったが、今の根本なら樹里程ショックは受けないんじゃないか?
だがこうして脅してやると、途端にビビリ出すのが面白い。
その後、合流した三人で食糧庫へと向かう途中、沙織とも合流を果たす。
「大地さん。二、三軒見て回りましたが、特にこれといったものはありませんでした」
「ん、そうか。今俺たちはこの先にある食糧庫っぽい所に向かう途中だ」
「そうでしたか。では私も一緒についていきます」
そう言って沙織は俺の少し後ろをついてくる。
これは今だけに限らず、いつも一緒に歩くときは俺が注意しない限りこんな感じだ。
流石に、昔の日本女性のように三歩後ろという程ではないが、絶妙な距離を開けて沙織は後につく。
これも幼いころから受けていた教育の成果なんだろうか。
「あ、あの建物ッス」
それは魔民族たちがいた倉庫と、どこか似た造りをした建物だった。
中は確かに食糧庫のようで、単に食材を収めるだけでなく加工した食品も見受けられる。
俺は"鑑定"のスキルを持っているが、そもそもの火星人の肉体改造によって物質の組成を調べる機能が追加されている。
この機能を"鑑定"とリンクさせる事で、使い勝手がかなり増した。
「これとこれと……これはいらんな」
そうした機能を使って食材に適したものを仕分けしていく。
「あ! ねえ、大地見てみて!! こんな所にビーフジャーキーがあったよ!」
その途中、樹里が嬉しそうに発見したものを持って見せに来る。
俺はそれをチラッと樹里が手にしたモノを見て、鑑定結果を樹里に伝える。
「樹里。それはビーフジャーキーじゃなくて、ヒューマンジャーキーだぞ」
「びいぃやあぁぁ!!」
指摘するとどっかの芸人の一発芸のような声を上げながら、樹里が手にしたソレを放り投げる。
「……魔族の村では肉系は要注意ッスね」
全くだ。
その後、一通り食料を接収した俺たちは食糧庫を出る。
さあって、こんなもんでいいか。
もっとマシなもんがあれば漁り甲斐もあるんだが、ゴブリン村ごときにそれは期待できんようだ。
「ほれ、ぼちぼちこの村を出るぞ」
「えー? もう行くのー? せっかくの村だし一泊くらいしてってもいーんじゃない?」
「そうか? じゃあ樹里はあの家でゆっくり――」
「なーーんて、ウソに決まってんじゃない! さ、行きましょ!」
よっぽどあの家の光景がショックだったんだろうか。
樹里は百八十度意見をひっくり返す。
「そこまでの反応をされると、逆にどんなだったか気になるッス……」
何なんだろうな?
人間のこの怖いもの見たさみたいな奴。
ふとそんな事を考えつつ、俺たちはゴブリン村を後にした。
魔民族の連中は、キッチリ俺らが村から出ていくまであの倉庫っぽい建物に留まっていたようだ。
強者に対する奴隷根性が染み付いているんだろうか?
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