第52話 二度目の対戦訓練


 プラーナ習得の最初にして最大の関門を突破し、見事プラーナによる身体強化フィジカルライズという技法を覚えた俺。

 日々の訓練の方も順調といってよく、性能差故に魔甲機装状態ではやりにくかった上のクラスの相手も、武器が解禁された事で素手の時以上に性能差を覆せるようになっていた。


 そして各組で戦闘訓練がある程度進むと、今度は再び全員集合しての対戦が行われる事になった。

 そこではそれぞれの得物の違いによって、これまでの同じ武器相手とは違う戦い方を要求される。


 だが俺のような最低クラスの魔甲機装だと、その戦い方の幅も狭まってしまう事になる。

 なんせ体一つ動かすだけで、目に見えて分かる程遅かったりするのだ。

 ……とはいえ、素手で戦ってた時に比べたら大分マシだ。

 人によっては、まだろくに武器を使いこなせていないような奴もいるので、猶更武器を使用した戦闘は俺には有利に働く。


 そんな中、相変わらずの強さを見せるのが火神と沙織で、樹里の奴も武器がいいせいか案外ごり押しでなんとかなっているようだ。



「ふふんっ! 今日はアンタが相手ね!」


 今もやる気満々で、着装状態で俺に指を突き付けている樹里。

 これまで樹里は俺との対戦で勝った事がないというのに、やたらと元気一杯である。


「まあ、軽くひねってやるよ」


「はあぁっ!? 何ゆってんの? 今日こそはあたしが……勝つッ!」


 言うなり真っ直ぐ突っ込んでくるが、工夫もなにもあったもんじゃねえな。

 自慢の燃え盛る剣を、突進してくる勢いのまま袈裟斬りに襲い掛かってくるが、こんなものちょいと力の向きを変えてやれば……


「うわあぁぁぁっとっと……」


「隙あり」


 攻撃を躱し際に、樹里の右肩辺りをポンとうまい具合に押しただけで、樹里の体勢は大きく崩れる。

 そこに足蹴りを入れ、完全に倒れた所で樹里の胴体部を足で抑え込む。

 そして俺の鍬を首元に突き付ければ、こちらの勝ちだ。


「うううぅぅぅ……ッッ!」


 押さえつける俺から逃れようと、必死に体を動かそうとする樹里だが、こちらはその動きに合わせて力の入れ方を調整しているのでびくともしない。

 まあ樹里も同じキガータクラスで機装的な性能差はそこまでないからこそ、抑えられているんだけど。


「大地! もう一度よっ!」


「その元気はどこから来るんだ? ま、いいけどよ」


 その後も俺は樹里との対戦を繰り返した。

 樹里は幾ら負けても向かってくるのは良いと思うんだが、負けた時の反省を活かせていないのが残念な所だ。

 仕方ないので、俺がそれとなく対戦を通じてその辺の事を体に教え込んでいく。




「はぁっはぁっ……。実際に体動かしてた訳でもないのに、なんか妙に疲れたわ」


「そりゃああんだけ特殊武器をブンブン振り回してたらな」


「ん? それって何かかんけーあんの?」


「聞いたところによると、お前のあの炎の剣は、魔力をエネルギー元にしてるらしいぞ」


「ええ? そっか。言われてみると、魔力マギアをたくさん使った時の感覚に近いかも?」


「つー事だから、実戦に出る時がきたら、無闇矢鱈に使い続けるのは気をつけな」


「そうね。そうするわ」



 素直に頷く樹里。

 こいつも最近は結構人の言う事聞くようになってきたなあ。


 その日の訓練はもう大分対戦していた事もあって、これで終わりとなった。

 前と同じように、全員と対戦が終わるまでこの訓練は続くようで、火神や沙織とも対戦をする事になった。


 前回はなんだかんだ言って、お茶を濁した形になった対火神戦だが、今回ばかりはガチでやり合う事になった。

 火神は樹里と同じでガムシャータイプなので、扱う得物は剣になる。

 といっても、火神のソレは剣というより刀と言うべきものだ。


 火神は剣道でもやっていたのか、ここ最近の戦闘訓練で身に付いたものではない、もっと地に足の着いた剣術で俺に迫ったが、今回は俺にも武器があるので前回よりまともにやりあう事が出来ている。


