第46話 夢の中
ガタッ……ガタガタッ……。
俺は夜になるのを待ち、女子用宿舎の三階の部屋にある木窓を、
俺の耳にはガタガタとした音が聞こえているが、魔法で部屋の中には音が聞こえないようにしてある。
単純な作りの木窓なので、外側からでも開ける事が出来るという事は、自分の部屋の窓の構造からも予測がついていた。
それに、まさか外から
なお俺が空を飛ぶには超能力か魔法の二択だったが、今回は超能力を使用する事にした。
なんとなくこちらのが周囲にもごまかしが効くような気がしたのだ。
そうやって俺が部屋の中に入ると、中には部屋の主が粗末なベッドでぐっすりと寝ていた。
別にこの部屋だけが粗末なベッドなのではなく、宿舎全体の基本寝具が全て粗末だというだけだ。
といっても、この世界の人からすればこれが基準としては普通らしいのだが。
「ん、んんんん……」
侵入者である俺に気づいた訳ではないようだが、部屋の主がうなるような声を発する。
俺はベッドの傍までゆっくりと音を立てないようにして近づき、様子を確認してみる。
大森智子……。
今俺の中で絶賛犯人候補ナンバーワンの女だ。
近くに俺がいる事に気づいた様子もなく、少し寝苦しそうに寝息を立てている。
俺はまず先ほど部分的に展開した遮音の魔法を、部屋全体に張り直した。
壁だけでなく、床や天井全面に渡ってだ。
これで大きな音を立てても、周囲に気づかれる事はあるまい。
で、これから何をするのかというと、これは樹里に毒を仕込んだ犯人を捜すと共に、俺の魔法の実験でもある。
これまで直接的な攻撃魔法や、空間魔法などについては練習してきたんだが、人の精神活動に関する魔法というのは未知の分野だった。
そこで俺はこの女を実験台に、色々とそっち方面の魔法を研究してみるつもりだ。
……ただ、それはこいつが黒だと確定してからの話。
最初に事実関係を確認する為にも魔法は使うが、それは疑われるような事をした自分自信を恨んでくれ。俺はお前には容赦せん。
さて、その事実を確認するための魔法だが、どうしたもんかな……。
魔法というのは、想像力を働かせることで如何様な事も実現可能であると思われる。
といっても、火星人の「想子」の知識では魔法で出来る事にも限界はあるようだけど……。
まあ、それはいいとして。
とりあえず……そうだな。
今こいつは寝ている訳だが、夢は見ているのかな?
その辺から干渉する事が出来たら、わざわざ起こさなくても済むんだが……。
ま、とりあえずやってみよか。
ええと、こいつの夢の中に侵入していくようなイメージを。
そして、そこからこいつの心の中を覗き見るようなイメージを。
俺はそう集中しながら右手部分に魔力を集め、それを寝ている大森の頭部へと翳す。
すると、直接触れてはいないのだが、なんらかの電気信号のようなものを感じ取る事が出来た。
俺はゆっくりと手を近づけていきつつ、脳内CPUではこの電気信号のようなものの解析を同時進行で行っていく。
どうもこの電気信号には規則性が見られるので、解析すればなんらかの情報が得られるはずだ。
ああ、それとそうだ。
"鑑定"による常時モニタリングも並行して行おう。
これだけ解析に力を入れていれば、魔法の力で大森への精神干渉に成功していれば、ソレだと判別出来るはず。
俺は"鑑定"と電気信号の解析をモニタリングしながら、魔力の波長を変えたりイメージをより先鋭化したりと、調整を行っていく。
これは……。
続けていくうちに、段々と調子を掴んでいく。
俺の脳内では膨大な演算処理が行われていて、脳機能の改造処理をされていなければ、高熱で脳が溶けている所だ。
……昔のパソコン用の爆熱CPUで、目玉焼きを作ってる動画とかあったよな。
そんな余計な事を考えつつも、凄い速度で夢を通じての精神干渉に関するデータが集まっていく。
毎回思うんだが、この火星人の科学技術……なのかすらも分からない、高度な超化学は異常だな。
言語だって、ほんの少し未知な言語の会話を聞いただけで、会話中にしなかった言葉の意味とかまで理解できるようになっているのだ。
聴覚だって、俺の部屋から隣の女子宿舎の建物の中の話し声まで拾えるって、一体どういう理屈なのかさっぱり分からん。
進んだ科学技術は魔法とは変わらない、なんて言葉もあるけど、火星人の技術はまさにそれよな。
だって、ほら。
もう俺の脳内には、現在大森が見ていると思われる夢の光景が映しだされているんだぞ。
その夢の中の光景は、夢の中のせいかハッキリとした映像ではない。
どこかぼんやりとしていたり、視界の端の部分が突然途切れて、その先が真っ暗な空間になっていたりと、整合性は取れていないようだ。
で、夢なんだから見ている本人がどこかにいるハズなんだが……、アレか?
