第97話 ゴブリン村制圧
【グガ!? ヤツラ、ヤがキカナイゾ!】
【イイカラ、ウテ! ウッテ、ウチマクレ!】
俺の耳がゴブリン達のそんな言葉を聞き取るが、それはもう遅い。
すでに俺達は入り口前まで辿り着いていた。
「セイヤ! ソイヤ!」
俺はプラーナを纏ったブロードソードでゴブリンを切りつけていく。
剣の保護をするだけの最低限の力にとどめ、プラーナの力自体を攻撃に転用しないようにしている。
ゴブリン相手にそこまでする必要がないというのもあるが、これも訓練訓練。
辺りを見渡すと三人共次々とゴブリンを仕留めていくのが見える。
根本の動きはまだ少し硬いが、沙織と樹里の動きは普段の訓練と同じくらいには動けていた。
「ちょっと、大地! 何よその気の抜ける掛け声は!」
「気合が入っていいぞ? エッサ! ホイサ!」
俺は樹里に答えながらゴブリンを屠っていく。
掛け声だけ聞くとふざけているように見えるかもしれないが、きちんとゴブリンは仕留めている。
まあ、ふざけてるんだけど。
「あ、根本。そこ危ないぞ」
「えっ?」
俺が指摘すると反射的に根本は数歩後ろに下がる。
するとさっきまで根本がいた辺りを、土の砲弾のようなものが通り過ぎた。
「ヒイイィィッ! ま、魔法ッスか!?」
「のようだな」
俺たちが以前村でゴブリン達と戦った時は、ホブゴブリンっぽい奴らはいたが、魔法を使ってくるゴブリンはいなかった。
だがこの規模の集落となると、バリエーションも増えるようだ。
「フゥッ!」
魔法は厄介かなと動こうとした俺だったが、その前に素早く沙織が動き、一瞬で距離を詰めてゴブリンの魔法使い――ゴブリンメイジを仕留める。
「ふー、助かったッス!」
ふむ。
俺が手を出さずとも、中々コンビネーションは悪くないかもしれん。
樹里が前に突っ込み、根本がその後をおっかなびっくり付き従う。
そしてその二人をフォローするかのように沙織が立ち回る。
まあ樹里は本来後衛ポジなんだけど、この程度の相手なら問題なかろう。
魔法使いが物理戦闘力を高めるのも悪い事ではない。
その後も戦闘は一時間ほど続き、何匹かのゴブリンメイジとホブゴブリン。
それからゴブリンウォリアーと呼ばれていた奴と、ゴブリンロードと呼ばれていた奴などを仕留めた。
ゴブリンロードはこの村の村長的立場だったらしく、これまでの片言な言葉ではなく少し流暢な言葉を使っていた。
というか、そいつの言葉を聞くまではその片言の言葉こそが正式な魔族語なのかと思ってたが、どうも違うようだ。
【ニゲロ! コイツらキケン!】
【バカイウナ! オレ、タタカウ!】
【カッテにシヤガレ!】
などと途中で離脱し始めるゴブリンもいたのだが、おおよそ八割近くのゴブリンは最後まで俺達に向かってきていた。
「なーんでこうも向かってきたんッスかねえ」
「はぁっ……、まったくよ! 剣はすぐにただの鈍器みたいになっちゃうし……」
基本的にノーマルゴブリン相手なら楽勝だったんだが、なんせ数が多かったし少しだけ強いホブゴブなんかも混じってたので、樹里と根本には少し疲れが見える。
だが二人ともケガを負ってはいなかった。
これもナノマシンによる肉体強化と訓練の成果だろう。
ノスピネル王国にいた頃だったらこうはいかなかったハズ。
「それじゃあ手分けして家探しするぞ」
「りょーかいッス」
「では私はこちらの方を……」
「じゃああたしはあの一番デッカイ家を見てくるわ!」
すでに襲い掛かってきたゴブリンはほぼ全て倒してある。
残った奴らも村の外に逃げ出すなりしていた。
俺のセンサーでも、村の中にゴブリンの反応はない。
しかし、
「この建物か」
