第7話 キャラクターメイキング2


 時間をかけて選び抜いた種族を、拒絶されてしまう俺。

 いや、確かに数時間も掛けてはいなかったかもしれんが、これでもかなり考えたのよ。

 俺はもう一度選択場面で『バリオン』を入力してみたが、やはりエラーが出て選べない。



「ううん……。なんでだ? もしかしてまだ未実装だったりすんのか?」


 仕方ないから俺は次点の種族、『シュリンク』で我慢することにした。

 長時間考えていただけあって、他にも気になる種族は幾つかキープしてある。



≪……エラー。貴方はその種族を選択できません≫



 って、おいいいいい!!

 なんだ、こいつも未実装なのか?

 それとも他になんか原因でもあんのか?


 試しに俺は片っ端から種族を選択していくが、返ってくるのはあのエラーメッセージばかり。

 ……というか、すべての種族を選択してみたんだが、どれもエラーが起きるぞ。

 一体どーなってんだ!?


「おい、選べる種族が一つもねーじゃねえか」


 途方にくれた俺は、種族選択画面を隈なくチェックしていく。

 それで気づいたんだが、種族リスト一覧が表示されてる右上部分に、なんか変なアイコンみてーなのがあるんだよ。


 俺は今までこの画面を思考入力で操作する際に、感覚としてタッチパネルで操作するようにして操作させていた。

 そこで、俺はその謎のアイコン部分にタッチするように思考で入力する。

 すると、


≪接続者のパーソナルをスキャンし、能力に反映させます。なおこの操作を行った場合、種族は『ニンゲン』に固定されますがよろしいですか?≫


 と出たので許可を出してみる。


 ってか、『ニンゲン』なんて種族、さっきの一覧にはなかったんだが?

 ひょっとして人間は隠し種族設定なのか?

 そんな事を考えているうちにも、スキャンとやらが実行されているようで、どうにもあちこち覗かれているような気分がして、落ち着かない。


 スキャンは十分ほどで終了し、新しく切り替わった画面では、キャラクターのステータスが表示されている。


 基本的なものとして、HP、MPとSPがあるようだ。

 SP……スタミナのことか? 或いはゲームによっちゃスペシャルポイントの事だったりするんだよな。


 まあ、それはいい。

 で、他には腕力、機敏、体力、知力、魔力、魅力という六つの基本ステータスがあるらしい。


 更に、ボーナスポイントが100Pついていて、それをさっき言ったどれかに振り分ける事で、ステータスをカスタマイズできるらしい。

 試しに腕力に1P降ると、腕力の数値が1だけ増える。

 これはまだ決定はしていないので、再度降りなおすことが可能だ。


 ……まあ、それは分かるんだが、表示されている初期値が理解できん。


 まず最初の三つなんだが、




HP:6143

MP:16532

SP:24653



 となっている。


 ううん、まあMPが多いのはガルなんちゃら機関の影響なんだろうな。

 んーでも、MPよりSPが多いってのはどういう事だ?

 もしかして、SPはサイキックパワーで超能力の事なんだろうか?

 いや、でもサイキックだと頭文字はPのハズ。

 或いは超能力ではなく、スタミナのSだったりするのかもしれない。


 それは一先ずおいといて、次に腕力などの個別能力なんだが、これがまた訳分からん。



腕力:621

機敏:734

体力:584

知力:416

魔力:05437

魅力:60



 うわっ……、俺の魅力、低すぎ……?

 

 ってすげーヘコム結果が出てる訳なんだが、それよりも魔力の数値がなんかおかしい。

 ゼロから始まるってどういう意味だ?

 他の三桁の数値は普通なんだけどな。

 さっきも種族選択できないとかあったし、全体的にどっかバグってるのかもしれん。


 んで、さっきのボーナスポイントなんだけど、1P使用するとHPやMPの場合は十ずつ、腕力などの場合は1Pで一ずつ増えるんだよ。

 そーなってくるとだ。


 ボーナス100Pってすくねーんじゃねーか?


 これじゃあ、ちょっと腕力に100P振って個性つけときやしたぜ、ヘヘっ。てなくらいにしかならんと思うんだが、どうよ?


 キャラクターメイキングの時間は、俺にとってそのゲームの行き先まで占う大事な要素なんだが、もうクソゲー臭がぷんぷん漂ってきてるぞ。

 普通ならウンウン唸って、攻略サイトなんかを見ながら散々迷うところなんだが、この感じだとあんま迷う事もないな。


 攻略サイトなんてある訳でもないし、ここは一番低い魅力に100P全ブッパでいいだろ。




 で、次はなんだ。

 んーと初期スキルの設定か。

 なんかすげーずらーっとスキル一覧が表示されてるな。


 暗視:10P、魔力感知:5P、スマッシュ:10P、などなど。


 ざっとみた感じ、例に出したポイントをあまり消費しない系と、一つ覚えるだけで100P消費するようなレアっぽい奴とに分かれてる感じだ。

 そしてステータスの分配とは別に、スキル用のボーナスポイントが用意されているみたいだ。

 そのポイントが何と100000P。ステータスボーナスの千倍も使えるじゃん!


