第81話 大発表会


 あれから日が進み、五連休の最終日。


 すでに樹里と沙織の呪いも解除してあるし、火神らへの対応やその他の仕込みも粗方終えた。

 後はこの国を脱出するだけだ。



「ほ、本当にこれからこの国を脱出するんですよね?」


「まあまずは国っちゅうか王都からの脱出だ」


「それはいーけど、これからどうすんのよ?」


「この倉庫には言われた通り、持っていく荷物を運びこんでおきましたが……」


 俺以外の三人が不安そうな……顔をしているのは根本だけだったか。

 樹里と沙織は、ただ不思議に思ってるだけといった感じだな。


 今俺達は、宿舎のある敷地内に併設された倉庫の中に集合している。

 沙織も言っていたように、三人には持っていく荷物をこの倉庫に運び込むように指示しておいたからだ。



 この倉庫は、宿舎を利用してる人達の共用倉庫だ。

 もっとも、まだこの世界の生活が浅い、俺達日本人の荷物がそうそうあぶれることもなく、ほとんど空っぽになっていた。

 それを利用して、一時的な保管場所としてこの場所を指定しておいたのだ。


「うむ、準備は万端だな。夜も大分更けてきたし、絶好の脱出日和だ」


「だからどうやって脱出するのか聞いてんのよ!」


「それなんだが……、この先は驚きの展開や、とてもスペクタルでワンダフルな事が続く。だが、脱出に際して余計な話をしている暇はないので、ここで簡潔に説明をしておく」


「何だか既に意味が分からないですね……」


「とにかく凄いって事ね?」


 根本はいまいち頭が固いな。

 もっと樹里のように素直に受け止めればいいのだよ。




「ではこれより、大発表会を始める!」


「…………」


 すでに根本はまともに反応すら返さなくなっているが、俺は構わず続ける。


「まず、俺は超能力が使える!」


「――ッッ!」


「えぇっ? それって根本の世界にいた超能力者って奴?」


 俺がそう告げると、根本が言葉を出さないまでもあからさまに体で反応を示す。

 樹里は根本の生まれた日本の事を思い出したようだが、俺は構わず話を続ける。


「次に、俺は謎の宇宙人に肉体を改造されている!」


「えっ……!?」


 これには沙織が一番の反応を見せる。

 だが根本と沙織の二人も驚きの顔を浮かべている。


「そして、俺は魔法も使える!」


「ッ!! やっぱり……」


 これは樹里もある程度想定はしていたようで、それほどの驚きは見られない。


「……とまあ、他にもあるんだがとりあえず、これらの能力を使って脱出前にやっておく事がある」


「何を……ですか?」


 突然の俺の発表に脳がついていけてないようだが、合いの手を挟むことは反射的にこなす。それが根本クオリティ。



「まずはここの荷物をアイテムボックスに収納する」


 俺は見やすいように、まずは明かりの魔法で辺りを照らす。

 余り明るすぎて目立たないように、光量は絶妙な感じに調整してある。


「わ……、本当に魔法……なんですか?」


「間違いない……けど、詠唱もなんもなしにどーやったの!?」


 そこんとこは、短時間で説明できるようなもんではない。

 俺はガヤを気にせず魔法を発動させる。次にまとめて置かれている三人の荷物を、次々アイテムボックスにぶちこんでいく。


「ちょっと! こんな魔法あたしの世界でもそうそう見れるもんじゃないわよ! 一体どーなんてんの!?」


「言ったろ? こまけー質問は後だ。さて、次だが……」


「細かくなんてないわよ! もう少し詳しく――」


「笹井さん、今は大地さんの仰る通り時間が迫ってますので」


 なおもしつこく問いただそうとする樹里を、沙織がビシッと抑えてくれる。

 うんうん、助かるわあ。




「さて、次なんだが根本」


「はい……。何でしょう?」


「お前を強化する方法があるが、どうする?」


「どうするって尋ねるという事は、何かデメリットでもあるんですか?」


「デメリットというかなんというか……。俺の眷属みたいになるって感じ……か?」


「眷属って……。さっぱり自分がどうなるのか想像がつかないんですが……」


「あー、ほら。吸血鬼が血を吸った奴は、その吸血鬼に従うようになるってあるだろ。アレみたいなもんだ」


「何となく分かるような分からないような……。具体的には何をするんです?」


「俺の体の中には、目には見えないようなナノマシンがうじゃうじゃいる。こいつをお前にも移植する」


「……移植するとどうなるんですか?」


「体の中から体を作り変えていく。……もっとも、全身改造された俺とは違って、ナノマシンだけで出来る事には限界がある。効果としては身体能力の向上、病気などにほぼかからなくなる。毒にも強くなって、腐ったもんを食べても腹を壊さなくなるなどだ」


