女子トイレの怪①

あれは理央奈先輩が有馬記念の予想をしている頃だから、


クリスマス前の頃だったと思う。


その頃『推理部』は全く実績がなくて人気もなく(今も無いのだが)


理央奈先輩は競馬の予想くらいしかすることがなくて、


私もそんな理央奈先輩を観察するくらいしかすることがない


今とそんなに変わらない日々を送っていた。


その日は少し雪が窓の外にちらつく、シーズンでも一、二を争うような


寒い日だったことを覚えている。


突然部室(仮)の扉が開いて、廊下の冷たい風が部屋に吹き込んできた。


「大変、大変!」


そう言いながら、少女が飛び込んできた。


そいつは、茶髪でショート、制服をこれでもかと着崩したギャルで、


私の親友のギャル子だった。


ギャル子は先輩と私の麻雀友達で、部室(仮)でよく卓を囲むので


ギャル子が来たこと自体は珍しいことではない。


ちなみにギャル子はもちろんあだ名で、本名を志乃というのだが


呼びにくいし、ぱっとしないという理由で理央奈先輩が名付けた。


「昭和っぽくていいだろ」と名付け親はご満悦しているようだったが


私としてはどうでもよかった


話を戻そう


ギャル子が来ること自体は珍しくはないが、その日は来た理由が珍しかったのだ。


「どうした?まさか、オルフェーブルが出走取消にでもなったのか?」


理央奈先輩はギャル子に問う。


オルフェーブルというのは当時の有馬記念1番人気のド本命馬だ。


もしそうなら、理央奈先輩は発狂ものに違いない。


「オルフェ…?、違うって。大変なのはそんなことじゃないの


実は…」


「実は?」


私と先輩はユニゾンして問い返す。


「依頼者を連れてきてやったんだよ!」


そう言ってギャル子は後ろから一人の少女を部室(仮)に引っ張り込んだ。


そう、それが記念すべき我が推理部の第一号の依頼者だった。

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