第二章 魔族国動乱編
第94話 次の目的地
ボース村から旅立って三日ほどが経過した。
実は元々そこまで警戒する必要もなかったんだが、すでにノスピネル王国から抜けたので、魔甲機装も解禁している。
……のだが、せっかく未知の領域を旅するのに魔甲機装では風情もへったくれもない。
なので結局俺ら四人は徒歩で旅を続けている。
「ねー大地。道こっちで合ってんの?」
「ああ」
俺たちが歩いている場所は、まさに大自然といった風景がどこまでも広がっている場所で、辺りには人工物が一切見当たらない。
なだらかな斜面になっている平原で、周囲を見渡すと遠くに幾つか森が散在しているのが見える。
時折むき出しになった岩や木がまばらに生えていて、斜面の上の方からは時折少し強めの風が吹きつけてくる。
その風は日も暮れてきたこともあってか、微かに肌寒い。
「ただそろそろ夜も近いし、この辺で野営ポイント探しとくか」
俺は少し小高くなって見晴らしのいい場所を発見すると、そこを今日の野営地に定める。
「んじゃあ、壁つくるぞぉ」
俺は魔法で少し広めに土壁を作って周囲を囲う。
「何度見ても大地の魔法って訳わからないわね!」
これまでの旅の途中では、まだ普通に旅人がいるような場所だった。
目立たないように行動していた事もあって、野営の時にわざわざこのような陣地を整えるような真似はしていなかった。
しかし王国から出た今、そんな事は気にせずこうして魔法も活用している。
土壁とはいえ、俺が魔力マシマシで固めているので強度はかなりのものだ。
家の形を模って作る事も可能だが、面倒なので壁だけで済ましている。
こちらの方がいざという時に即応しやすいしな。
「で、大地さん。僕たちどこに向かってるんッスか?」
「どこって……そりゃあ西だろ」
野営の準備を整え、四人で夕食を取っている所で根本がそんな質問をしてきた。
「……確かに西には進んでるんでしょうけど……。でも大地さんの足取りって、どこか特定の場所を目指してるように思えるんッスよね」
お?
ただなんとなく付いて来てるだけじゃなくて、そういった事も気にしてたんだな。
「え? そーなの?」
「そーッス。笹井さんは気づいてないだろうし、一色さんは気づいていても指摘しないだろうし……。なんで、僕から聞いてみたんッス」
「ちょ、あたしだって気づいてた……わよ!」
「……」
根本の言葉に樹里はミエミエの嘘をつき、沙織は沈黙を通す。
俺は樹里を無視して根本に答える。
「根本の言ってる事は間違ってない。いいぞ、根本。未知の場所を旅してるんだから、そういったアンテナは常に張っておくべきだ」
「それもこれも、大地さんがいつも僕らに黙ってなんか企んだりするからッス!」
「ハッハッハ、俺の指導のお陰って事だな」
「……もうそれでもいいんで、どこに向かってるか教えてくれないッスか?」
ふむ、丁度良い機会だ。
今向かっている目的地と、今後の俺の行動指針についても語っておこう。
「今はこの緩やかな斜面を北西に向かって上っていってる所だが、もう少し行くと今度は傾斜が下りになっていく。と同時に、進行方向には小さな森が見えてくる」
「それって魔法で調べたんッスか?」
「いーや。俺の改造された身体能力の賜物だ」
「例の火星人って奴ッスね」
この旅の間に、俺の身に起きた事は大まかに三人に伝えてある。
というか、俺自身訳も分からず巻き込まれまくったので、それぞれの事柄について俺自身ですら詳しくは知らない。
ただプラーナについては先に説明をしてあって、俺自らが基本的な指導をしている。
三人の内の誰かが使えるようになれば、旅もより捗る事になるだろう。
「私も視力は強化されていますが、大地さんのような視界は持てません。そもそも今いる地点からは、更にその先にある森など到底見えないのでは?」
