第34話 特殊武器


「生み出された武器は、魔甲機装の外装部と同じような素材で構成され、非常に丈夫だ! しかし、それでも破損する事はありえる」


 これまでの魔甲機装同士の無手での戦いでも、外装部分が破損した事は何度かあった。

 強く打ち付ける事が前提の武器となれば、同じように破損する事もあるという事だ。


「もしそのような状態になったら、タンゾータイプに修復してもらうか、『武装解除』と唱えて一度武装を解除した後に、再度『武装』することで元通りになる。しかし、その分多くの力を使う事になるので注意が必要だ!」


 なお、『脱装』で魔甲機装そのものを解除した際にも、自動的に『武装』で出した装備も一緒に解除されると、教官が捕捉で伝える。



「という訳で、今日はこれから各自の武装テストを行う。一名ずつ前に出て、『武装』を試してみろ!」


 そう言って教官は脇に下がる。

 今日はいつもより多めの兵士が教官の近くにいて、どうやら一緒に武装テストを鑑賞するようだ。


 はじめ日本人たちは誰が最初にテストするのか、互いを様子見して睨み合う場面があったが、結局教官が一人を指名したのでそいつから武装テストが始まった。






 教官の言っていた通り、武器にも個人差というものが現れてはいたが、タイプによって武器の種類は決まっていた。


 戦闘タイプであるガムシャーは剣。

 防御タイプであるボーシュは斧と盾。

 水属性を持つリュースイは槍。

 治癒属性を持つというタンゾーはハンマー。


 そして、肝心の俺の操るマンサクなのだが……。



「なんだべ、これは? 妙におらに馴染むんだけんど」



 マンサクタイプの最初のテスターは、寄りにもよって権助どんであり、元々巨大な魔甲機装を操るせいか、生み出された武器の方も巨大であった。


 しかし、それは果たして武器と呼べるものか疑問も残る。

 権助どんが生み出したのは、巨大な鍬だったのだ。


 そう。

 

