第49話 いっしきさおりが あらわれた! どうする?
「あのっ、そのっ、えっと……」
思わぬ人物がいたことに、樹里は驚き戸惑っている!
てか、いつもの強気な態度はどうした? がんばれ、樹里!
「笹井さん。大地さんとは随分仲がよろしいんですのね」
「え、えええええっっ!! そ、そんな事ない……わよ」
ちょっと樹里さん。
そんな顔を赤くさせながら言ったら逆効果ですよ。
ほら、沙織の鉄面皮がヒクヒクとしてますですよ。
「ただ、ちょっと相談に乗ってもらってただけよ。ホント、大地とは何の関係もないんだからねっ!」
いやあ、そこでそうやって否定するのは良くないんじゃあないかなあ。
なんて他人事のように思っていると、不意にギシリッという音がどこからか聞こえてきた。
恐らく音の出どころは沙織の方からだと思うんだけど……、見ると沙織は口を真一文字に結んでいる。
……まさか、今の鈍い音って歯ぎしりの音じゃあないよな?
あんな凶悪な咬合力があったら、イザという時に噛み千切られそうで怖いわ。
「そう……ですか。あくまで相談に乗ってもらっていただけ、と」
「ええ、そうよ! べ、別にあたしがどうしようとアンタにはかんけーないじゃない!」
「そうですね。確かに
あの~、「あなた」の部分を強調しながら、こちらにまで視線送るのやめてもらっていいっすかねえ?
「でしょう? それならさっさとこの場から離れてよ。あたしは大地と話したい事を思い出したんだから」
「それとこれとは別だと思いますけど? 私も彼とは話がしたいと思っていたのです。あなたは先ほどお話をされていたのではないですか?」
ううん、以前沙織を鑑定した時のデータからすると、ここからさっきの樹里との会話を聞き取れたかは微妙な所だ。
身体能力や視力辺りが特に強化されてはいたけど、聴覚に関してはそこまでは強化されていなかったんだよな。
「だから、他にも話したい事を思い出したのよ! さ、ほら邪魔だからでていってよ」
「邪、魔……?」
一瞬ピクンと眉を跳ね上げる沙織。
夏場の熱い中で、突然冷風に吹き付けられたような感覚を受ける。
樹里もその寒気を感じていたようで一瞬怯んでいた。
「邪魔、というのなら、それはあなたの事ではないかしら?」
「はあぁ!? 何ゆってんの? あたしらが話してた所に割り込んできたのはそっちっっしょ!」
沙織の挑発的な言葉に、樹里は先ほどの寒気の事も忘れて強く言い返す。
「勘違いしておられるようですけど、元々大地さんと仲良くさせていただいていたのは私の方なのです。それを横から泥棒猫のように、私の見ていない隙を狙ってかっさらっていったのはあなたの方でしょう? その事を踏まえれば、どちらが『邪魔』をしているのかは一目瞭然だと思います。それを言うに事欠いて私の事を『邪魔』だの『割り込んできた』だの、そのような事を仰る前に、まずはご自身の行動について振り返ってみる事をお勧めいたしますよ。そもそも何故あなたはこのような場所にいたのですか? わざわざこのような場所で大地さんとお話をしたりして、出し抜いたつもりなのですか?」
で、でたああ!
沙織の必殺技、『長文一本木口調』が決まったああぁぁッッ!
これにはさしもの樹里も、口をあんぐりと開いたまま固まっているううぅ!!
さあ、二人の攻防の行方はどうなるのかッ!?
風雲急を告げて参りましたぁぁ!
……嗚呼、今すぐここから逃げたひ。
「……どうやら私の言ってる事が理解できたようですね。それでは大地さん? これから一緒にたっっっっぷりとお話をしましょうか」
む、まずい。
沙織が俺の手を引いて、表宿舎の方へ誘導しようとしている。
このまま流されるようについていってしまっていいのか!?
どうする? コマンド?
このまま付いていく。
手を振り払い、樹里との話を優先する。
→三人で一緒に話をしよう! と持ちかける。
ピッ!