 特に俺の武器……というか鍬は、見た目には分かりにくいが樹里の炎剣同様に魔力が大いに込められているので、ひっじょおおおおおに頑丈だ。

 その特性を生かした戦い方を続け、どうにか火神から勝利をもぎ取る事が出来た。



「……今回も完敗だ。それも着装状態で負けたという事は、それだけお前の武器の扱い方が優れているという証。まだまだ俺も精進せねばな……」


 なんて事を言っていたけど、いや、今でも十分たいしたもんだと思うんだけどね。

 沙織もそうだけど、なんかこの二人は妙に武術に長けているよなあ。


 沙織とも火神の時同様に勝つ事は出来たんだけど、それ以降よく生身の状態での試合を挑まれるようになってしまった。

 口では控えめな事を言ってるんだけど、沙織は武人の血でも流れてるのか、妙に勝負事には拘る傾向があるようだ。




 そうした対戦訓練の日々が続いていたとある日。

 最近何かとセットで付き合う事が増えた、沙織と樹里の二人で一緒に訓練後の宿舎内で話をしていた。


 近くでは、火神が訓練用の木刀を延々と素振りしている。

 ここは正門から宿舎の敷地内に入ってすぐの広場のような所で、熱心な奴はここで訓練などを行っていた。


 俺も沙織の押しに負けて、ここで何度か試合をした事があった。

 だがそうなると、高確率でここで訓練している火神の気も引いてしまい、二人を相手にしなくてはならんので、面倒な事になってしまう。


「こんな所で話をするんじゃなくて、場所を移そうぜ」


「えー、またあたしの部屋ぁ?」


「別にいーだろ。減るもんでもないし」


「それなら私の部屋はどうでしょう?」


 沙織の部屋か。

 二人っきりでお邪魔したくはないが、樹里もいるならまあ大丈夫……か?


 とにかく、この場にいるとまた沙織の武人魂が目覚めてしまうかもしれんので、離れられればそれでオッケー。

 そんな事を考えていた俺のもとに……正確には俺達三人に所へ、駆け寄ってくる男が現れた。



「ふううぅぅ。やあ皆さん、最近はよく三人お揃いの所を見ますね」


 態々駆け寄ってきてそんな事を言いに来たのか? と俺は根本の野郎を追い払おうとしたのだが、その後に続いた内容が気になるものだったので、俺はすんでの所で手を止める。


「ところで聞きました? なんでも先ほど女子用宿舎の方で騒ぎが起こったみたいです」


「騒ぎぃ?」


 こいつはなんか、そういった情報とか集めるの好きなんだよな。

 いつもはくだらない内容も多いんだが、今回のは根本の表情からしていつもとは違うっぽい。


「ええ。あのいつも男性を連れて歩いていた女性……名前は失念してしまいましたが、彼女が突然宿舎の壁に自分の頭を強くぶつけ始めたらしいです」


「それは……」


 沙織も樹里も、名前を聞かずとも相手が誰だか分かったようだ。

 ……なるほど、大分参っているようだな。

 俺が一人納得していると、根本が続きを話し出した。


「最初は何かのパフォーマンスかと思って、他の人も遠巻きに見てたらしいんですけど、額から血が流れているのを見て、慌てて周囲の人が止めに入ったそうです」


「そんでその女はどうなったの?」


「宿舎の職員を呼んで、後は任せたと言ってました。なんでも止めに入った後も狂ったように暴れていて、手に負えなかったみたいですね」


「…………そう」


 そっけなく言った樹里だが、その表情は複雑そうだ。

 自分を殺そうとした相手だろうが、そのような真似をしたとなれば心配に思ってしまう。

 俺なんかは、いい気味だとしか思えないんだけどな。


「話はそれだけか?」


「え、あ、そうですね。ついさっき仕入れたてのホヤホヤのニュースです」


「そうか。じゃあ、俺達はもう行くからまたな」


「あ、はい。わかりました」


 根本の反応からして、この話題をきっかけにもう少し話をしていこうと思っていたんだろうが、樹里と沙織の様子が少しおかしい事に気づいて、大人しく引いてくれたようだ。

 こいつはこういう所はしっかりしている。


 根本の持ち込んだ情報で大分テンションが落ちてしまったが、直前に話していた通り、俺達は三人で沙織の部屋へと向かう事になった。



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