閑話 樹里
あたしは日本でも有数の魔法師の家に生まれ、小さい頃から魔法漬けの日々を過ごしてた。
なんでも
その事があたしにとって良い事だったのか、悪い事だったのか。
毎日の訓練や勉強は厳しかったけど、魔法を覚えていく事そのものは楽しかった。
でも、あたしがそうして魔法の腕を上げてくと、周りにいた友達が段々減っていく。
決定的だったのは、まだちっちゃかった頃に
その事をきっかけに、どんどんあたしの周りには子供が近寄らなくなって、代わりに大人が近寄ってくるようになった。
「樹里ちゃんは魔法が上手だねえ」
「火魔法が得意なんだって? でも水魔法もいいものだよ。さあ、教えてあげよう」
みんな笑顔であたしに近寄ってくるけど、本当は笑っていないんだって事にあたしは気づいてたわ。
みんな、あたしのパパが雇っただけの人たち。
それでも、嫌われたくないからあたしも笑顔を振りまくことにしてた。
「うんっ! 水魔法もきょーみあったからいろいろ教えてください!」
……でもその生活はあたしの心を歪ませる。
そん時は必死だったからそんな事気付かなかったけど、ある日それが爆発して喚き散らしちゃった事があったの。
それからのあたしは、ヘコヘコと笑顔で挨拶するのを止めたわ。
だってそうでしょ?
こっちがどんな態度だって、向こうは張り付いた笑顔を浮かべてくるんだし。
強気で生意気な態度をすると、あたしの中のイライラも少しだけなくなってくれたけど、それと同時に敵を作っちゃってた。
その事にあたしは気づいてたんだけど、今更自分を変える事は出来なかったわ。
魔法学校でも色々と嫌がらせをされたし、陰口も叩かれた。
でもあたしは「気にしてませーーん!」って顔して、必死で堪えてたの。
それどころか逆に大人顔負けの魔法を使って、そいつらに「どーよ!」って見せつけてやったわ。
それを見たせーか、そっから少しはそういう嫌がらせも減って、学校も少しは居心地がよくなった。
……でも、あたしはそんな事より友達が欲しかったの。
でも高等部に進級したあたしには、一人も友達がいなかった。
口では強がりを言ってたけど、家では誰もいない部屋の中で、一人泣いた夜も何度だってあったわ。
このまま友達も作れないまま、魔法学校を卒業するのかな?
そんな事を思っていたあたしに、ある日とんでもない事が起きた。
それは明らかに魔法的な何かではあったんだけど、見た事もない術式だったし、近くに術者もいないという、普通ではありえない超絶的な魔法……だった。
その魔法によって、あたしは別の世界へと召喚されてしまったみたい。
今でも、どうしたらあんな魔法が使えるのかサッパリ分かんないわね。
この召喚魔法には、召喚主に対して逆らえなくなるという効果まで付属していた。
最初は分からなかったけど、自分の中に違和感を感じて調べてみたら、その事はすぐに判明したわ。
それに気づくと同時に、あたしはここで何をやらされるのか不安になる。
だって、召喚されたら周りに変な恰好の人たちが一杯いたし、一人日本語で話してる人もすっごいエラそーだったし。
ただ、
それからのあたしは、これも一つのチャンスだって思う事にしたわ。
このよくわかんないとこで、新しく友達を作るんだって。
それで最初の日に知ったんだけど、どうも他の日本の人たちは魔法ってのを使えないみたいなのよね。
誰も召喚魔法の服従の術式について、触れる人がいなかったの。
それは、なんかよく分かんない事を言ってたジャージの人の話から、メガネの人がみんなから話を聞こうみたいな流れになって分かった。
あたしも未だによく分かってないんだけど、みんな同じようでいて違う日本から召喚されたって事みたい。
中にはチョーノーリョクが使える人とか、改造人間? みたいな人もいて、あたしは慌てて自分の魔法についても披露した。
あたしが見せた魔法は大分ウケてたみたいだし、あたしなりに手ごたえを感じてた。
ここでなら、友達も出来るかもしれない……。
そう、思ってたんだけど、そんなに上手くはいかなかったわ。
自分でもそんな事言うつもりじゃなかったのに、口からはエラそーな事ばかりが漏れちゃう。
