第101話 ゴブリンの進化


 あれから十分が経過した。

 予めナノマシンを培養して増やしておいたので、それなりのナノマシンを投入する事は出来た。

 とはいえ、十分に馴染ませるには本来もっと時間が必要だ。


「けど、今はそこまで時間かけるつもりもないから、とりあえずもういいだろ」


 一応大雑把に手足や胴体などには行き渡っている。

 あとは遺伝子を書き換えていくだけだ。

 とりあえず目の前にいる五体のゴブリンを、ゴブリンロードの遺伝的特徴をメインに書き変えてみよう。



【グッ、グググ……】


【ガガガガガガッッ!】


「ね、ねえ大地。なんかゴブリン達が叫び出したんだけど?」


「本来ならもっと体に馴染ませた後に、ゆっくり書き換えていくもんだからな。どっかしら無理が出てるんだろう」


 ゴブリン達が突然苦しみ出した事で、コボルド達がその場にへたり込むようにして座り込む。

 ってかもう道案内はしてもらったし、襲ってきたのもこいつらゴブリン共に捕まって強制的に戦わされてたからなんだよな。


【お前ら。もう道案内はしてもらったし、後は好きにしていーぞ】


【お、おれ達を殺したり……しないのか?】


【まあお前達も魔族には違いないが、コボルドに関する情報や道案内もしてもらったからな。お前達に関しては見逃してやるよ】


 彼らはここから大分南に行った山の向こうにある、ピョコランというコボルドの国の生まれだ。

 ピョコランは小国ながらも、近隣諸国で敵対関係にあるのがこのゴブリンの国だけらしく、細々と暮らしている。


 こうしてみると、魔族同士でも普通に敵対していたり同盟を組んでいたり、不戦条約を結んでいたりと、人間とそう変わらない感じで勢力争いをしているようだ。


【じゃ、じゃあ、俺たちは行かせてもらうぜ】


 そう言って二人は俺たちの下を離れていった。



「あれ? ワンちゃん達どっかいっちゃったけど?」


「樹里。あれはワンちゃんじゃなくてコボルドだ。大体ワンちゃんってツラでもなかっただろ」


 俺も最初は犬の獣人かと思ったが、なんつーか西洋的なデザインの獣人みたいな感じだった。

 妙にリアルというか、可愛げがないというか、襲ってきた時なんかは犬歯とかすげーむき出しで狂暴な感じだったし。


「あれとは別に獣人ってのがいるんッスよね? 王国ではほとんどいなかったッスけど」


 そうなのだ。

 ノスピネル王国は人口の大半が人種で構成されていて、獣人やらエルフやら、そういった種族は殆どいなかった。

 別段差別とかされてる訳でもないようなんで、元々の生息域が遠かったのか?



「あの、そろそろいいのでは?」


「お? 叫び声を上げなくなってるな、どれどれ……」


 ちょっと強引に遺伝子を書き換えたせいか、ゴブリン達はなんか精魂尽き果てた感じになっている。

 俺は五体の被検体を見比べてみるが、どれも大きな変化は見られない。

 ゴブリンからゴブリンロードになれば、身長が普通の人間と同じ位まで成長するはずなんだが……。


「見た感じ変わってないね」


「というか、そんなすぐに効果って出るんッスか?」


「ゴブリン共に聞いた話では、進化する時はほんの数分で大きく体が変化するらしいぞ」


「……実験失敗でしょうか?」


「ううん……。念のため、二、三日連れまわして経過を観察しよう」


 こいつらにはナノマシンを投入してあるので、俺の命令に逆らう事は出来ない。

 ついでに夜の見張り番も任せよう。



「って事はここもすぐに出るの?」


「ああ。次の目的地は、北西にある森を迂回した所にあるゴブリンの町だ」


「町ッスか? もしかしてここより規模も大きいんじゃ……?」


「そりゃあここは一応村って区分らしいからな。ここよりはデカイだろう」


 俺たちはゴブリン国ギルガの奥深くへと進入している。

 無論これまでのような小さな規模の村もあるだろうが、次に目指すような町や、それ以上の大きい都市なんかもあるだろうな。


「……もっと訓練に励まないとダメっすね」


「それもそうだが、お前達には魔族語も覚えてもらわんと」


「むーりー!」


「無理じゃない。やるんだ!」


「だってあたし英語のテスト8点取った事あんのよ?」


 8点ってなんだ……。

 単語の問題だけちょろっと書けたような感じか?


