第41話 ペンダント


「さて……」


 アイテムボックスの魔法を完成させた俺がまず行ったのは、中身の拡充……主に食料品や日用生活品をアイテムボックスにぶち込む事だった。

 これは今後もちょくちょく行う予定で、一度に派手に動くことは避けている。


 そんなアイテムボックスへとぶちこむ品を探してる途中で、俺はペンダントをひとつ購入した。

 大分混ぜ物が入っている銀製のペンダントで、気になって鑑定してみた所、純度が81.3%となっていた。


 昔どっかで見た事のある、中世の銀貨の純度はこれより純度が高かったはずなので、品質的には微妙なんじゃないかと思う。

 ただ、ペンダントトップには魔物が死ぬときに落とすという魔石が拵えられていた。


 魔石……というのは、名前の通り魔力に関係しているもので、この世界では魔物の核であり、エネルギー源であるとされている。

 笹井のいた世界にも、魔力を蓄える石というものはあったようだ。


 俺は魔石部分に対して、"鑑定"を使用してみる。

 小さなものなので、それほど時間はかからず組成などが判明した。

 確かに微量ながらも、この石には魔力が蓄えられているようだ。


「これって魔力の補充する事って出来ないのかな?」


 一応事前に街の人から聞き込みを行った時は、そんな事は出来ないという答えしか返ってこなかった。

 けど、鑑定してみた結果、なんかこーいけそうな気もするんだよな。


 とりあえず魔石部分に触れ、指先から魔力を送り込むように意識してみる。

 ……が、普通に弾かれてしまい、行き場を失った魔力が俺の指先に溜まっていく。


「やっぱ普通にやってもダメか。魔力を送ろうとすると抵抗される感じがあるんだけど、石そのものからの抵抗ではないんだよな……」


 俺はブツブツ言いながらも、魔石への魔力注入実験を続ける。

 その結果少し見えてきたことがあった。

 どうも先ほどの抵抗感は、石の周辺空間からの圧力のようなものが原因ではないかという事だ。

 よくは分からんが、浸透圧みたいなもんか?


「んー、それなら魔石の周囲を真空状態にして、魔力を注入してみるか」


 早速魔石の周囲に結界を張り、内部の空気を取り除く。

 何気ない風に言ってるけど、ちゃんとした実験器具もなしこんな事が出来るなんて、魔法の可能性は広いよなあ。

 しかし実験は失敗に終わる。


 ……可能性は広いんだけど、実験がそう上手くいく訳でもないんだよなあ。


 仕方ないので、この件は一旦先送りにする事にして、引き続き物資の集積を続けていく。

 何が必要になるか分からんからな。

 アイテムボックスの空間は相当広くとってあるので、もう手当たり次第といっていい感じでポイポイと投げ込んでいく。


 と、その途中でふと気づいたんだが、あの謎空間って本当に何もないんだよな。

 物質的なものは皆無で、なんか、ドロドロとした力のようなものを空間全体に感じるんだけど、魔力とか超能力とかそういったもんでもない。


 とにかく俺の"鑑定"でも鑑定する対象がないために、ほんと謎空間としか言えん場所な訳だが……、あの空間なら真空以上に外部の余分な影響を排除できるんじゃないか?


「よし、早速やってみるか」


 だけど、いちいちあの空間に行くのもしんどい。

 大分慣れてはきたけど、空気も光もなんもない空間ってのは、肉体が無事でも精神的にはキツイんだよ。


 そこで、俺はあの謎空間をこちらの世界で再現する事にしてみた。

 散々あっちで実験を繰り返して少しは扱いにも慣れていたので、それくらいは出来るはず。


 まずは魔石の付いたペンダントを念動力で宙に浮かべ、その周辺をアイテムボックスの外縁部を覆っているような結界で覆う。

 次に結界の内部を謎空間へと作り変えていく。


「ぐ、ぬうぅ……」


 俺の魔法によって、思い通りの結果を生み出すことには成功したが、これまで感じた事がないほどに魔力を消耗してしまった。

 まあそれでも、急にちょっと重いものを持たされた程度だったので、全体量からすれば微々たるもんだ。


 あの謎空間をこちらの世界で再現しようとすると、えらい魔力を消耗する事が判明した。

 そーいえば、昔のアニメで虚無の剣だかを生み出す魔法があったな。

 あれもすげー魔力を消耗してたけど、この謎空間もまあ虚無っていったら虚無っぽいし、案外似たようなもんかもしれん。



 とりあえず、魔石の周囲を謎空間で埋めることは出来たので、後はその状態で魔石に魔力を注ぎ込む事が可能かを調べよう。

 ……なんか、結界の内部だけ真っ黒になっているのが、妙に不気味だ。


 謎空間では周囲全てが真っ暗なので気にならなかったけど、現実世界で見ると違和感がすごい。

 以前ネットで見た、世界一黒い物質の話を思い出す。


 謎空間を覆う結界は、俺の体だけは素通りするように設定してある。

 とはいえ、この真っ黒な場所に手を突っ込むのは若干抵抗感があるな。


「ええい、ままよ!」


 俺は気合の声と共に結界内に手を差し入れ、魔石の感触を手で確認すると、さっそく魔力を流し込められるか試してみた。


「ん……、これはいけてる感じがするな」


 俺は慎重に魔力を籠めていく。

 これまでの経験から、俺の魔力量がとんでもない事が分っているので、魔石が破裂しないようにジックリコトコトと魔力を送る。


「ん?」


 ゆっくりと魔力を注ぎ込んでいくと、徐々に抵抗感のようなものが出始めた。

 魔力を注いでも押し返されるような感覚がするのだ。


「これは、容量が一杯になってきてるって事か?」


 元々大きな魔石でもなかったし、注げる魔力はたかが知れてると思っていたので、俺はやりすぎない程度に調整して、魔力の注入を終える。



「はてさて、どうなったかな?」


 俺は何の気なしに、結界を解除する。

 すると、突然風が沸き起こるのを感じた。


「っとお、中の謎空間の事を忘れてたぜ」


 真空空間に空気が流入していくかのように、急激に周辺の空気が引き込まれたような現象が発生したが、空気だけでなく周辺の微量な魔力にまで影響が出ている。


 規模がペンダントトップを覆う程度だからよかったものの、もっと大規模なものを解放したら、周辺の魔力場が大きく乱れるかもしれない。

 まあそれだけ巨大な謎空間を現実世界で作るのは、流石の俺でもきつそうだけど。


「で、肝心の仕上がりは……おおぉ!」


 最初は黒みが強く、部分的にうっすらと紫色が混じったような見た目の魔石だったんだが、今では綺麗な青色の石に驚きのビフォーアフターしている。

 青といっても、純粋な青というよりは、引き込まれるような少し水色がかっている青だ。


「うん……、魔力も前とは段違いに感じられるし、なかなかの仕上がりになった」


 というか、前の状態なら魔石部分がおまけのような感じだったが、今はこちらがメインといった感じだな。

 混ぜ物の入った銀のチェーンだと、魔石部分だけが妙に浮いてしまう。


「まあ、いいか。別に自分で身に着けるもんでもないしな」


 そう、俺がペンダントを購入したのは、笹井の奴にプレゼントするためだった。

 別に好感度を上げるためとかそういった意味ではなく、アイテムボックスの開発にそれなりに笹井の話が役に立ったから、そのお礼という訳だ。


 俺は笹井へのプレゼントをぶら下げながら、いつも通り宿舎の裏手を飛び越えるのだった。


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