最初は魔法っていう珍しいもの見たさに集まってた人も、次第に近寄らなくなっちゃった。
どうしてあたしはいつもこうなんだろう……。
仕方ないので、あたしは日本にいた頃みたいに、また一人で魔法の練習を始めた。
宿舎の裏の、誰もいない場所。
そこで誰にも見られないようにして、魔法の練習を頑張る。
この、あたしたちを縛る服従の術式。
これを解除出来れば、あたし達も少しはこの世界で安心して暮らせる。
そう、思って術式を解除しようと試行錯誤してみたの。
この魔法を覚えれば、みんなもあたしに振り向いてくれる! ってね。
でも、元々魔法の方式が違うのか、あたしにはどこをどうすればいいのかも分からなかったわ。
すでに思い当たる事はぜんぶ試してる。
それでも、あたしには手も足もでなかった……。
そんな行き詰ってた時、あたしはアイツに出会った。
アイツ――大地は、あたしがつっつけどんな態度を取っても、全く気にしてない感じだった。
あたしは口では文句いいながらも、宿舎裏で大地と会うのが楽しみになっていったわ。
そしてあの日……。
あたしが毒入りのスイーツで死にそうになってた時、大地はなんかよく分かんない方法であたしを助けてくれた。
あれって魔法的な何か……だと思うのよね。
でも大地は、その辺の事は一切教えてくれないのよ。
あたしも助けてもらった方なんだし、そんなしつこくは聞けなかったし。
そこから、大地を中心にして一色や根本なんかとも話をするようになれた。
根本は最初の方にあたしに話しかけてきてたけど、あの時は素直になれなくて突き返しちゃったのよね。
でも今では大地や一色が周りにいなくても、見かけたら声を掛けてくれるようになったの。
たまーに顔に表情がなくなって怖くなる時があるけど、大地とワイワイ騒いでるのを見てると、あたしまで楽しくなってきちゃう。
それに結局はお友達になれなかった大森の代わりに、同じ女の子の一色と友達になる事も出来たの。
最初は一色もあたしの事をケーカイしてたみたいだけど、徐々に打ち解けてきてる……ってあたしは思ってる。
一色もそう思ってくれてたら嬉しいんだけどな。
そんなこんなで、すっごく調子が良かった異世界生活だけど、突然ソレはやってきた。
今でもあの村の光景の事は……、あたしの胸に強く焼き付いてる。
泣き叫ぶ村人の声は、しばらく夢に見続けたくらい。
後で聞いたんだけど、どこの班も同じような感じだったみたい。
あたし以外にも、心が持たなかった人が何人かいて、みんな酷い状態だった。
何日か村で作業をして宿舎まで帰った後も、みんな部屋に閉じこもったまま。
そんなお葬式の後みたいな雰囲気の中、大地があたしを訪ねてやってきた。
それも一色と根本も一緒だ。
そこであたしは、衝撃的な話を幾つも聞いたわ。
そして大地はあたしに決断を迫った。
それに対してあたしは……あたしは…………。
結局あたしは、大地の話を受け入れた。
何でなのかは自分でも分からない。
大地は何人かの呪いは解除するって言ってたけど、やっぱりあたしは全員を解除して欲しいって気持ちは変わらない。
大地が言うような理由があったとしても、人を魔法的な力で縛り付けるべきじゃないって思うの。
でもあたしはこれまでの人生で、色々間違って生きてきてた。
大地の言ってる事も理解は出来るし、そーする方が面倒な事にはならないと思う……。
でも、そーやって何でも切り捨てていったら、知らない内に色々なものを捨てちゃう事になるんじゃないかな?
大地は……なんかそういった所があるような気がする。
もしかしたら大地本人は気にしていないのかもしれないけど、それってすっごい寂しい事だとあたしは思う。
あたしが大地についていくって決めたのも、そんな理由があったからかもしれない。
……とにかく、あたしはこの国を出ていくことに決めたわ。
その先に何が待ち受けているか分からないけど、大地とあの二人がいれば、少なくとも日本にいた頃よりは幸せなんだもの。
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