運次第の宇宙旅行⑧




天都視点



―――さて、どうしたものか・・・。


天都は未だに子供部屋で途方に暮れていた。 動くにしても周りの物が巨大過ぎて時間がかかる。 部屋のドアが閉まっていれば、一人で開けることは不可能だ。 


―――俺一人で三人を救出するのは厳し過ぎる。

―――迂闊に行動して俺まで捕まったら本当の終わりだ・・・。


行定たちを確実に助ける手段が思い付かず、ふとロケットを見る。


―――分解されてしまっているけどきちんとパーツごとに分かれている。

―――やはり巨人にはかなり高度な知能があることは間違いない。

―――まぁ簡易のロケットキットではあるけど、それでも説明書なしに初見で何かするのは俺たちでも普通に難しいからな。

―――組み立てたいところだけど流石に素手でやるのは無理か・・・。


素手で組み立てることも不可能ではないが、余りにも時間がかかり過ぎる。 いくら簡易キットで軽量化がなされているといっても、地球では4人がかりで三時間程かかったのだから。

それでも天都はロケットの組み立てに着手した。 一人で作業するのはかなり時間はかかるが、他にすることがないため少しずつ進めていく。


―――万が一、巨人が何か攻撃を仕掛けてきたら俺たちはきっと太刀打ちができないだろう。

―――そのためにはどうする?

―――何かしらの武器が必要だ。

―――でもここにあるモノは全て巨人サイズだから俺たちの手には馴染まない。

―――使えるとしたらロケットの部品。

―――最終的にはロケットに戻さないといけないけど、行定たちを助けるまでは武器として使うのもいいな。

―――何かできないかな?


試行錯誤すること数十分。 時間はかかったが使えそうなものが組み上げられた。


「できた!!」


宇宙船の羽の一部と落ちていた巨人のゴム紐を使い完成したのは大きなパチンコ。 


「弾に使えそうなものは・・・」


机上を見渡すと鉛筆のようなものが落ちていたためその先を折った。


「これならいける!」


―――巨人に勝つことはきっと今持っているものだけではできない。

―――少しでも巨人を驚かせることができたらそれでいい。


更に芯を折り何本かポケットに忍ばせる。


―――よし、これで行定たちを助けにいこう。

―――準備が不十分なのは仕方がないよな。

―――運よくみんなが見つかるといいんだけど。


そう思い部屋を出ようとした瞬間だった。


「ッ!?」


巨人が部屋の中に入ってきたのだ。 咄嗟に身を隠してしまう。


―――急に現れたから驚いた・・・。

―――試しにどのくらい効くのか実践してみるか。


芯をセットしパチンコを巨人へ向ける。 押さえていた手を離すと芯は勢いよく飛び出し見事巨人の手の甲に刺さった。 巨人の大きさを考えれば痛みすら感じていないのかもしれない。

ただ何も感じていないというわけでもないらしい。


―――跳ね返されるのかと思った!

―――刺されば十分だ。


巨人は刺さった芯を抜くと、周囲を探し始めた。 その隙にもう一発食らわせた。


―――これで少しは巨人の意識をそらすことができるのかもしれない。

―――さぁ、行定たちのもとへ急ごう。


そう思い扉の方へ向かおうとしたその時、足音が急に迫り振り返ると巨人が追ってきていた。


「なッ!?」


驚いて巨人の目に向かってパチンコを放った。


―――命中した・・・!?


巨人は天都を捕まえようとしているのか、かがんでいたため目にヒット。 目を抑え悶えていた。


―――・・・やった、か・・・?


様子を窺っているうちに勢いよく巨人の腕が動き天都を捕えてしまった。 目に当たったのに、大したダメージにはなっていなかったようだ。


―――マズい!

―――油断した・・・ッ!!


一度捕まってしまえばもうどうにもならない。 手の中に入ると身動きが取れないためパチンコを使うこともできなかった。


「ぅッ・・・。 苦し・・・ッ」


仕舞いには握り潰すようにギュッと絞められた。


―――ごめん、みんな・・・。

―――俺にはもう・・・。


そのまま天都は圧迫され意識を手放してしまった。



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