第6話 キャラクターメイキング1
……なんだ? 一体何が起きた?
次に俺が意識を取り戻すと、俺はよくわからない白い空間に居た。
爪先からは地面の感触はせず、かといって宙にフワフワと浮いている感覚でもない。
ビタッと空間に固定されたような……、それでいて体そのものは動かすことが出来る。そんな訳ワカメちゃんの状態に晒されていた。
ええと、確かあの女の持ってたVRMMO装置を身に着けたとこまでは覚えてるんだが……。
……って、今のこの状況。
結局あの女に嵌められたって事かッ!?
ちっ、参ったぜ。
昔っから好奇心の前には他の全てが吹っ飛んで行ってしまう性格のせいで、色々失敗を繰り返してきたってのになあ。
三つ子の魂百まで。
いくら肉体が強化され、力を得ようとも所詮俺は俺、か。
気持ちを切り替えて、俺は周囲をぐるりを見回してみる。
あのチャライ神の時とは違い、今度は体を動かす事はできるようだ。
ならばと周辺の様子を探ろうとしたんだが、見事になんっもありゃしねえ。
どうしたもんかなーと思っていると、不意にどこからか声が聞こえてきた。
≪アスティルドサーガの世界へようこそ。これより貴方が操作するキャラクターの設定に入ります≫
それは、あのサイキック男や神のような頭の中に響いてくるような声ではなく、この謎の白い空間のどこかしらから響いてきた声だった。
俺が声の出どころはどこかとキョロキョロしていると、突然目の前に大きなディスプレイが表示される。
「うお!」
何もない空中に表示されたソレは、薄型液晶のような形状をしていて、横に回ってみると表示された部分がほとんど見えないペラッペラな構造をしている。
手で触れようとしても触れることはできず、空中に投射されたスクリーンのようだった。
そこにはゲームでよく見かけるような、キャラクタークリエイトの画面が表示されている。
最初に表示されているのは、キャラクターの名前設定の場面だ。
空白の枠の上には、名前を入力してくださいと日本語で書いてある。
「入力してくださいって言ってもなあ、どーすりゃいいんだ?」
直接画面に触れて文字を書こうとしても、入力反応は返ってこない。
試しに頭の中で名前を入力するイメージをしても、反応がない。
「おいおい、最初っから詰みげーかあ? "名前入力"じゃねーんだよ!」
≪ピッ。名前は『ジャネーンダヨ』でよろしいですか?≫
「な……、おい。よろしくねーよ。一体何なんだよ!」
≪ピッ。名前設定がキャンセルされました≫
……っと。
いきなり反応を示したので、逆切れしたみたいになっちまったが、もしかして音声入力でいけばいいのか?
「あー、テステス。名前入力、ソラ」
≪ピッ。名前は『ソラ』でよろしいですか?≫
「あー、よろしいよろしい」
≪ピッ。名前が決定されました。次は性別を選択してください≫
「そりゃあもちろん男で頼むぜ」
俺はゲームで遊ぶ際は、基本男キャラで遊ぶことにしている。
なんかの特別なイベントで女キャラでしか入手できないアイテムなんてのがあった時位しか、女キャラを使ったりはしない。
≪ピッ。性別は『男』でよろしいですか?≫
「いちいち面倒くせえな。そうだよ、それでいい」
≪ピッ。性別が決定されました。次は種族を設定してください≫
そうアナウンスが流れると、画面が変わって種族の一覧らしきものが表示される。
ディスプレイの画面は横長の黄金比をした長方形で、左半分にその種族の映像が、右半分に種族名の一覧のようなものが並んでいる。
左半分に映っている種族の映像は、決められたパターンで動いているんだが、そのクオリティーが半端ない。
CGと実物の間にある不気味の谷をあっさりと乗り越えたこの映像は、普通に実写の映像と区別がつかないくらいだ。
「ダスティン…………ホルツマン………………シャフィード…………」
右半分の種族一覧の名前を声に出していく度に、左半分の画面の映像が変わっていく。
それらの種族は見たことない形状をしていたが、それが実写レベルでリアルに動いているので、妙な非現実感を抱く。
「……って、ダスティンとかホルツマンってなんやねん!」
ぶっちゃけ、右半分に表示されてる種族名らしきもののリストだが、ひとっつも聞いたことある名前がない。
これでもその手のゲームやら漫画にはそこそこ触れてきているので、有名どころは大体知ってるはずなんだがな。
というか、そもそも右半分のリストには二十の種族名が載っているんだが、なんかもっと種族ありそうなんだよな。
インターフェイス的にみると、右の種族リストが表示されてるウィンドウ内を、更に下にスクロールできそうな気がするんだが……。
「種族一覧、下にスクロール。…………種族一覧、次ページ」
それらしい言葉を口にしてみるも、ただ白い空間に俺の声が響くだけの結果に終わってしまった。
「っがあああっ!! なんてまどろっこしい入力インターフェイスだ。いちいちシステム音声みてーなので確認されるのもウザイし、そん時にピッピッなるのもイラつくわー」
こんな未来っぽい状況なのに、なんでこんな不自由さを味わなきゃならんのだ。
いちいち声で入力するんじゃなくて、あんな近未来型HMDみてーなの付けてるんだから、俺の意識をくみ取って入力できるようにしてくれよ。
≪入力モードを音声入力から思考入力に切り替えますか?≫
えっ……、はっ?
いきなりそんな事を言われた俺は、咄嗟に「YESだね」と答える。
なんだ? 急にこのシステム音声が融通を利かせ始めたぞ?
俺の意識を読んだのか? ……いや、そういえばさっきは頭で考えてた事が口から洩れてた気もすんな。
それでシステムが反応したのか?
まあ、その辺はどうでもいい。
思考入力へと切り替わったせいか、さきほどまではやたら操作性の悪かった画面操作が自由自在だ。
右側に表示された種族も、やはり二十だけではなかったようで、スクロールさせていくと、無駄に百個くらいは用意されていた。
それらの種族を順番に見ていく。
中にはエルフっぽい種族も何種類かいたが、「ギュリス」とか「ミューラン」とかいう名称になっていて、スクロールさせた中には俺の知る定番種族の名前はなかった。
「うーーん、迷うなあ。エルフ系も興味あるが、吸血鬼っぽいのも中二感があってヤバイ」
俺はこうしたゲームを始める時は、まずキャラメイクに時間がかかってしまうタイプだ。
時間の経過もよく分からないような環境だが、俺はこの百くらいある種族を吟味していき、しばらくしてようやく一つの種族に当たりをつけた。
「よし、決めたぜ! せっかくだから俺はこの『バリオン』って種族にするぜ!」
それはたくましい肉体を持ち、鬼のような角を額の部分から二本生やしていた種族だった。
見た感じからして肉体系な感じで、筋肉の付き方がかっちょいい!
意気揚々と思考入力で『バリオン』を選択する俺だが、
≪……エラー。貴方はその種族を選択できません≫
……俺の数時間を返せよ。
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