「大丈夫だ。根本と樹里は、俺のナノマシンによって脳機能も改善されている。苦手意識まではなくせないが、記憶力とかは以前よりかなり良くなってるはずだ」


「あ……。そうだったんッスね。道理で最近どうも頭が冴えてる感じがしてたんッス」


「うー、言葉なんて大地が話せるんだからそんでいーじゃん」


「一人で行動してる時はどーするつもりなんだ。いいから、今度からは各種鍛錬の他に、言語学習の時間も入れるぞ」


「いーーやーーーだーーーー!!」


 ぬう、これまでになく反抗してくるな。

 だが言葉ってのは重要だ。

 俺は樹里に魔族語をマスターさせる事を決意し、新たに五体のゴブリンを連れて村を出た。








 村を出て二日目。


 今のところゴブリン達に変化は見られない。

 こりゃあ実験失敗か?

 だがもうちょっと様子を見てもいいだろう。


 昨夜は久々に、野営だというのに夜グッスリ寝る事が出来た。

 俺はそこまで睡眠不足が体に来ることはないが、他の三人の為にもこうしたお供はいるといいなと改めて実感する。


 そして本日の語学学習の時間。

 訓練に加え勉強の時間も入った為、移動に割ける時間が減ってしまったが、先を急ぐ旅でもないのでまあいいだろう。


 さて初日はブースカ言っていた樹里だったが、どうやら抵抗を諦めたらしい。

 今日は静かに俺の授業を聞いている。


「あ……」


「どうした? なんか質問か?」


「そーじゃないんだけど、あのゴブリンなんか変じゃない?」


「ああん?」


 俺は樹里が指差したゴブリンの方を見るが、特に見た目に変化は見られない。


「おいおい、そんなに勉強が嫌なのかあ?」


「違うわよ! ほら、あのゴブリンの体内の魔力の働きがなんか……」


 体内の魔力?

 そう言われて改めて見てみると、確かに五体のゴブリンの内二体の魔力の反応がおかしい。


「……おや!? ゴブリンのようすが……」


 授業を一旦中断し、俺は異常が起こってる二体のゴブリンを注視する。

 当のゴブリンも異変を感じているのか、声を上げないまでもどこかソワソワとした様子だ。


「進化の前段階でしょうか?」


「あ、なんか体が震え出したッス!」


 サービスのつもりなのか、傍目でも分かりやすいリアクションを取ってくれるゴブリン達。

 なんかここだけ妙にゲームチックだ。


「あっ!!」


 次の瞬間。


 二体のゴブリンにほぼ同時に変化が訪れる。

 まるで変身でもしていくかのように、体の造りが変化していく二体のゴブリン。

 それは確かに話に聞いていたように、ほんの数分で完了した。



「おおっ!」


「なんか蝶に羽化する瞬間をジッとみてたような感じッスね」


「余り見慣れたものではないので新鮮でした」


 うむ、中々興味深い。

 ちょっと本人達に話を聞いてみよう。


【お前達、今のが進化なのか?】


【そ、そうだ。オレはゴブリンウオリアーになった】


【おれはゴブリンメイジだ!】


 ん?

 確かに身長は大きくなったが、ロードほど大きくなってはいない。

 二体の身長は、平均的な小学六年生の男子くらいだ。


「ねえ大地。今、何て言ってたの?」


「んー、そーだな。分かりやすく言うとだな……」


 俺は一拍あけて樹里に応える。



「おめでとう! ゴブリンたちはゴブリンウォリアーとゴブリンメイジにしんかした!」



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