閑話 異世界生活
今日は俺がどのようにこの異世界での生活を送っているか、改めて振り返ってみようと思う。
このヴァルディーグと呼ばれる異世界では、基本的に現代日本生まれの俺からすると、不便な生活を送っている人が多い。
日本以外の国では同じような生活をしている国もあったが、こちらでは基本的に文明がそれほど発達していないのだ。
だが魔甲機装のようなものが存在している所を見ると、過去には現代日本以上の文明があった事は明らかだ。
そうした下地があるせいか、基本的には中世ヨーロッパ風に見えるこのヴァルディーグだけど、部分的には現代日本に近いような部分もまぎれていたりする。
そんなヴァルディーグの人々だが、この世界独自の魔法技術によって生み出された魔導具と呼ばれる品によって、上流階級の人達はそれなりに優雅な生活を送っているらしい。
そこで俺の最近の日課に、現代日本のような生活をするための魔導具開発が付け加えられた。
「そうなるとまずはトイレ……か」
アイテムボックスの魔法を開発した時の副産物で、俺は謎空間を介した転移魔法のような用法を編み出していた。
一方に謎空間へ通じる穴をあけ、そこに通したものを謎空間内を通して別の地点へと送り込む。
これを利用すれば、この世界で主流のぼっとん便所から解放される!
この世界の人は余り気にならないのか、臭い対策もされていないせいで色々とキツイんだよ。
でも出したブツを別の場所へと送り込めば、携帯型のトイレも作れるだろう。
いや、待てよ?
そこまでするなら、シャワー機能なんかも付けられたらいいな?
……とそんな事を色々考えながら、俺の魔導具開発は行われている。
どのように魔導具の開発を行っているのかというと、まずは模倣から始める事にした。
身分証が発行される前からちょこちょこ街の方に出かけていた俺は、早い段階で魔導具といったものが存在している事は気づいている。
そこで実物に"鑑定"を掛けて仕組みを解析し、同じものをまずは作り出す。
これが思いの他トントン拍子に上手くいったので、今はオリジナルの魔導具制作の段階に入っていた。
ただ魔導具作り以外にも、魔法の練習や街での情報収集やら色々裏でやっている事が多いので、魔導具作りだけに多く時間を割けない。
今日も街を回って買い物をする予定があった。
「街行く皆さん! 我らが救世神『ガイスト』様は、いつ何時も我らを見守って下さっております。神への真実の愛と、隣人への無償の愛を心に持てば、安らかなる生活がもたらされるでしょう」
買い物をしに街をぶらついていると、広場で人を集めて宣教活動をしてる神官を見かけた。
この世界でもやはり宗教というのは存在していて、この街にもあちこちに教会が建てられている。
中でも今の話に出てきたガイストというのは、この国では信者を二分すると言われるほどの有名な古代神だ。
そしてもう一人? もう一柱の神が創生神『ミコト』というらしい。
この二柱の神は古代神と呼ばれていて、俺達が暮らしてるノスピネル王国で神を信仰している者は、大多数がこの古代神を信仰している。
逆に西にある帝国では、「古代」と付かずただ「神」と呼ばれる存在が、主に信仰されているようだ。
こちらも一神教ではなく複数の神々が存在するようだが、神と古代神の違いについては調べてみてもよく分からなかった。
呼び名に違いがあるのだから、何かしら意味はあると思うんだが……。
まあ、今はそんな事より買い物だ。
魔導具作りに必要な魔石などの素材や、いざという時の食糧や雑貨の購入。
これはアイテムボックスを開発して以降、ひっそりと行っていた。
購入資金については、ちょいと城に忍び込んでは価値のありそうなものをパクッ……拝借してそれを換金したりして得ている。
あいつらの所業を思えば、これ位はしても文句あるまい。
他にも俺がちょこっとだけ魔石に魔力を込めて売るという方法もあるんだが、一度それをやったら偉い勢いで魔石の出所を追求されてしまってな。
なんでも、ちょっと魔力を込めただけのつもりだったのに、超一級品の魔石と同等の魔力が込められていたとかなんとか。
結構な騒ぎになりそうだったので、買取だけさっさと済ませて店を後にしたんだが、それ以降は俺特製の魔石の売買は行っていない。
あの頃と違って今は身分証も発行されているが、逆にそれで足がついて城の連中に何を言われるか分かったもんじゃない。
今の俺は派手に立ち回るのではなく、あくまで召喚に巻き込まれてしまった一般人ロールプレイを楽しんでいるのだ。
その気になれば国を亡ぼす魔王プレイも出来そうだが、今は今だけしか出来ないこの状態に満足している。
そして俺は一通り買い物を済ますと、次は情報収集に入る。
情報と言っても、右も左も分からないままこの世界に乗り込んだので、とにかく一般常識でもなんでも、最初の頃はなんでも集めていた。
例えば、この世界には亜人と呼ばれるファンタジーものの定番種族が存在するらしい。
だがこのノスピネル王国では亜人種は少ないようで、俺もほとんど姿を見た事がない。
だが俺のあくなき探究心は抑えきれず、街を出て亜人の暮らしているという村まで出かけて行ったこともあった。
いやあ、あの時は休みの日を利用して遠出したんだが、途中で変な魔物に襲われるわ、山賊に絡まれるわで大変だったぜ。
他にもこの世界の魔法についての情報を集めたり、魔物や魔族についての情報なども、広く集めている。
そうして情報が集まっていく度に、この世界は一体どんな世界なんだ? と疑問に思う事が次々と出て来るので、俺の好奇心は留まるところを知らない。
……そして時には女の子がいっぱいいるお店なんかも利用したりしている。
いや、流石にあんな何もない宿舎で暮らしてると……ねえ。
チャラ男のように、とっかえひっかえ女を連れ込むのもアリかもしれないが、そういった店の方が後腐れ無くて今の俺には丁度いい。
店から帰ってきた後に、偶然沙織と出会った時はドキドキしたけどな。
なんかやたらと臭いをかいでいた気がするから、もしかしたらバレていたのかもしれない。
一応臭い対策はしたつもりなんだけど、あの時の沙織の様子はどこかおかしかったからなあ。
とまあ、こんな調子で俺はこの異世界での生活を楽しんでいる。
大森の事など身の回りでは色々と問題も起こっていたが、概ねここまでの生活は俺を満足させていた。
願わくば、この先も楽しませてほしいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます