第96話 ゴブリン村襲撃


「それで、樹里はどうするんだ?」


 まだゴブリン村までは一キロ程の距離があるのだが、ここから先は見通しもそれなりによく、隠れる場所がない。

 戦いに参加しないなら今いる岩陰に隠れる事になる。


「あたしも行くわ」


「そっか。じゃあお前達の武器を渡しておこう」


 そう言ってアイテムボックスから武器を取り出す。

 三人にも既に前もって伝えてあるんだが、今回は魔甲機装は使わない。

 というより、この先も積極的に使うつもりはない。


 別に今更位置情報が洩れるというのを気にしての事ではなく、単純にこの先の事を考えて生身で戦える方がいいと判断したからだ。


 魔甲機装は適正さえ合えば、子供でも一定の強さを手に入れる事が出来る。

 しかし逆を言えばその強さは固定されたものであり、技術は磨けても能力の方は基本的にそのままだ。



「樹里は剣で、沙織は槍。んでもって根本はこのメイスな」


 根本のだけ魔甲機装で使ってたハンマーとは形状が違うが、まあ武器の系統としては近い。


 そもそもマンサクタイプが土木・農業用だったように、タンゾータイプは治癒属性……というよりは金属の扱いに長けた工作用として開発されている。

 その特性を生かして他の魔甲機装を修復出来るのだが、今ではその事だけしか伝わっていないので、本来の使い方がされていない状態だ。


「この剣は炎が出ないのよね……」


 魔甲機装時の炎の剣が気に入っているのか、残念そうな樹里。


「そういった魔剣の類なんかはあるみたいだけどな。ただ望んだ性能の魔剣なんて、そこらで手に入るもんじゃなかったわ」


 根本のメイスも沙織の槍も、それなりの業物を選びはしたけど魔法効果などは付与されていないノーマル武器だ。


「大地は何使うの?」


「俺か? 俺も剣だよ」


 俺は自分の武器を取り出す。

 これも樹里のとそう大差はない、多少頑丈なだけのブロードソードだ。


「ふーん? 鍬じゃなくていいの?」


「あれはあれで、『武装』で出した奴は頑丈でいいんだけどな。武器は色々試して気分で変えていこうと思ってる」


 ああ、そうだ。

 剣を使うなら樹里に一つ注意点があった。


「ところで樹里。その剣は切れ味重視で選んだが、その切れ味のよさを維持できるのは最初の内だけだ。そこを気を付けておけ」


「はっ? どういう事よ?」


「料理の時に包丁で肉を切った事はないか?」


「なるほど! 確かにものによってはすぐに切れ味が悪くなるッスね」


「え……、そーなの?」


「そーなんだよ。刃の部分に油がこびりついてな。だから斬る相手によっては大丈夫だったりする」


 きっとこの世界なら、無機物の魔物とか植物魔物とかもいる事だろう。



「でも大地も剣を使うんだよね?」


「俺の武器は斬るというより叩き切る剣だから、切れ味はそこまで重要じゃない。そもそも俺はプラーナで刀身を覆って攻撃出来るから、切れ味が悪くなる事はない」


「気ってそんな事も出来るんだ?」


 旅の道中に三人同時にプラーナの訓練をしているんだが、一番進行が速いのが沙織で次が樹里だ。


 俺の場合、誰かから教えを乞うことなく自力で開門までこじつけたので、取得までにはかなり時間がかかってしまった。

 だが沙織なら俺の時の経験を元にアドバイスをしていけば、近い内に開門までいけるかもしれない。


「ああ、プラーナでの身体強化フィジカルライズは魔法の身体強化より強力だ。その分プラーナというのは放出――つまり遠距離の相手に攻撃するのは向いていない」


「そこはあたしの魔法の出番ね!」


「そういうこった。両方を極めれば近距離、遠距離共に強くなれるぞ」


「それはいいわね。あたしの世界の魔法師はそこが弱点でもあってね。幾ら凄腕の魔法師でも、不意を打たれて銃弾を撃ち込まれたらそれでおしまいなのよ」


 この世界に銃なんて使う奴がいるか分からんが、プラーナ使いと対峙すれば魔法を使う間もなく詰め寄られる事もあるだろう。

 そん時にプラーナが使えるのとそうでないのとでは、雲泥の差が出る。


「ううん、僕も早くプラーナってのを身に着けたいッス」


 三人の中では一番プラーナの習得が遅れてる根本。

 だがジワジワと超能力の方は高まっている。

 今では念動力で相手の動きを阻害する事が、出来るようになっていた。


「お前は超能力もあるからな。そっちも力入れて頑張れ」


「うーん、あれってなんか訓練するとすんごい疲れるんッスよ」


 そりゃあ体力であれ魔力であれ、トレーニングすれば疲れるのは当然だ。

 ってそんな話をしてる内に、ゴブリン村に到着した。

 当然ゴブリン達も俺達の存在には気づいていて、すでに集団になって町の入口前に集結している。




「とりあえず入り口前には魔民族というのはいないようですね」


「ただのゴブリン相手なら、あたしだって……!」


「ヒー、なんか数多くないッスか? ねえ、多いッスよね!?」


 根本だけ不安そうにしているが、女性陣の士気は高い。


「大丈夫だ、根本。ナノマシンによる身体強化で、お前の身体能力も大分向上している。素の能力だけで、百メートル走の世界記録が出せる位にはなってる」


「マジッスかっ!」


 一見ただ走るだけのようにも思えるが、技術やらフォームやら靴だとか色々な要素を組み合わせて、現代世界で人類は記録を伸ばしてきた。

 そんな努力と叡智の結晶をあざ笑うかのように、今の根本は世界記録を塗り替える事が出来る。


「だから根本。お前は真面目に練習してる選手に謝れ」


「えええっ!? それを言うなら大地さんの方がよっぽど反則じゃないッスか!」


「根本さん!」


 根本とくだらない話をしていると、沙織の警告の声が飛んでくる。

 見ればゴブリン集団の方から、根本の方に向けて矢が飛んできている。


「うひゃあ!」


「ほら根本。お前が謝罪しないから選手の皆さんがお怒りだぞ?」


「今のは選手じゃなくてゴブリンが――」


 と言ってる隙に更に数本の矢が飛んでくる。

 といっても、銃の弾丸のようにほぼ直線で飛んでくるのではなく、山なりに高い所から滑り落ちてくるような軌道だ。

 それら降り注ぐ矢を、沙織は手にした槍で捌いていく。


「そんな事言ってる場合でもないか。さ、戦闘開始だ!」


「大地さん、矢がバンバン飛んでくるの激コワなんですけど!」


「お前はせっかくの超能力持ちなんだから、このようにだな……」


 そう言いながら俺は、飛んでくる矢を念動力で止めて見せる。


「これくらい出来るようになっておけ」


「いきなり実戦ってハード過ぎないッスか!?」


 泣き言を言いながらも、何度目かには完全に制止させるには至らずとも、飛んできた矢の勢いを弱める事に成功する根本。

 勢いが弱くなった矢はそのまま下へストンと落ちる。


「やるじゃないか、根本」


「もう必死ですよ!」


 そんな会話を挟みながらも、俺たちはゴブリン達との距離を詰めていく。

 樹里は最初に防御魔法を使っていたようで、ゴブリン程度の放つ矢は彼女の柔肌を傷付けることなく、障壁のようなものに阻まれている。


「ほおう。あれなら銃弾でも防げそうだな」


 俺は感心しながらも、無造作に先頭にいたゴブリンに近づいて切りつける。

 さあて、狩りの始まりだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る