 一揆をする農民の間でトレンディーな武具であり、本来は畑を耕す時に使うものだ。

 あれだけでかければ、さぞや畑の開墾も捗る事だろう。

 っつか、元々マンサクは農作業用の機装なんだけどね。


 俺が"鑑定"で解明した情報の中には、この時代では伝わっていない事が多い。

 そもそも戦闘向けじゃない機装を、無理矢理戦闘用に使用してしまったのだから、ハズレタイプと言われるのも仕方ない事だ。


 存在が忘れられている特殊機能も、「植物の育成を早める」だしな。

 それも植物系の魔法使いみたいな感じに、伸ばしたツルを相手に絡めるなんて器用な真似はできない。

 本当にただ、ニョキニョキと植物を成長させるだけの力しかない。


 いや、本来はこれも人が生活していく上では重要な力ではあるんだよ。

 ただ戦闘には使えないんだ、これが。


 もう遅いかもしれないけど、この力を活かして食料を増産し、人口を増やして戦力を整えれば、少しは魔族とやらにも抵抗出来るんじゃないかな? という気はする。


 戦闘をしなければ、これまで数千年も機能しつづけている魔甲機装ならば、まだしばらくの間は稼働する事も出来よう。

 どうせマンサクタイプは戦力的には劣っているんだからな。

 いっその事、農業用マシンとして切り替えた方がいいと思うぞ。





「よし、次はお前だ!」


「分かったわ。凄いのを見せてやるから!」


 得意気に前に出て行ったのは、その性格から孤立してしまっている笹井樹里だ。

 彼女は根本のように超能力は持っていないのだが、日本生まれでありながら魔力を普通に持っている。


 それも、この国の魔法使い基準でいえば、相当な魔力量をだ。

 召喚初日に、魔術士長と呼ばれていた奴がいたけど、ソイツよりも魔力量だけでいえば多い。

 笹井のあの態度や性格からして、恐らくは日本にいたときでも上位に入っていたんじゃないだろうか。



「着装」



 まずは笹井が魔甲機装を纏う。

 笹井の魔甲機装は、外装の色合いが全体的に濃い。


 魔甲機装は個人差があれど、俺達の中で色による特徴があるのは俺と笹井のみだ。

 これは着装時に吸われる魔力が影響している。


「行くわよ! 『武装ッ!』」


 笹井の声に応じて、手の先から赤い光を発しながら武器が生み出されていく。

 ガムシャータイプが生み出す武器は剣なのだが、これまた人によって大きさや形状が異なっている。


 これまでの他の二人は、オーソドックスな西洋剣に、反りのある片刃の剣……すなわち日本刀を出していた。

 ちなみに日本刀を出していたのは火神だ。奴らしいといえば奴らしい。


 さて、笹井の剣はというと、形状はショートソードでありながら、その刀身には炎が纏われていた。

 その炎は、笹井が剣をブンブンと振り回しても消える事がなく、燃え続けている。



「どうよ! あたしのこの燃え盛る剣は!? 対戦の時が楽しみね!」



 クラスは最低のキガータであるが、特殊な武器を生み出した事で教官らの注目も高まっていた。

 そして教官は何やら現地語で、兵士らと話を始める。


『特殊武器を発現させるとは、召喚者では初めてですか?』


『いや、数十年前の初期の頃、ボーシュの使い手に一人いた』


『数十年前……。確かに私が生まれる前の話でありますが、初耳です』


『それもそうだろう。その男は我々に牙を剥いたので、早々に処理されてしまったのだからな』


『なるほど……。あの娘はどうですかな? 使えますかな?』


『処理された者も、我が国の魔甲騎士で特殊武器を発現させた者も、残念ながら低クラスの者たちばかりだ』


『そういえば、あの娘もキガータでしたな』


『そうだ。確かに特殊武器は強力ではあるのだが、他の魔甲騎士に渡す事も出来ず、生み出した本人にしか使用できん。低クラスでもそれなりの戦力にはなるのだが、そうした特性の為、元々高いクラスの魔甲機装に比べるとどうしても劣る』


『そうでありますか。しかし、キガータとはいえガムシャータイプ。それなりに活躍は期待できますな』


『それは違いない』






 笹井の武装テストが終わり、すでに次の奴の番になっていたが、教官たちはしばらく笹井の発現した特殊武器について語っていた。


 特殊武器自体は時折発現する者がいるようなのだが、そいつらは軒並み低クラスの魔甲機装の使い手らしい。

 笹井も例に漏れず、キガータタイプだ。


 だがそもそもあの適性検査は、あの装置を生み出した文明の連中用に調整されたもののハズだ。

 それから数千年も経過していれば、色々不具合が出てくるのも当然じゃないか?


 思えば俺の適性検査の時だって、なんかおかしかった気がするんだよなあ。

 他の奴より妙に時間がかかってた気もするし。


 だから、もしかしたら俺や笹井でも上のクラスの魔甲機装を普通に使えるんじゃないかって気がするんだけど、どうなんだろ。

 まあこの辺はあの適性検査が、何を判断してタイプやクラスを決めているのか分からん以上、なんとも言えん。


 ただ一つ分かっているのは、他の奴が持っている魔甲玉では着装出来ないという事だ。

 同じタイプの奴でもそれは同じだった。

 一度使用すると、その人物にロックされてしまうのか、或いはあの検査装置によって搭乗者の情報が登録される仕組みなのかもしれない。






 その後も武装テストは続く。

 いつもより多い兵士の一部の連中は、武装が発動される度に何か手元の紙に書いているようだ。


 いや、描いている……かな?

 着装時の姿や、武器の形などは個人差が出るので、ああして記録しているんだろう。


 やがて根本の武装テストの番が来たのだが、奴の発動したのは特にこれといって変哲もない白いハンマーだ。

 他のタンゾーの奴と比べると、少し柄の部分が長いので、リーチが稼ぎやすいだろう。


 武器の色については、外装と同じ色が基本となっている。

 最初に適性検査の時に色分けの札をもらっていたが、あの色はそのまま魔甲機装の色を表していたんだな。



「おい、次はお前だ」


 どうやら根本の次は俺の番らしい。

 俺が前に出ると、他の日本人のいる待機場所に戻る途中の根本とすれ違う。


「なんか面白い事、期待してますよ」


 その際に、小声でそのような小憎らしい事を言ってきたので、俺は反射的に奴の頸部に恐ろしく速い手刀を叩き込む。


「あ」


 途端、その場で倒れこむ根本。


 ベレー帽を被った、血の臭いに敏感な殺し屋でもない限り、今何が起こったのか理解できないだろう。


「んー? お前。どうしたあ!?」


 兵士が根本を呼ぶ声が背後から聞こえてくるが、俺は構わず所定の位置に立つと、まずは着装をした。



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