第80話 細田、篤!
火神との対談が終わった後、樹里と沙織の呪いを解除しようと再び訪ねてみたのだが、二人とも留守なようで会う事が出来なかった。
もうすぐ夕方になるっていう時間なのに、一体どこに行ったのやら。
そんな訳で、その日は主だった活動はそれまでにして床に就いた。
次の日。
朝目覚めた俺は、まだ時間が少し早かったので、樹里達の呪い解除の前に別の用件を済ませる事にした。
それは火神との話し合いで決まった、呪い解除の候補者に話を持ち掛けるという用事だ。
ただ、火神との話し合いで決まったのはあくまで候補者であり、実際に解除するかどうかの判断は俺に委ねられた。
俺はそれを快く引き受けたのだが、それには理由があった。
といっても別に複雑なものではなく、単に自分で確認した方が納得できるからというものだ。
俺には魔法で精神状態を探ったり、嘘を見抜いたりなどといった事が可能だし、いざとなれば相手の記憶を一部だけ消去する事も出来る。
大森のお陰でその辺りの技術というか、研究が大いに捗ったんだよ。
火神ならば本人が秘密を洩らさないというのなら、拷問に掛けられても言わないだろうと信じられる。
しかし、他の奴もそうとは限らない。
これから会う奴らにはそこまで求めはしないが、「ここだけの話だけど……」といったノリですぐに周囲にばらまくような奴は、除外せねばならん。
そんな事を考えながら宿舎を歩いていると、目的地にすぐにたどり着いた。
コンコンッっと俺がドアをノックすると、中から少し物音が聞こえてくる。
しかし、それ以降返事もなく静まり返ってしまう。
「おい、ちゃら…………いないのか?」
ううん。何故だからしらんが、こいつの名前ってすぐ忘れちゃうんだよなあ。
これでも俺の脳機能は抜群に強化されているはずなんだが……。
いっつも心ん中でチャラ男チャラ男って呼んでるせいか?
「……なんだ?」
俺がうるさくドアを叩いたせいか、少し枯れたような声で答えるチャラ男。
まだドアも開けられておらず、反応の鈍さや部屋の中の
「お前に話があってな。超重要な話だ」
「…………勝手に入ってくれ」
チャラ男は少し悩んだあとに、どうでもよさそうな感じで言った。
「じゃあ、勝手にさせてもらうぜ」
だが俺はそんなチャラ男の様子も気に留めず、ズカズカと部屋の中へ入りこむ。
部屋に入るなり、アルコールの臭気が俺に降りかかる。
それは室内のあちこちにこびりついたようなものでもあるし、チャラ男本人から漂ってくるものもある。
「昨夜は大分飲んだようだな?」
「…………」
俺の質問に答える様子のないチャラ男。
ううん、これではまともに話も出来んな。
仕方ない。
「ほれ、こいつでも飲め」
そう言って、俺はアイテムボックスから取り出したポーションの瓶を手に、グッタリとして精気の無いチャラ男に無理矢理飲ませる。
「んぐ……んぐ……、な、何すんだ!?」
「二日酔いに効く薬だよ。お前がそんな状態じゃ話にもならん」
「……おい、なんかこの薬飲んだらすげースッキリしてきたんだけど、ヤベー薬じゃねーだろうな?」
「大丈夫、大丈夫。キッチリ合法のポーションだよ」
それに俺があれこれ手を加えた奴だけどな。
「そう……か? まあ、いいさ。で、何の話があるっていうんだ?」
お、意外とすぐに話を聞く体制に入ったな。
あのポーションの効能のせいか?
「実はだな……」
俺はチャラ男にも、火神にしたのと同じような話をしていく。
しかし、情報は一部制限して、必要な所をちょちょいとつまんでって感じだ。
以前のチャラ男だったら、話の途中で「オレにはかんけーねー」とか言って話を打ち切ってきそうだったが、今は真剣に俺の話を聞いている。
「……という訳でだな、お前に掛けられている服従の呪いを解除するかどうか。それを尋ねにきたって訳だ」
「そんで俺も筋肉男の仲間に引き込もうって訳か?」
筋肉男……。
俺のチャラ男の呼び方もアレだが、こいつの火神の呼び方も似たようなもんだな。
「仲間とまで思わなくても、同じ目的や状況におかれた、同士とでも思えばいい」
「……それってどう違うんだ?」
「何でもかんでも火神の指示に従う必要もないって事だ。奴は奴で、堅苦しい考え方が抜けないんでな。お前のような奴がいれば、足して割れば丁度いい塩梅だ」
「ハンッ! 確かにそうかもな」
チャラ男が口を歪めて微かに表情を変える。
そこには悪意ではなく、別の感情があるように俺には見えた。
「それで、さっきの提案はどうだ?」
「……そうだな。その呪いの解除とかいうのは受けてもいい。ただその前に、本当にそんな呪いにかかっているのかどうか、確認は出来るのか?」
む?
