第51話 開門


「お、おっ? おおおぉぉ?!」


 各タイプごとに分かれて行っていた俺達の訓練だったが、最近になって特別体力訓練を受けていた奴らが戻って来ていた。


 それに伴い、各組では本格的に武器を使用した戦闘訓練が始まったのだが、そんな中俺が別途行っていた訓練の方では大きな進展があった。


「これが……プラーナの力か!」


 そう、ついに俺も謎の気っぽい力、こちらの世界ではプラーナと呼ばれている力の第一関門を突破する事が出来たのだ。

 いやあ、今の俺は色々とチートな事も出来るんだけど、その割にはプラーナの取得には手間どったわ。


 今回俺が成功したのは、プラーナ使いにとっては一番肝心な部分である、魔力をプラーナへと変換し、それを体内へと巡らせるための開門という段階だ。

 この門がまた破城槌でガンガンぶち破ろうとしても破れない、鉄壁さを誇っていたんだよね。


 体内の魔力をプラーナへと変換する中丹田の位置に、魔力を送る事は出来てたんだけど、その先に繋がっている気門というのがどうしても開いてくれなかった。


 初めの内は、力づくで魔力を送ればいけるだろって方針で試してたんだけど、それだとどうにも上手くいかない。

 そこで発想を変えて、この手の修行といえば精神鍛錬……そう滝行だ!

 と思いつき、わざわざ街を出て少し離れた場所で、魔法を使ったそれらしい荒行を試してみたんだけど、それでも開門には至らず。


 けど、そうやって精神修行みたいな事をしてるうちに、何か新しい感覚というか、自身への理解度というか、なんかそういうのが高まったのを感じた。

 他に手が思いつかなった俺は、これがプラーナ取得の兆しと判断して、それからは思いついたそれっぽい修行を片っ端から試していった。


 その結果、周囲にあるものと自身とを融合……いや、一体化させるような感覚を得ると同時に、あれだけ難攻不落だった気門がゆっくりと開かれていくのを感じるに至る。


 一度開かれたらもうこっちのもんよ。

 後は俺が中丹田に魔力を送り込むことで、押し開かれるようにして開門と相成ったのである。


「めでたしめでたし。って、早速これでどんな事が出来るのか試してみるか」


 プラーナの使い方については、これまで周囲にいた教官などを鑑定した時の情報が残っている。

 それを元に……というか、魔力を扱うのと同じような感覚で、体内のプラーナを意識してみると、比較的簡単にプラーナを操作する事が出来た。



「ハッ、フッ……。ホォッ!」


 体内に均一にプラーナを流し込んだ状態で、軽く走ってみたりジャンプしてみたり、魔法で石つぶてを俺自身に飛ばしてみたり、と色々な性能チェックをしてみる。


 すると、火星人に改造されたせいで、素の状態でも軽く魔甲機装以上の身体能力を持つ俺が、よりパワーアップしてしまった事が明らかになった。

 能力比的には、元の数倍以上は軽く出ているようだ。


 これは、気功教官の強化倍率より高い。

 恐らくは、俺がぶちこんだ魔力量が多いため、気功教官より多くのプラーナが発生した為だと思われる。


「これ、もっと魔力をガンガンにプラーナへと変換したらどうなるんだ?」


 気になったので、早速俺は試してみる事にした。

 魔力に関しては無尽蔵と言えるほどにあるからな。


「ハアアアァァァァッ!! もっとだ、もっと気を練りこむんだ!」


 とある超戦士の如く、俺は気合を入れるようなポーズで、一人自室で唸り声をあげる。

 こんな所を誰かに見られたら、どんな噂が流れる事やら。



 カチャリッ……。



 なんて事を考えていたのか悪かったのか。

 ドアが開く音がしたかと思うと、そこからズカズカと中へ入って来る野郎が現れた。


「大地さんいます? そろそろ夕食の時間ですけど一緒に……って、何してるんですか?」


 ねーーーもーーーとおおおおおお!!


 咄嗟に俺は、勝手に入り込んできた闖入者に制裁を加えようとしたのだが、今はプラーナを大量に練りこんでる途中だったので、身体能力がキケンで危ない。

 こんな状態で根本を突いたら、経絡秘孔を突かれたモブキャラのごとく、ひでぶーしてしまうに違いない。


「……弱いキツネほどよくしゃべるようだな」


「え? 何を……言って…………」


 俺のいつもとは違う雰囲気に圧されたのか、根本の顔が貧血気味の吸血鬼のように青くなっていく。


「どうだ? これから処刑される気分は?」


「え、あ、あの、出直して……きます」



 ふう、大人しく出ていってくれたか。

 しかし鍵をかけ忘れた俺もお茶目さんだが、勝手に部屋の中まで入って来るアイツもアイツだな。



「さて、続きといくか……」


 気を取り直して、俺は更に魔力をプラーナへと変換し、全身に送り続ける。


「これは……、なんかヤバそうな気がしてきた」


 まるで体内に空気をパンパンに詰め込まれたような感覚がしてきたので、俺は慌ててプラーナへの変換を取りやめる。

 そして自分自身の状態を把握するために、自身に"鑑定"のスキルを使用してみたのだが……。


 これはアカン。


 現時点で元の能力の数十倍にまで膨れ上がっているわ。

 一応この状態までなら力を十分発揮できるだろうけど、これ以上プラーナを送り込んだら、火星人謹製のこのボディですら力に耐えきれんぞ。


 火星人にはどうやらこのプラーナという概念がないようなので、このように身体能力が強化される事は想定にないんだろう。

 けど、急激に体内のナノマシンがこの新しい未知のエネルギーに対応し始めているのを感じる。


 俺の体は火星人に改造されてから以降も、実はちょこちょこ仕組まれたプログラムによって強化や最適化が行われている。

 それがプラーナという力に触れた事で、更なる俺の体の強化が行われる事になりそうだ。

 超能力やスキルを得たときにも、同じような事はあったんだよな。

 そん時はあんま意識してなかったけどさ。


 このプラーナへの最適化や身体強化が完了すれば、もう少しプラーナによる強化倍率は上げられそうだ。

 けど、今の状態でもなんかとんでもない状態になってるし、そんなフルパワーで戦うような相手なんぞそうそういねーだろう。


「ま、なんにせよこれで課題は一つ達成できた。次の段階としては、もう少し魔力からプラーナへ変換する際の効率をどうにかできんもんか」


 プラーナというのはまだまだ奥深い。

 俺は一部の使い手を見ただけでしかないので、他にも色々な使い道もあるかもしれない。


 けどその前に……、


「このギンギンに詰まったプラーナをどうすればいいか、だな」



 結局ある程度は下丹田に蓄積する事が出来たのだが、それでも余った分は徐々に消費していく他はないようだ。

 プラーナから魔力への再変換は、色々試してみたんだが無理だと結論付けた。



 仕方ない、街の外に出て、無駄に力を発散でもしてくるか……。

 俺は一番効率が悪く、プラーナを無駄遣いする方法。……つまり、プラーナを外部に放出して攻撃するという方法で、街から徒歩一時間ほどの所にあった大きな岩山をぶち抜いた。


 それから数日後。

 王都近辺に、はぐれの強力な魔物が現れて暴れていたという情報が飛び交ったのだが、結局その魔物の姿が確認される事はなかったという……。



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