「まあ普通に考えるとそうだよな。だが、本当に火星人の技術力はおかしいんだよ。それこそ魔法と言われても一般人には区別がつかないくらいにな」
「遠くを見る魔法ってのは確かにあるわね」
魔法の話題には食いつきのいい樹里。
「俺の目……というか内部センサーのようなものは、それこそ何百光年も離れた
「うーわ、とんでもないッスね……。恒星ならともかく、系外惑星なんて日本にいた時でも光学的に観察なんて出来てなかったハズ……」
「うむ。まったくもって、火星人の技術力にはおったまげるな」
ちょっと気まぐれで奴らが地球滅ぼそうって思ったら、あっさり地球崩壊しちゃうようなレベルだし。
「それで、その小さな森に向かってるんですか?」
少し話が脱線した所を沙織が軌道修正してくる。
「いや、その手前にある村だな」
「村……ですか?」
「それってゴブリンの村ってこと?」
「そうだ。んー、ただ見た目は村っぽいんだけどゴブリンの数はそれなりに多そうだから、王国だったら田舎の小さな町ってレベルになるかもしれん」
チラッとみた感じだと、三百や四百位はゴブリンがいそうなんだよな。
まあその殆どがノーマルゴブリンっぽいので、全く脅威でもないんだけど。
「え、それって何しに行くんッスか?」
「またまたー、その質問してる時点で分かってんだろう?」
「……村に襲撃を掛けるんッスか?」
「そのとーり!」
「はぁ……。だと思ったんですけど、なんでわざわざそんな事を?」
呆れた様子の根本。
溜息を吐きつつも、すでに何かを諦める準備をしているように見える。
「俺はな。ノスピネル王国では、巻き込まれ集団転移の雰囲気を味わうために、敢えて力を隠して一般人として事態を楽しんでいた」
「力を……」
「隠して……?」
根本と樹里が息を合わせて何か言っているが無視だ、無視!
「でもな? こっからは無双モードを楽しもうと思ってる。自重せず、俺は俺のやりたい事をやっていくぞ!」
「そー言えば前も大地そんな事言ってたわね」
「おう! そもそもだな。前にも話したが、俺は元々召喚される予定になかった三十三人目の男。召喚されたというよりは、自分から強引に巻き込まれにいったんだ」
あの時は状況が特殊だったとはいえ、自分でもまあ物好きな奴だと思わないでもない。
ただあれだけ異常事態が連続して発生したんなら、乗るしかないだろ! このビッグウェーブにさ!
というノリだけで、この世界まで来てしまった。
「つー訳でだな、俺はゴブリン村に襲撃を掛ける。お前達は少し離れた所で様子みてればいいよ。そんな時間もかからんだろう」
数だけでいえば多いんだが、ま、行けるだろ。
「何よ……。あたしも一緒に付き合うわよ」
「無理しなくていいぞ? これは俺の趣味みたいなもんだからな」
「無理はしてないわ。あの時は村人が酷い目にあってたからショックだったけど、ゴブリン村なら大丈夫よ」
「僕も付いてくッス。最近大地さん達としてる訓練の成果も試してみたいし、それにここでゴブリンの数を減らしておけば、王国に残った連中も少しは楽になるッス」
根本が言っているのは、最近始めた戦闘訓練の事だ。
元々武術を嗜んでる沙織と、嗜んではいないが超強い俺が、ナノマシンで身体能力が強化されてきた樹里と根本に訓練を行っている。
武器を持った状態の戦闘から、素手での格闘術。それからプラーナの訓練も一緒に行っている。
プラーナに関しては沙織も教わる側だ。
「沙織は……?」
「勿論ついていきます」
すんげー、食い気味に言われる。
「そっか。んじゃあ、もう一つ話しておくことがある」
夕食のスープで硬いパンをふやかして口に放りこんだあと、俺は樹里の判断がひっくり返りそうになる話を始めた。
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