どうも場所はどっかの日本の大学の構内のようだが、そのキャンパスの一角に大森らしき人物がいるのを発見した。
でもあれ?
夢で見ている光景のハズなのに、なぜか大森視点ではなく第三者視点だな?
まあこっちの方が見やすくていいけど……。
それで大森らしき人物なのだが、現実の本人よりも5割くらい美化されていた。
そして、たまたま……なのか故意なのか知らんが、周りにいる女達は反対に美人が皆無で、何やら大森に向かって汚い言葉を投げつけているようだ。
しかし大森は周囲の罵詈雑言を気に留める事もなく、逆に相手を逆上させるような態度を続けている。
そんな彼女の周りには、イケメンが周囲をグルリと囲んでいて、興奮して近寄ろうとする女達から大森をガードしていた。
……なんというか、余りに俺のイメージ通りの大森過ぎて、俺が恣意的にこういった映像に改編してるのではと思ってしまう程だ。
しかし、解析結果ではこれが今大森が見ている夢である事を示している。
このままこの茶番を見ていても仕方ないので、俺はそろそろ本格的に干渉を始める事にした。
まずは、途中で大森が目を覚まさないように、魔法で更に深い眠りへと誘う。
元々そういった魔法は使えなかったのだが、これまでの夢や他人の精神への介入実験の副産物のような感じで、人を深い眠りにつかせる魔法を使えるようになっていた。
手術の前に麻酔をかけるかのように、俺の魔法によって更に深い眠りへと大森を導く。
すると、先ほどまでは時折うなり声を上げて寝ていた本体の大森だが、今はスースーと静かな寝息に変わっていった。
「どうやら成功しているようだな」
これで外堀は埋めたので、後はもう思う存分にやればいい。
まずは……そうだな。
この周囲のイケメンを操作して、樹里の事について聞いてみるか。
……の前に、周りの女どもが邪魔なので彼女らには一旦引いてもらう。
他人の夢に介入して、自在に弄れるというのも恐ろしいもんだな。
俺の指示した通りに女どもは引いていき、残されたのは大森と数人のイケメンのみだ。
「ふう、まったく卑しい女達ね。まずは自分の顔を鏡で確認する事から始めたほうがいいんじゃないかしら」
「その通りですね、智子様」
「智子様が美しすぎるのですよ」
「そうだ、そうだ! 内面の酷さで智子様にかなう奴はそうそういないぞ!」
「ホホホ、みんなそう本当の事を言うもんじゃありませんよ」
おおう、ホホホとかいうあの笑い方、アニメとかコントで見たような笑い方だぜ。
そもそも、俺の操作したイケメンが大森の事をディスってるのに、それに気づいた様子もなく普通に返している。
ううん、この方法だと大森に本当の事を吐かせるのは無理か?
夢の中では正常な判断や受け答えが出来ない可能性もあるな。
でもまあ、とりあえずは試してみるか。
そして俺はイケメンを使い、樹里の件について尋ねる事にしてみた。
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