運次第の宇宙旅行⑨




地球を旅立つ前日、宇宙へ行くことの危険性を十分に理解し寝床に着いた。 無重力の真空地帯、いくら科学が発達したといってもそれをどうこうできるようなことはない。

ただそれでも危険性の予測はあらかたシミュレーションしてきた。 だが、その中に巨人との遭遇なんてものはなかった。


―――俺たちはもう地球へ戻ることはできないのか?

―――行定たちも救うことができないのか?

―――俺はもうこの星で一人ぼっちだ。

―――巨人に勝てるわけがないこの身体の小ささで俺たちにできることはない。

―――そんな俺にもう望みなんて・・・。


暗い空間に横たわるように揺蕩うことから現実にいないことはすぐ分かった。 温かいのか寒いのかもよく分からない感覚、奇妙な心地よさにこのままここで果ててしまいたいと感じた。

だがこの夢がずっと続く保証はなく、いずれ外界から崩れていくのなら今立ち上がらなければ全てが終わってしまう予感もあった。


「天都ー! おーい、天都ー!!」

「・・・ん・・・?」


強く身体を揺すぶられ意識を取り戻す。


「お。 ようやく目覚めたな」


目を開けると目の前には行定がいて、天都の顔を覗き込んでいた。


「え・・・? 行定!?」

「アタシたちもいるよ」


横たわっている天都の両サイドには確かに佳与と恵人もいた。 予想外のことにまだ夢が続いているのかと錯覚してしまう。


「どうしたんだよ、みんな揃って・・・。 それにどこだ、ここは・・・?」

「天都、大丈夫か?」

「確か俺の最後の記憶は巨人に握り潰されて・・・。 ということはここは天国・・・?」

「さっきから何を言ってんだよ。 俺たちは地球へ戻ってきたんだよ!!」


突拍子もない物言いに目を見開く。


「え・・・。 地球へ?」

「ほら、周りを見てみろよ!」


上体をゆっくりと起こし確認する。 確かに全てサイズが元通りになっており、今は知らない道のど真ん中にいた。


「本当だ・・・。 全てが元に戻っている・・・」

「だろ? ここがどこの地域なのかは分からないけどさ。 まぁでも雰囲気はアメリカっぽい?」


映画でしか見たことのないような、少々時代を感じる西部劇のような街並み。 明らかに先程までとは違う場所にいる。


「あの巨人は!?」

「探しているけどさっきからいないんだよね。 アタシたちは夢でも見ていたのかもしれない」

「夢って・・・。 共通して同じ夢を見るとか有り得るか?」


そこで恵人の怪我を思い出した。


「そうだ! 恵人の怪我は!?」

「元々軽症だったしほとんど治りかけていたから、あまり夢かどうかの参考にはならないかも」


恵人の傷はすっかり治っていた。 しかし、薄っすら痕のようなものが残っているのは事実だ。


「何だよ天都。 まだ信じられないのか?」

「信じられるわけがないだろ!! さっきまで俺たちは巨人の星にいて、目が覚めたら地球へ戻っているなんて!」

「なら俺が目覚めさせてやる、よッ!!」


そう言って行定に思い切り叩かれた。


「いってぇな!!」

「痛いだろ? ほら、ここは現実」

「ッ、現実・・・」

「誰かに道を尋ねる前にさ。 この現実世界を楽しまないか?」


そう言って行定は路上に落ちていたバスケットボールを拾い上げた。


「男女でペアになって二対二でもしようぜ!」

「路上で、って本当にアメリカかよ・・・」


確かにバスケットゴールがありボールも落ちていたのだ。 腑に落ちないが、先程までの緊迫した感じがないのは有難かった。 いや、本当はその異常性には気付いていた。

ただここまでの緊張と疲労から一時でも休むことができるのならと、心が傾いたのだ。


「ほら、天都行こう!!」


強引に佳与に引っ張られバスケをすることにした。


―――夢と現実がごっちゃになってよく分からない・・・。

―――でもここにいる行定たちはちゃんと本物だということは何となく分かる。

―――コピーでもないしドッペルゲンガーでもない。

―――かといって俺に嘘をついているとも思えない・・・。

―――なら本当にここは現実なのか・・・?


だが疑問も思い浮かぶ。


―――ボールは無造作に置かれていた。

―――周りを見渡すと地面が少し汚れたりもしている。

―――だから人が行き来は絶対にしているはずだ。

―――でもここは割と都会なのにどうして人が誰一人としていないんだ?