それは一見、家というよりは倉庫のような見た目をしていた。
他の家もそうなのだが、全体的に粗末な木の造りで出来ており、嵐にでも巻き込まれたら簡単にぶっ壊れそうな感じだ。
「「「――っ!」」」
粗末なドアを開けて倉庫っぽい建物の中に入ると、怯えたような幾つもの視線が向けられる。
王都で見かけて以来久々に見る魔民族は、部屋の隅っ子の方に固まっていた。
王国では、魔族国での魔民族の扱いがどういったものなのかかを聞いている。
だが実際に見た彼らの様子は、俺の想像していた「最低環境で働かされている奴隷」よりはマシな感じだ。
ぶくぶくと太った奴は流石にいなかったが、ボロながらも衣服は与えられていて、寝床と思しき場所には藁が敷き詰められている。
王都のスラム街と同程度の生活は送れているようだ。
以前は気になった奴らの目だが……、今は怯えているせいか目を合わしてこないな。
ただ軽く見た感じだと、そこまでは気にならない……か。
やはりあの時は、直前に聞いた人食いのインパクトが強かったのかもしれない。
「……さてどうしたもんか」
特に考えもなく一直線でここに来てしまったが、別に彼らに用事はないんだよな。
ゴブリンと一緒に歯向かってくるなら迎え撃ってやろう、程度にしか考えてなかったし。
ただこの様子を見た感じだと、襲い掛かって来る気配はなさそうだ。
俺たちがゴブリン達を殲滅した事を知っているのかもしれない。
【俺たちは適当に漁るもん漁ったらこの村を出ていく。逃げ延びたゴブリンもいるが、後はお前らが好きにしろ】
俺はゴブリンロードから学んだ、正式っぽい魔族語でそう言い放つ。
だがまったく彼らからの反応がない。
うん? まさかこの言葉が通じないのか?
すぐに立ち去ろうと思っていたが、少し言語の事で気になったのでもう少し話してみよう。
【俺の言葉が通じてるか? ソレトモ、コノハナシカタが、イイノカ?】
途中でノーマルゴブリンの話し方に切り替えてみる。
するとようやく魔民族の一人から返事があった。
【……いや、最初の方の言葉でええ。最後のは会話が不得意なゴブリン達の話し方じゃ】
ふむ、どうやら通じていたようだ。
大元の片言ゴブリン言語を知っていたからとはいえ、俺の言語解析能力はすぐにちゃんとした魔族語に補正出来ていたか。
【そうか。ちなみにこの言葉は魔族ならオークだろうとオーガだろうと通じるのか?】
【ワシが見た事あるのはコボルド族だけじゃが、特殊な種族以外は通じるハズじゃ】
【特殊?】
【ここよりずっと北西にはクラックオンの国があるらしいのじゃが、奴らにこの言葉は通じんらしい】
【クラックオンとはどういった種族だ?】
聞いたことがない名前だな。
なんか関節をポキポキ慣らすのが好きな種族なんだろうか。
【クラックオンは二足歩行する蟻の種族じゃ】
【蟻というと普段は地面を張って移動し、穴を掘って巣を作るアレで合ってるか?】
【それで合っとる。サイズが我らと同じくらいになってるがな】
【……そいつぁあんま会いたくねえな】
意外と魔族民からは魔族に関する情報を聞けたので、その後も少し話しを続けてみたんだが、結局他に有用な情報は余り得られなかった。
「大地さん、どこッスかあ?」
俺が魔族民と話をしていると、外から根本の声が聞こえてくる。
いい加減情報収集はそれなりに済んだし、ここを出るとするか。
【俺たちが去るまではこの建物からは出るな。なあに、めぼしいもんを漁ったらすぐに出ていく】
そう言って俺は魔民族の暮らす倉庫から出ていった。
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