「じゃ、じゃあ三人で……」
「待ってよ大地! あ、あたしにまた何かあったら助けてくれるって言ったでしょ!」
……っっ!
それは、俺を引き留めるために咄嗟に出た言葉だったんだろうけど、そこには樹里の中の心細さや不安感も含まれていた。
微かに悲痛さの混じる声色。
……っとに仕方ないな。
「悪いな沙織。という訳で、ちょっとこいつと話をしてくるわ」
沙織もさっきまでとは違う樹里の反応に、正気に返ったかのようにハッとした様子を見せる。
俺はそのまま沙織に背を向け、再び樹里と共に宿舎裏へと歩き始める。
その背中越しに、沙織が声を掛けてきた。
「……お待ちください。初めはただの世迷言かと思いましたが、相談をしていたというのは本当のようですね。よろしければ、私にもその内容についてお話してみませんか?」
思わぬ提案に、宿舎裏へと向かう俺達の足が止まる。
ふと樹里の顔を窺ってみると、その顔には困惑の表情が浮かんでいたが、微かにそれ以外の感情も混じっているように思える。
「……じゃあ、ついてきなさいよ」
どう反応したものか考えあぐねていた樹里だったが、結局最終的な反応はそのような言葉を返すというものだった。
こうして三人で再び宿舎裏のいつもの定位置へと移動し、そこで樹里の身に起きた事件についてを語っていった。
その予想外に重く事件性の強い内容に、沙織の表情は自然と厳めしいものになっていく。
「そんな事が……起こっていたとは……」
身近な人物が毒殺されようとしていた事に、ショックを覚える沙織。
しかも犯人が身近な人物だという事で、更に衝撃度合いは強い。
「笹井さん、今はお体は大丈夫なのですか?」
「え、う、うん。今はだいじょーぶ」
「そう……。それは何よりでした」
先ほどまでの態度とは打って変わって自分を心配してくれている沙織の様子に、樹里は未だに戸惑いが隠せない様子。
「樹里には基本的に魔法があるので、今回のような絡め手でも使わない限り、樹里を害する事は難しい。樹里も今回の件で警戒は強めただろうしな」
「まあ、ね……」
未だに大森に狙われた件については、思うところがありそうだ。
まあ、それも仕方ないか。
そんな様子の樹里を見て、沙織が樹里に話しかける。
「私も彼女から嫌がらせは受けましたけど、このような事件性の強いものではなく、些細なものばかりでした」
いや……。
俺は時折沙織からその話を聞いていたけど、強化人間である沙織だから些細に感じるのであって、普通の女相手だったらかなり陰湿で悪質な事をされてんだよな。
沙織本人にはその自覚がないようだけど。
「ですが今回のは明らかに殺人未遂です。笹井さんは彼女をこのまま放っておかれるのですか?」
「それは……あたしも考えてみたんだけど、今回の件に関してはこれ以上あたしからは何もしないって決めたの」
「ですがそのように受けに回っていては……」
「うん。だから、次に同じような事をしてきたら、同じような目に合わせてやるつもりよ!」
「そう……ですか。分かりました、これ以上私が出しゃばる事ではないようですね」
「俺もこの件に関しては樹里に加勢すると誓ったし、スマンが沙織も樹里の事を気にかけてやってくれないか? 女子用宿舎の中までは俺も手が出しにくい」
まあ、出しにくいってだけで、樹里の部屋まで乗り込んでいったり、夜中に大森の部屋に忍び込んだりはしてるけどな。
「ええ、分かりました。微力ですがお力になれたらと思います」
「そ、そう……? あ、あ、あ……………りがと」
「ふふふ。いえ、どう致しまして」
おおう、あの天下分け目の大決戦といった様子から、よくこの場面へともってこれたな。
今の沙織の笑みも、自然なものだったしめでたし、めでたし……と。
あ、でも一つ注意事項があったのを思い出した。
その事を伝えたら、ここから立ち去るとするか。
そして俺は徐に口を開いた。
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