―――あまりにも閑散とし過ぎている。

―――それにこの空だって・・・。


何気なく上を見上げた瞬間、空がパカリと割れたのだ。


「空が割れた!?」


その言葉に皆一斉に見上げた。


「本当だ! どうして空が!?」


嫌な予感が的中した。 先程まで一緒にいた小さな巨人が顔を覗かせて笑っていたのだ。


「どういうこと・・・?」

「・・・恵人なら分かるだろ」

「え・・・?」

「その服だよ」


天都は恵人を見て言った。 恵人は今もピンク色のドレスを着ている。 それを改めて思い返し恵人は青ざめた。


「じゃあ、ここって・・・」

「あぁ。 子供が遊ぶ人形用の空間なんだろうな」

「そんな・・・!」

「天都、それマジで言ってる・・・?」


三人の顔はみるみるうちに沈んでいく。


「三人はここへ入れられた記憶はないのか?」

「俺たちも天都と同じで気付いたらここにいたんだ」

「そう。 最後の記憶はちゃんと瓶の中よ」

「そうか。 参ったな・・・。 ここから出るのも至難の技だぞ」


周りは壁になっているだろうし、空を見てもかなりの高さがあることが分かる。 困っていると行定が一歩前に出た。


「なら俺が交渉してやる」

「交渉? 言葉が通じないのにそんなことができるのか?」

「まぁ、見ていなって」


自信あり気な行定は小さな巨人を見て言った。


「俺たちは地球人だ! 巨人に危害を加えるつもりはない。 だからここから出してくれ!!」


―――それを言って解放してくれるなら、俺たちの今までの努力は一体・・・。


そう言うも小さな巨人はこちらを見て笑っているばかりだった。


―――通じていないじゃないか!


心の中で突っ込みを入れるも行定は交渉を続ける。


「できれば大人を出してほしい! 誰でもいいから呼んできてくれないか?」


そう言った途端巨人が箱の中を覗き込んできた。


―――本当に通じた!?

―――あまりにもタイミングが良過ぎないか?


行定はそれを見ても一切動じない。


「お願いだ! 俺たちをここから出してくれ!! 一度みんなで話し合おう!!」


もしかしたらと思い天都は期待を込めた眼差しで見つめる。 だが巨人はやはり意味の分からない言葉を発していた。


―――何を言っているのかさっぱりだ・・・。

―――これを行定は通訳することができるのか?


行定を見る。 行定は真剣な表情のままこう言った。


「悪いが何を言っているのか分からない!!」

「分かんねぇのかよッ!!」


やはり交渉は不可能だと思った。


―――今までの交渉の時間は一体何だったんだ・・・ッ!


落胆していると巨人は天都たちが乗ってきたロケットを見せてきた。


―――・・・俺がさっき直しかけた状態のままだ。


ロケットを持って何かを言っている。


「って、それ俺たちのロケットじゃねぇか!? 何分解してくれてんだッ!!」


怒っている行定をスルーし次に先程即興で作ったパチンコを見せてきた。 どうやら没収されていたようだ。


「何あれ? あんなものロケットの中にあったっけ?」

「巨人さんのものとか?」

「にしては小さ過ぎない?」


巨人はロケットとパチンコを天都たちの目の前まで持ってきた。


―――一体何がしたいんだ・・・?


パチンコを持って佳与が言う。


「あれ? これロケットの部品で作られてんじゃん」

「折角のチャンスだし、このままできるところを作り直そうぜ? ここで完成させたらこの箱から出られるかもしれないぞ」

「それに賭けてみるしかないな」


そういうことで修理を開始した。 その時巨人は何かメモを取っていた。 クッキーを食べたり、時には虫眼鏡でこちらを見てきたりする。


―――一体何が目的だ?

―――異様に興味を示している。

―――ロケットの作り方を見ているのか・・・?


途中まで完成すると、巨人は一枚のクッキーを箱の中に入れてきた。


「うわ、デカいッ!! 美味そー! なぁ天都、これ食っていいか!?」


クッキーは巨人が食べていたものと同じだと思われるため、危険なものではないだろう。 もちろんその保証はないため、安全性を確認しながら食べるよう指示を出す。

天都自身口に入れてみて、人間が普通に食べられそうだと分かった。


―――とはいえ、地球のクッキーと比べるとどこか違う気がする。

―――そもそもどうしてこんな地球の文化を模した街並みが再現されているんだ?

―――もしかして、ここには俺たち以外に地球人がいるんじゃないか・・・?


「何か巨人って友好的じゃない?」

「ロケット作りを頑張っている俺たちを労わってんじゃねぇの?」

「そんなわけないでしょ」


楽観的な行定の思考を聞いていて天都は言った。


「いや、有り得るのかもしれない」

「え?」


天都の言葉に皆注目する。


「今まで小人である俺たちに危害を加えなかったこと。 ロケットが分解されていたこと。 俺の作ったパチンコやロケットに著しく興味を示していること」

「それがどうした?」

「この巨人たちはおそらく俺たち地球人の技術に興味を持っているんだよ」



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