 なんかゲームバランスが間違っているような気がしないでもないが、くれるというならもらっておこう。

 さて……、十万ポイントもあれば相当な量のスキルを覚えられそうなんだが、どうするかな。

 俺はスキル一覧をウキウキしながら眺めていく。


 

 ……げっ、なんかヤベースキルを見つけてしまった。


 一見普通のスキルの中に紛れているように見えるが、必要ポイントが一つだけおかしいので、割と簡単に発見出来た。


 神力:100000P


 うーん、このボーナスポイントとぴったし同じ数値のスキル。

 それでいて他のレアスキルとは一線を隔す必要ポイント。

 誰かから必死に、「押すなよ? 絶対押すなよ?」と言われてる気分になってくる。


 う、ううう……。

 押したい……。このスキルを思考入力でタッチして覚えたい……。


 何故だろう。

 いや、だってこのスキルの名称といい、ポイント数の一致といい、天がこれを覚えろと言ってると思うんだよ。


 それにさ。

 あのボディコン女が、やたら俺の事をキケンキケンと連呼してたけど、このなんか凄そうなスキルがあればその危険も回避できるんじゃないのか?





 いや、待て……。

 これはあくまでVRMMOの世界での話だ。

 現実でのことは一切関係ないハズ……。


 ……だが、これは本当にVRMMOの世界なのか?

 今日はあまりにイレギュラーな事が頻発しすぎた。

 突然自宅の布団で目が覚めて、全部夢でしたってオチも十分ありうるぞ?


 あの時、トラックに轢かれそうになってた幼女だって、普段の俺なら助けたか?

 いや、絶対そんなことはしなかったはずだ。例え、宇宙人に体を弄られた結果、車に轢かれて平気だって分かってたとしても、だ。


 俺はそんな殊勝な男ではないし、よく出来た人間でもない。

 ただ、あの時は何故かそうしなければいけないと、体が勝手に動いた感じだった。


 あれはもしかして、運命の強制力とかいうものじゃないのか?


 あのチャライ神が、俺は前方不注意でトラックに轢かれて死ぬ予定だったとか言っていた。


 前方不注意……、幼女に関する言葉はそこにはない。

 確かに、俺は幼女を助けようとしてたが、別に前方不注意だった訳ではない。

 実はトラックの事には気づいていたのだ。


 そこで仮の話なんだが、もしあの場に幼女がいなかったらどうなっていたか?

 その場合、俺はトラックに轢かれる事はなかっただろう。

 幾ら改造されたとはいえ、自分からトラックに轢かれたいとは思わないからだ。


 そして今日起きた一連の不可思議な出来事がなかった場合。

 そうするとあの神の言っていた通り、前方不注意か何かで未改造の俺が普通にトラックに轢かれていたかもしれない。


 つまりあの幼女は、宇宙人改造ルートを通った俺を、確実にトラックで轢かせるために働いた運命の強制力なのではないか?

 俺を本来あるべき歴史トラックに轢かれるへと、強引に修正させようとしたのではなかろうか?


 しかし運命の矯正力を持ってしても、当初の予定通りトラックに轢かれて死亡という結末には届かなかった。

 何故なら俺の体は火星人によって、大幅に改造されてしまっていたからだ。

 その中途半端な結果が、あの時の一連の流れなのではないか?





 ……ふう、やれやれ。

 どうやら俺の思考回路もショート寸前のようだ。

 ここは一旦考えを戻そう。

 ええっと、何のスキルを取得するか……だったな。


 しかしメタ的に考えてみても、他のスキルの必要ポイントの何百倍も必要な"神力"というスキルは、異質だと言える。

 それこそ、この先このよくわからん世界で暮らしていくとして、後天的にこのスキルを取得できる気がしない。



 うん。そうだな。

 やっぱこのスキルで決まりだ。


 俺は意を決して"神力"のスキルを選択する。

 すると、次の画面に…………移行する事はなく、再びあのシステムメッセージみたいな音声が流れてくる。



≪ピッ。設定が全て完了しました。これよりプレイヤー『ソラ』は、ランダムで選ばれた地点へ転移されます。準備はよろしいですか?≫


「へっ、相変わらずそのピッって音がうぜえな。いいぜ、どこでも送ってくれや」


≪それでは転移を開始します。ごゆっくりと『アスティルドサーガ』の世界をお楽しみください≫


 こうして俺は新たな舞台へと飛び込んでいった。



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