第47話 制裁
「それより智子様。あのいけ好かない魔法使いの女に、何やら仕掛けていたようですが、何をしていたのですか?」
「ああ、あの生意気なメスガキね。なあに、簡単な事よ。おみやげのスイーツに毒を仕込んだだけ。それも、魔法使いにしか効かないっていう特製の毒を、ね」
……幾ら夢の中とはいえ、速攻でゲロったな。
というか、その話の感じだともし毒を買った商人に騙されていたら、一緒にスイーツを食べたお前も危うかったと思うんだが。
その辺をちょいとつついてみるか。
「なるほど、流石智子様でございます。もし商人が言っていたのが嘘だったら、自分も毒を食べていた事になりますが、そのような些細な事は気になさらないのですね」
「当然よ! 私が毒になど……え?」
お?
なんか反応が変わったな。
あの感じだと、何も考えてなかったっぽい。
「毒をも恐れぬ智子様、流石でございます」
「そ、そそそそうよ! 私の前には毒ですれひれ伏すという事なのよ! ホーーーホッホッホ!」
ううん、頭が痛くなってきた。
精神攻撃を仕掛けようとしてる側までこのような気分にさせるとは、そこだけは認めてやるぜ。
ま、冗談はさておき。
これでこいつがクロだと確認できた訳だが、あと一つ確認しておくことがあるな。
「ところで智子様。あのお茶会の時にはもう一人女性がいたようですが、彼女も協力者なのですか?」
「あの芋女の事? あれはたまたま出くわしただけで、毒の用意から仕込みも全てこの私がやったのよ!」
……樹里とは別の意味でチョロすぎるな。
それとも、夢の中から干渉したらみんなこんなもんなのかあ?
ええと、これで確認したい事は全部済んだな。
あとはどう始末をつけるかだが……。
正直始末をするだけなら簡単ではある。
実際やってみないとわからんが、恐らく俺は表情一つ変える事なくこの女の首を斬り飛ばす事も出来ると思う。
死体はとりあえずアイテムボックスにでも突っ込んでおけば、隠蔽はできるだろう。
そんな物騒な事を考える俺の脳裏に、あの時の樹里の言葉が浮かんでくる。
『これまでは余りお話してこなかったけど、これからは街の方にも一緒にいかない? なんて言われたら、無下に扱うのはカワイソーじゃない』
……やはり、それだけで済ますのは俺の気が済まん。
とりあえずは、このまま精神魔法の実験台として役立ってもらうとして。
その後に継続的な嫌がらせは出来んもんか。
んーー……、そうだなあ。
まずはこいつにも俺のナノマシンを埋め込んでおこう。
樹里とは違って肉体を補助する為ではなく、逆方向に働かせるようにしておけば、いつでも謎の怪死を遂げさせることが可能だ。
あとはナノマシンの一部を使って、体内に通信アレイを組み込んでおこう。
これでまた樹里に対して何かしでかした時には、自動で俺にまで通信で知らせるようにも出来る。
軽い口調で言ってるけど、これも大した技術だよな。
なんか某SF海外ドラマのように、火星人の技術には分子の配列を組み替えて、様々なものを作り出す技術とかもあるんだよ。
これを応用すれば、両腕をもがれても即座に再生させる事も可能だ。
それと今回他人の夢を調査してみた結果、粗方そのメカニズムも理解できたので、こいつも使って嫌がらせをしよう。
悪夢にも色々な種類があると思うが、中でもこいつが嫌がる悪夢を自分自身で考えさせて、それを毎晩放映して悪夢ロードショーとしゃれこもう。
なあに、お代はいらないぜ。
……よし、こんなもんでいいか。
俺は意識を現実へと戻すと、そこでは変わらず眠りこけている大森がいる。
まずは、こいつにナノマシンを送り込むための入口を開けて……ズシャッ、それからナノマシンを投入……デュクンデュクン、うむ、これでよし。
寝てる時に見る悪夢のプログラムを、ナノマシン経由で仕込んでおいて……。
ナノマシンをぶちこんだ傷口から、血が出ていたのでシーツでふき取っておく。
オッケー。忘れ物はないな?
ハハハ、それでは諸君、ごきげんよう!
俺は謎の怪人になりきりつつ、再び木窓から空を飛んで外に出る。
「えっ……!?」
……と、そこで女の声が聞こえてくる。
それは数部屋離れた場所にある、樹里の部屋の窓からだった。
樹里は窓の縁からこちらを驚いたような目で見ているが、この暗闇の中では俺の正体までは分からんだろう。……分からんハズだ。
立つ鳥後を濁さずとはいかなかったが、俺はそのまま夜の闇へと飛び去った。
ううん、次に樹里と会った時に何か言われるかな……?
にしても、思うままに大森に色々とやり返す事ができたので、少し前に感じていたくさくさしたような感情は、すっかり俺の中から霧散していた。
やられたらやり返す!
目には目を、歯には歯を!
……まあ、この有名な言葉ってなんか本来は少し違う意味で使われていたとか聞いたことあるけど、今の俺の心情にはこの言葉がピッタリ来る。
とにかく満足がいった俺は、この日は自室に戻って睡眠を取る事にした。
そして次の日。
その日は結局一日中樹里とまともに二人きりになる事はなく、彼女との接触はなかった。
変わりに根本の奴がペラペラと煩かったのがうざかった。
何が『怪奇! 真夜中に浮かぶ謎の吸血鬼の正体とは!』だよ。
そんなゴシップネタになんで俺が突き合わされなきゃならんのだ。
根本には愉快なゴシップネタのお礼に、俺のドロップキックを与えておいた。
なかなか見事なドロップキックだったぜ。
「ちょ、ちょっと……今のはシャレにならないですよ」
なんか言ってるが、根本の表情はほとんど変化がない。
いつも通りのキツネ顔だ。
苦痛に顔を歪めてる訳でもないし、ま、だいじょぶだろ。加減はしたしな。
そして更に翌日。
俺は昨日樹里と接触が取れなかった事を少し気にしつつも、いつも通り宿舎の裏から中へと入る。
これはもはや、単にショートカットするためというよりも、樹里と会うために通ってるって感じになってんな。
これまでの俺だったら、そういった面倒臭い人間関係の構築を自ら行うなんて事はほとんどしなかった。
でも今は、こうして接触を取ろうとすることに心地よさのようなものを感じている……気がする。
ううん、これが普通の人間らしい反応としては、好ましい状態なのかもしれん。
けど火星人に改造される前の俺は、こんな風ではなかった。
人として好ましいとされる状況が、火星人の手によってもたらされた事がどうも腑に落ちん。
単純な身体能力の強化とかならいいんだが、精神活動まで改造されたとあっては、最早以前の俺とは別人なのではないか。
……そんな事を考えそうになってしまう。
ううーん、イカンイカン!
こんな事を考えても暗くなるだけだ。
今はそれより宿舎の裏の隅っこで、モジモジとしてる樹里の対処をするべきだろう。
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