第84話 ネモトフライングアタック
よし、こうしよう。
俺が思い付いたアイデアを実践しようと根本の方に近づいていくと、根本は機敏に反応して俺から距離を取る。
そして訝し気な目で俺を見つめてくる。
「どうした根本。何故避ける?」
俺が問いかけると、根本はハッとしたような表情を浮かべる。
そして少し動揺したような様子で質問に答え始めた。
「……何をするのか言わずに、気になるセリフを言いながら近寄らないでくださいよ」
「む、声に出ていたか」
それは気づかなかった。
なんか俺って改造された割には結構こういうポカミスが多いな。
「声に出ていたか、じゃないッスよ。何かするときはまず説明して欲しいって言ったじゃないッスか」
「ああ、スマンスマン。覚えてたけど、気にしてなかったわ」
「そこは気にして下さいよ!」
なんか根本のツッコミ技能が少しずつ向上してきているな。
「それは大地さんのせいッスよ」
ぬ、またもや口に出ていたようだ。
ううむ、これは気をつけねばいかんな。
そんな茶番を挟みつつも、俺は根本に先ほどのアイデアを伝える。
これといって凄いアイデアでもないけどな。
「僕をおぶって移動するん……ッスか?」
「そうだ、その方が断然早い。樹里は沙織におぶってもらえばいいだろう」
「あたしらはいーけど、二人はダイジョーブなの?」
俺的には野郎をおぶって移動するのは望む所ではないが、この際は仕方ない。
体力的な問題なら俺の方は心配ないし、沙織も俺ほどではないが問題ないだろう。
「私は問題ないと思います」
うん、本人も問題ないと言っている。
……って、どうも少し沙織の声が遠いな。
俺はふと気になって周りを見てみると、なんか俺と女性陣二人との距離がいつの間にか少し離れている。
…………?
まあ、いいか。
「沙織もこう言っているし、物は試しだ。とりあえずやってみよう」
「そーね。じゃあ、よろしく頼むわよ」
「大地さん……。速度を出して振り下ろさないでくださいね」
「根本……。それはフリか?」
「違うっすよ! 絶対ダメっすからね? 絶対ッスよ!?」
根本がこの口調になってきてから、俺のネモトイジリズムが絶好調だ。
余り本気で嫌がっているようには見えんが、そこはまあやりすぎないように今後も適度に弄っていこう。
……どうも俺はまともに人と接触するのが苦手だな。
その辺は樹里の事をとやかく言えたもんではない……か。
「さあ、飛ばすぞ! 根本」
「だから飛ばさなくていいッスよ!」
俺は根本を背負うと、颯爽と道なき道を走り出した。
すぐ後ろには、同じく樹里を背負った沙織が後をついてくる。
人を背負いながらだというのに、俺たちは男子フルマラソンの記録を軽く更新するような速度で、移動を続けていく。
最初はおっかなびっくりだった根本も、今ではすっかり大人しくなっている。
「…………グゥゥ」
どうも静かだと思ったら、俺の背中で寝てしまったようだ。
俺が、必死に、お前をおぶって、走っているというに! 全くこやつは……。
「…………。ネモトフライングアターーーーーーック!!」
「わっ、わっ、何ッスか!?」
俺が根本を空中に放り投げると、異変に気付いたのかすぐに目を覚ます根本。
と同時に、自分の今の状態に気づき慌てふためき始める。
「ネモトダイナミックキャーーーーッチ!」
俺は宙に放り投げた根本を見事に回収する。
キッチリ落下の衝撃をも殺しているので、まるで飛ばされていたのが夢であるかのようなナイスな回収だ。
「ちょ、ちょっと、何があったんッスか?」
「ん? 何の事だ?」
「何の事って、今僕の体宙に浮いてましたよね?」
「なんだ? そういう夢でも見てたのか?」
「夢って……。大地さん、『ネモトダイナミクキャーーッチ』とか言ってませんでした?」
「いや、知らんぞ? お前、夢に勝手に俺を登場させて変な事言わせるなよ」
「えええぇぇ? あ、あれっ、おっかしいなあ……」
お?
俺のハリウッド俳優ばりの演技が上手くいったようだな。
最初は疑ってる様子だったのに、段々信じ始めてきたようだぞ。
「………………」
後ろについてくる沙織も黙ってくれているし、樹里は根本と同じく沙織の背で寝ているようだし。
これはこのまま押し通せるな。
「それより、幾ら眠いからといってグッスリと寝るなよ。お前にも周囲の警戒をしてもらいたいんだが」
「そ、そうッスね」
これでヨシ。
どうにか根本をごまかした俺は、そのまま夜通し移動を続け、完全に夜が明ける前に、無事ガリガンチュア街道まで到達した。
「ほら、着いたぞ。ここがガリガンチュア街道だ」
「……街道っていうからもっと広くてガッシリしたもんかと思ったけど、実際は二車線分くらいしかないッスね」
「そりゃあ、日本の幹線道路みたいなもんがある訳ないだろう」
「それもそッスね」
「う~~ん、なあに~? もう着いたの~?」
いま目が覚めたといった感じの樹里の声が聞こえてくる。
その寝ぼけた声を聞いて、沙織はおぶっていた樹里を下ろす。
「街道にはついたぞ。あとは、この道を先に進めば城塞都市シェイラに着く」
「ふーーん……。で、そのシェイラってとこまではあと何キロくらいなの?」
「そうだな。ここから歩いて十日って所だ」
「へぇ……、歩いて十日…………。って、え? そんなにかかんの?」
ようやく頭が冴えてきたのか、樹里が驚きながら質問を返してくる。
寝起きの調子はそれほど悪くないみたいだ。
「そうだ。食料なんかは十分にあるから心配すんな」
「そんな心配より、その距離のほーが心配よ! それに、そんなゆっくり移動してても大丈夫なの?」
「大丈夫って何がだ?」
「その……あたし達王都を抜け出してきたんだから、追手とかあるんじゃないの?」
「だからその追手を撒くために、魔甲機装を封印して徒歩で移動してるんだろ?」
「ん、んん? そう、だったわね」
魔甲機装を追跡する機能がなかったとしても、街道をあんなデカブツが移動してたら人の目につくだろう。
手間ではあるが、身一つでの移動の方が目立たなくて済む。
「でもさ、あたしらこの先に幾つかある街とか村に寄るんでしょ? そん時に見つかったりしないの?」
「絶対とは言わんが、この世界で離れた場所に手配写真を送るような事は、多分出来ないだろう。文字や言葉で特徴を伝える位はできるかもしれんが、どこに行ったかも分からない相手を追跡するのは、手間がかかりすぎる」
「そっかあ」
そうは言いつつも、この世界には魔甲機装なんてのも存在する位だし、警戒しておくに越したことはない。魔法だってある事だしな。
その辺は俺が注意しておくとしよう。
「とりあえず急ぎで移動するのはここまででいいだろう。こっからはえっちらおっちら歩いていくぞ」
「うぇぇ……。ま、仕方ないかー」
今後の事を考えると、野宿生活にも慣れておいた方がいい。
ま、しばらくはゆっくりと進みながらシェイラを目指すとしよう。
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