リハーサルにない事を言ってきたな。
まあ、それなら確認方法はあるから問題はないが。
「ああ、一応あるぞ。俺はお前の呪いを解除しようとしていたが、それは即ちその呪いについて色々調査済って事だ」
召喚時に付与された服従の呪いだが、では誰に服従するのかというと、予め設定調整された魔導具の所有者に対して、発動するようになっている。
これは教官などの他に、国の中枢部の連中にそれなりに広く頒布されているようだ。
更にその魔導具に関しても、個別に使用者が登録されているので、教官からその魔導具を奪ったとしても、それで命令を出す事は出来ない。
俺はその魔導具を所有してはいないが、すでに詳細な"鑑定"をして機能は把握してある。
あとは魔導具などなくても、同じような魔力波紋を自力で発生させれば同じ効果を発動できるのだ。
「なら、ちょっと俺で試してくれよ」
「よし……。それじゃあ……『今すぐその場で土下座しろ』」
「な、ななな…………」
呪いに反応するように、特殊な魔力の波紋を発生させながら俺が命令すると、困惑しながらもチャラ男の体は土下座をしていく。
「よし……、次は、『スクワットをしながら自分の名前を連呼しろ』」
「ちょ、ちょっと…………細田、篤! あ、アレ? 細田、篤! お、おい……。細田――――」
ああ、そうだった。
こいつの苗字は細田だったな。
名前までは初耳だったが。……初耳だよな?
「わ、わかったからもう……細田、篤! これをどうにか止めて……、細田、篤! くれよ……細田、篤!」
おおう……、なんか自分でやらせといてなんだが、こんな奴が近くにいたらdonbiki.comだわ。
そんなに自己紹介したいのかよ? って気持ちになるぜ。
「おう、そうだったな。『もう好きにしていいぞ』」
「ハァァッ、ハァッ……。これ……は、マジモンの話だったん……だな……」
「まあ今のは悪ふざけした命令だったが、これが、そこにいる民間人達を虐殺しろ、とかだったとしても、自分の意思に関係なく体が動く訳だ」
「…………それは、シャレんなって……ないな」
まだ少し息の荒いチャラ男だが、この呪いの効力についてはしっかり理解したようだ。
「分かった……。俺の呪いを解除……してくれ」
「じゃあ体に少し触れるぞ」
俺は火神の時と同じように、チャラ男の肩に手を触れると、呪いの解除を始める。
根本、火神に続いて三回目の解除だが、やはりそれなりに集中を要するな。
「よし、これでいいぞ。まあ違いは実感できんだろうが」
「これで……もう大丈夫なのか?」
「ああ。ただ、奴らにバレると再度同じ呪いをかけられるだろうし、更に制約をつけてくるかもしれん。くれぐれもバレないようにな」
「わかってるよ」
チャラ男の呪い解除を終えた俺は、そのあと他の候補者の部屋に訪ねて呪いの解除を続けていく。
解除したのは、チャラ男を除けば後二人。
この三人は、実はすでに昨夜の間に密かに部屋に忍び込んで、夢の中でリハーサルを行っていた。
この時に、秘密を簡単にばらすような奴なのか、だとか、信頼できる奴なのか? だとかいった事を、俺の定めた診断基準でもって調査済みだ。
調査は後二人、全部で五人行ったんだが、残りの二人は少々問題がありそうなので、除外する事にした。
なお、夜の間に調査した事は、彼らの記憶からは消去済みだ。
自分だけでなく、連帯責任で他の奴にも影響が出る可能性がある事なんで、そこら辺は厳しくやったんだが……。
……あまりこういった事を多用したくはないな。
俺は昨夜の事を思い出して少し気分が落ち込みつつ、まだ本命の二人が残っていたのを思い出し、二人の下を訪ねる為に部屋へと向かった。
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