第8話 不可解なレベルアップ


 グルルルルッ……。


「ん……、ここはどこだ?」



 どうやら俺はまたしても意識を失っていたらしい。

 だが、直前の状況はよく覚えているので、今自分が置かれている状況もよく理解できている。


 ……ああ、よく理解できているとも。


 森の中で、無防備に寝っ転がっていた俺の事を見ている大きな犬……いや、狼か?

 そいつらが、涎を垂らしながら今にも襲い掛かろうとしてるって事が、よーーーーく理解できているさ。


「ガウッ!」


「いきなりかよ!」


 まったく、そこらのうるさい目覚まし時計なんかより、よっぽど早く目が覚める状況だぜ。

 襲ってきている狼の大きさは大型犬くらい。

 昨日までの俺だったら慌てふためいていた所だろうが、今の俺は一味違うぜ。


 ……とはいえ、どのように撃退するべきか。

 宇宙人に強化された自慢の肉体で無双するか。

 謎の男に託された超能力で無双するか。

 或いはクマブタに与えられた魔法の力で無双するか。


 いやー、こんだけ選択肢が多いと参っちゃうね。

 しかもこうしてグダグダと考え事をしていても、宇宙人に脳機能まで強化され、シングルコアをマルチコアに改造された俺の思考速度は、まさにスーパーコンピューター。


 いくら思考を練ろうと、実際に経過している実時間はほんの1秒にも満たない。

 だから、ほら。

 こうして今にも襲い掛かろうとしていた狼共だって、まだまだ攻撃の届かない…………、



「ギャアアアアス!」



 俺は慌てて自分の周囲に魔法による結界を張る。

 そこへ、目にもとまらぬ速さで近寄ってきていた狼が、ゴイイィィンと大きな音を立ててぶつかる。

 音の大きさと接近してくる速さからして、今の衝突でかなりダメージを与えたのではなかろうか?


 てか、狼の動き早すぎ!

 慌てて魔法の結界だけじゃなくて、超能力による結界も張り巡らせてしまったわ!


 狼共は最初に突っ込んできた奴以外は、俺をぐるりと囲んで警戒を強めたようだ。

 最初に一匹飛び込んできたのは、威力偵察だったのか?

 流石群れで狩りをする狼だけあって、なかなかやるではないか。


 などと今では余裕綽々に応じているが、実際この狼の強さ、RPGの中盤以降に出てくる強さだろ。

 間違っても初期地点に出てくるようなもんじゃないぜ。


「でも、ま、こいつらに結界を突破する能力がないのは分かった。じゃあ、後は体を慣らす意味でも、肉体戦闘から確認していくか」


 こうして俺は狼共とのガチンコバトルに突入した。

 奴らは体当たりや牙による攻撃などの他にも、何やらやたら吠えてきたり、氷の魔法みたいなのも使ってきた。


 あの吠えてるのも、なんか魔力っぽいのを感じるからなんらかの効果があるんだろうけど、結局俺にはなんの影響もなかったから、何をしたいのかよー分らんかった。


 戦闘は十分ほど続いた。

 氷の魔法も最初は戸惑いはしたが、こちらも魔法の結界を張る事で無効化出来ていたし、射出系の氷の魔法なら見てから回避も出来た。

 どうも俺の動体視力はかなり強化されているようで、まるで周囲がスローモーションカメラで撮影したかのように、ゆっくりとして見える。


 普段はそんな事なかったから、戦闘モードに入った時限定なんだろう。

 なお、このスローに見える状況下でも、俺の体は違和感なく普通に動かせる。

 つまり、それだけ高速で体を動かす事が出来るという訳だ。


「ハハ、こいつはいいぜ!」


 途中からは俺もテンションが上がってきて、どっかの格ゲーでみたような技を再現してみたり、コンボを繋げてみたりと、大暴れさせてもらった。


 最初の選択肢にあげた通り、見事に無双して全ての狼を撃退した訳なんだが、結局あいつら一匹も逃げたりしなかったな。

 普通あんだけ実力差を見せれば、野生の動物なら逃げ出すと思うんだけど。


 そんな事を考えていた俺の脳内に、突然声が聞こえてきた。


≪ソラはレベル1からレベル14に上がり、各種ステータスが上昇しました。また、新たにスキルと魔法を習得しました≫


 この声はキャラメイキングの時の声と同じ、女性のアナウンスの声だ。

 十匹近くいたとはいえ、一回の戦闘でそんなにレベルが上がるって事は、やっぱ初期地点の設定間違えてんだろ。


 まあ、それでも倒すことが出来たから良しとしよう。

 それよりもステータスだ。

 なんか一気にレベルが上がった割に、自覚症状が殆どないんだが、なんでもステータスが上昇してスキルや魔法を覚えたようだ。


「ところでステータス確認はどう……うおっ」


 俺が『ステータス確認』と言い終えると同時に、俺の視界にキャラメイクの時に表示されたステータス画面が表示される。

 意図せず突然視界に訳分からんもんが映るとビビルな。

 えーと、なになに。俺のステータスはどう変化したんだ……?



≪ソラ レベル14 ニンゲン 男≫

HP:6143

MP:16484

SP:24629


腕力:621

機敏:734

体力:584

知力:416

魔力:05437

魅力:160



 …………?


 あれ、なんか変わってない気がするな。

 MPとSPがちょっと減っているのは、戦闘中に結界を張ったせいか?


 ……あ、MPがどんどんと回復していってる。

 自然治癒速度がパネェぞ。

 すでに満タンにまで回復してしまった。

 SPの方はすぐに回復する兆しはないな。


 あとは魅力が初期値の60から、ポイントを振った分の100がプラスされているが、他の腕力とかに変化がない。

 MPやSPの数値が変動してるんだから、ステータス表記がおかしいって訳でもないと思うんだが……。


 あ、そういえばスキルも覚えたんだったな。

 ええと……、"聞き耳"に"マッピング"スキル?



「よし……聞き耳!」



 …………。

 ……………………。



「マッピング!」



 …………………………。

 ………………………………。




 ガアアアァッ! なんも起きねーじゃねえか!


 そもそも内なる自分を探ってみても、新しいスキルらしき力を感じねえぞ。

 魔力や鑑定のスキル、それからよくわからない感じのうっすいこれは、キャラメイクで指定した"神力"のスキルか?

 この辺のものは確かに自分の中に定着しているというか、宿っている感じはするんだが、"聞き耳"だとか"マッピング"だとかのスキルの気配は一切感じられない。


「しゃあねえな」


 俺は疑問に思いながらも、初期地点の森をうろつく事にした。

 すると出てくるわ出てくるわ。次から次へと魔物が襲い掛かってくる。

 俺もつい昨日までは普通の大学生だったもんで、戦闘なんてまるで経験がない。

 とにかく俺は、ゲットしたばかりの魔法や超能力を実戦で試しつつ、陽が暮れるまで魔物退治に明け暮れた。


 その結果、レベルが56まで上がったんだが、相変わらずステータスが上昇している訳でもないし、新しいスキルを得た感覚もない。

 MPは使用しても超速で回復し、常に満タンといった感じ。

 SPは時間を開けると幾分か回復しているが、MPに比べるとその速度は遅い。



 ……てか、これからどうしよ。

 


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