第33話 次の段階の訓練
火神との対戦の日を乗り越え、事なきを得た俺。
あれからしばらくの間、火神が"益荒男"について気になるっているのか、やたらと俺に接触を取ってきた。
その度に俺は知らぬ存ぜぬを繰り返した結果、最終的には問い詰めるのを諦めたようだ。
訓練の方は、一通りの組み合わせでの魔甲機装の対戦が終わると、次の日からは同じタイプの者同士での対戦に切り替わった。
従って、あの鬼性能の火神の魔甲機装はしばらく相手しないで済む。
なんでも、同じタイプの者と戦う事で、自分の機装の弱点部分などを意識させる事が目的らしい。
同じクラスの同じタイプであっても、魔甲機装には個人差が出るようだが、幾つか共通の部分や似ている部分もある。
そういった部分を、近いタイプの者と戦うことによって、体の感覚で覚えていくのが目的との事だ。
まあ、俺は"鑑定"能力によって、すでに全員分の魔甲機装のデータは頭に入れてある。
例えば権助どんにやった足の弱い部分を突くという手だが、ボーシュタイプは防御力が高めで、権助どんの時ほどの効果が望めないだろうというのも判明している。
最も権助どんはあの図体のでかさもあったから、よりクリティカルに効いたんだけど。
さて、そうして同タイプでの訓練の日々を繰り返して、二週間ほどが経過した。
最近、火神が俺との約束を実践しようとしているのか、下位クラスの奴ら相手に武術の練習をしないかと誘っている。
もっとも、その誘いに乗る奴はひとりもいなかったようだ。
武術を覚えれば魔甲機装での戦いにも応用できる、という謳い文句で誘っていたみたいだけど、現状それでは誘いに乗る奴もいないだろう。
実際に戦場に立って、ぼろぼろになりながら運よく生き残れた後になら、火神の提案を受け入れる奴も出るかもしんないけど。
まあでもその調子で試行錯誤していけば、少しは弱者の気持ちも理解できるようになるだろう……多分。
それよりも、今は次の訓練の事が気になる。
詳しいことは教えてもらっていないんだが、なんでも基礎能力がそこそこ出来てきた頃だから、次の段階の訓練に入るって話なんだよな。
この基礎能力ってのは恐らく、魔甲機装に仕込まれた機構によって、乗れば乗るほど超能力が鍛えられるっていうアレの事だと思う。
となると、次の段階の訓練は恐らく特殊能力についてだろう。
すでにタンゾータイプに関しては、一足先に訓練中の破損などの治療を何度も行っている。
もっとも、根本以外の二人のタンゾータイプの使い手は、最初にちょっとした修復をしただけで気を失って倒れていた。
あれから大分月日も経って、基礎能力も高まってきたせいか最近はそういった話は聞かない。
が、この事から分かるように、やはり最初から特殊能力を使うのはマズイようだ。
元々超能力を持っていた根本のような奴でない限り、最初は魔甲機装で慣らして基礎能力を高めるという方針は正しい。
で、俺が気になってるのは、次の段階の訓練とやらが特殊能力の訓練だった場合、マンサクタイプは何をするんだろうという事だ。
……実は俺が他の全員の魔甲機装を"鑑定"して回った結果、俺は一つの発見をしていた。
それは、他のタイプに実装されている特殊能力に関連すると思われる機構が、マンサクタイプにも実装されているという事だ。
その能力についても、俺は実際に自分で試してみて効果を確認している。
その結果、「所詮マンサクはマンサク」という結論になってしまったのだが……。
まあそれはいいとして、マンサクの特殊能力に気づいた俺は、本当にこの国の奴らがマンサクの特殊能力の事を知らないかどうか、軽く調べてみた。
そうしたら、やはり世間で言われている通り、マンサクの特殊能力に気づいている者は皆無だった。
という事は、ひっそりマンサクだけ別所で特殊能力の訓練を受ける、などという可能性もなくなる訳だ。
そうなると、他の奴が火だの水だのを出してる中、俺達マンサクは通常訓練をしてるだけになりそうだな。
最初の内は、新しい
しかも俺は既にキガータマンサクの機能をフルに活用出来ているし、対魔甲機装訓練に関しても、一部の性能差厳しすぎる奴以外には勝てる。
子供時代へと意識と記憶ごとタイムスリップした大人が、もっかい小学生の算数の授業を受けてるような、そんな感じがするんだよ最近。
そんなマンネリを感じ始めていた俺だが、次の訓練内容に変わると同時に、そうしたマンネリ感がまた一時的に失せていく結果になった。
「よおし。全員揃ったな? 今日からお前達には魔甲機装による次の段階の訓練を開始する!」
教官の声に、幾人かから「おー」という声が聞こえてくる。
近々次の訓練に移行するとは言われていたが、具体的に何時からとは聞かされていなかったのだ。
「その次の段階の訓練とは、武器を使った戦闘訓練である!」
教官のその言葉に、日本人の反応は様々だ。
元々戦闘に興味のあった奴や、高いクラスの奴らは喜んでる奴も多いが、逆にそうでない奴は眉を顰めている者も多い。
まあ素手でもそれなりに戦えはするからな。
そもそもこの国の冶金技術で、この四メートル大の人型兵器が扱う武器を作れるのかどうか疑問だ。
最悪鋳造したものなら作れるかもしれないが、そんなものをこの魔甲機装で使用したら、すぐに武器の方が壊れてしまう気がする。
「あっ!」
「んん? どうしたあ? 何か質問でもあるのか?」
「い、いや、なんでもない」
俺は鑑定結果を解析してた時に気づいた、とある機能の事を思い出してしまい、つい声を上げてしまっていた。
そうか……。
あれは、そういう意味……な訳ないよな。あれの使用目的は元々そうではないはずだ。
俺があれこれ考えてる間にも、教官の話は続く。
「武器といっても、我々が別途用意したものを使う訳ではない! 実は、魔甲機装には、元々武器を生み出す能力があるのだ!」
ああ、やっぱそれだよね。
てかこの機能はちゃんと今も生きて利用されているのに、マンサクの特殊能力に関しては情報が途絶えてしまっているのか……。、
まあそれも無理はないか。
俺が"鑑定"で調べた結果では、魔甲玉が作られたのはおよそ数千年前と出ている。
それだけ期間があけば、情報が失われることも十分あり得る。
というか、常に使用され続けてるとはいえ、今でもこれだけ魔甲機装の情報が伝わっているのも大したものだ。
「その武器を生み出す方法だが、魔甲機装を着装する時と同じ要領で『武装』と唱えればいい。すると、タイプに応じた武器が生み出される」
「おお、マジかー」とか「そのような機能があったのか……」などといった声が漏れ聞こえてくる。
確かにキーワードとしては、何らかの会話の弾みで言ってしまいそうになるワードではある。
ただ、『着装』もそうなのだが、ちゃんと着装なら自分が着装する事を意識して唱えないと、魔甲玉が反応しない。
『武装』についても同様で、うっかり発動防止対策はされている。
この辺り、どういう仕組みになっているのかねえ。
「ただし気を付けて欲しい! 『武装』は特殊能力ほどではないが、力を消費する事が知られている。また魔甲機装同様に、同じタイプであっても生み出される武器には違いが生まれる」
教官による魔甲機装の新たな機能の説明は、まだもう少し続きそうだ。
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