「それは……すごいですね」


「他にも俺が適宜調整してやれば、本人の隠れた能力を伸ばす事も出来る。魔力の扱い方や、超能力の扱い方といったものもな。他にも、多少のケガは体内のナノマシンが修復してくれる」


「ちょっと! 魔力の扱い方を伸ばすって何よ! 根本だけずるいじゃない!」


「いや……、実はもうお前にはその……ナノマシンは移植済みだ」


「えっ……? でも、別に魔力の扱いが上手くなったなんて実感ないわよ? それにいつそんなの仕込んだのよ」


「それは……あの時だよ。お前が毒で倒れた……」


「あ、ああ……。あの時……ね」


「承諾もなしに悪いとは思ったが、あの時は緊急だったんでな」


 この二人根本と沙織の前……特に沙織のいる前でこれ以上この件について踏み込むのはよろしくない。

 さっさと話題を変えよう。



「樹里に移植したナノマシンは、それ以降毒を摂取した時に対応するようにだけ、機能制限をしてある。制限を解除して調整をしてやれば、さっき言った機能も付加出来るぞ」


「えー、ほんと!? まさか"まのましん"でそんな事が出来るなんて、すごいわね!」


「"ナノマシン"な」


 って、そんなツッコミ入れてる時じゃねえ。

 根本への移植の話だった。


「で、根本はどうする?」


「正直ちょっと怖いんですけど、大地さんが言うからには、多分僕に必要な事なんでしょうね。どうか、お願いします」


「よし、ではちょっと待て」


 俺は指先の血管へとナノマシンを集中させていく。

 ナノマシンは何も血管内だけに存在する訳ではないが、これが一番全身を巡る通路としては適している。


「根本、人差し指を出してくれ」


「はい。こうですか?」


「それでいい」


 俺は根本が差し出した人差し指を、アイテムボックスから取り出した短剣で軽く切り割く。

 「あっ」と声を漏らす根本をだが、次に俺の指先も同じようにして切り裂く。


 俺と根本、両者の人差し指からは微かに血が流れ始めている。

 その傷口を合わせるようにして、互いの指を合わせる。


「……随分直接的な方法で移植するんですね」


「こういった方法が一番手っ取り早いんだよ」


 傷口が接してさえいれば、後はナノマシンが自動的に根本の体内にまで向かってくれるという訳だ。



「……これでいい。今送ったナノマシンの数は少数だが、これから根本の体内から栄養を吸収して、自動的に増殖していく。根本への細かい設定は増殖が済んでからだな」


「じゃああたしのは? 移植したのって大分前なんでしょ?」


「樹里の方はもう十分だ。今ちょっと制限を解除して、軽く設定をしておこう」


「お願いするわ!」


 俺は樹里の手を取り、樹里の体内で活動するナノマシンに幾つかの命令を加えていく。

 この辺は正直俺も詳しい原理というか、仕組みは分かっていない。


 ただ俺の改造された脳機能が、俺の望むような結果に持っていく為、自動的に複雑な作業を行ってくれている。

 最近のファンタジー小説に出てくるスキルなんてのも、原理が分からないまま使われている事が多いが、これも多分そんな感じだろう。



「あっ……えっ…………」


 最初の「あっ……」は俺が樹里の手を取った事に対するものだったが、続く樹里の声は、体内の変化を感じ取ってのものだろう。


「一気に変化が起こるとよくないので、これから徐々に体に変化が起きていくはずだ。魔力の扱いに関してはさっきも言ったが、樹里は俺のように体ごと改造されていないので、俺が適宜補正をしていこう」


 俺自身の魔力や超能力については、自動的にナノマシンが最適化するように、体の組成などを変化させている。

 そのデータを用いれば、元々魔法が使える樹里と、弱いながらも超能力を使える根本は、それぞれが持つ能力を強化できるだろう。

 勿論個体差はあるから、そこは調整しないといけないのだが。




「あの……私へもそのナノマシンを移植して欲しいのですけど……」


 俺が一仕事終えてほっとしていると、例の妙なプレッシャーを放ちながら、沙織が俺に詰め寄ってきた。

 根本と樹里だけ移植して、自分だけ除外されているのを気にしての事だろう。


 しかし、沙織の体内には既にミャウダ人とやらのナノマシンが活動している。

 ここで俺の火星人のナノマシンを移植しても、競合を起こす危険性がある。


 ……問題はそれをどう上手く伝えられるか、だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る