運次第の宇宙旅行⑦
行定視点
「もー! ここから出してよー!!」
佳与はわめきながら瓶を叩いていた。 瓶の中では当然音が反響し、音がダイレクトに耳に飛び込んでくる。
「落ち着け。 どうせ言葉は通じないんだから、五月蠅いばかりだって」
「五月蠅いって何よ! っていうか、行定こそよくそんな悠長にしていられるわね!? 夕ご飯の食材にされちゃうかもしれないっていうのに!!」
「俺も一人でここにいた時はどうにかして脱出ができないか何度も試みたからな」
叩いたり揺らしたり、声をあげたり、それを一通り試し脱出できないと思って休んでいたところに仲間と合流した。 何か道具さえあれば何とかなるかもしれないが、佳与も特別何も持っていないというのだ。
「・・・あの時、倒れるのを怖がっていたのは誰だっけ?」
「だ、だって危険だろ!? 割れなかったとしても瓶が転がって机から落ちたら死んでしまうわ!!」
「まぁそりゃあ、確かに・・・」
「だろ!? お前らは絶対に瓶を止められないんだからな!! とにかく今はこれからのことを考えようぜ」
「そうね」
佳与は落ち着きを取り戻し、改めて辺りを観察し始めた。
「とりあえず酸欠の心配はしなくていいだけ助かるな。 瓶の蓋が開いているだけでも感謝しよう」
「脱出の糸口になるかもしれないし・・・」
「そう言えば、よくこの建物に辿り着いたな? 巨人の脚だとすぐに来れそうだけど佳与たちだったら厳しいだろ」
連れ去られてくる時巨人の鞄のようなものの中で、吐いてしまったことは痛い程憶えている。 巨人の身体の上下に加え、明らかに地面に起伏があるような感じだった。
「聞いて驚かないでよ? アタシたちね、バッタに乗ってきたの!」
「ば、バッタ?」
「そう! 行定が襲われた、あのバッタに!!」
「へぇ・・・。 生き物を乗り物にするだなんて突飛な発想だな」
「天都の案だけどね」
「そうだろうな。 そう言えば、ロケットはどこへ行った? 俺と一緒に連れ去られたはずなんだけど」
「別の部屋にあると思う。 ロケットよりも先に行定の方が優先だと思ってこっちへ来たから」
「そ、そうなのか・・・」
そう言われると少々嬉しく照れてしまう。
「何照れてんのよ。 気持ち悪い」
「そこまで言わなくてもいいだろッ!」
話していると部屋の扉が開いた。 そこには小さなサイズの巨人がいて行定たちに向かって歩いてくる。
「ここにいる巨人と違って小さい? 巨人の子供か・・・? って、こっちに来るんだけど!?」
「ねぇ、あの子何か持ってない?」
「た、確かに・・・。 何を持って・・・?」
小さな巨人は大人の巨人と何か言葉を交わすと椅子によじ登って顔を出した。 そして瓶を掴まれる。
「「うわぁッ!?」」
その際の衝撃で二人はバランスを崩し倒れてしまう。 そして真上から恵人が落ちてきたのだ。
「痛ッ」
「恵人!?」
「あ! 佳与ちゃん、行定くん!!」
「無事だったのか!? というか天都は!?」
「分からない・・・。 私だけこの子に連れてこられたの」
そう言って小さな巨人を見る。
「天都は今一人なのか・・・。 一人じゃ流石に助けには来れないよな・・・」
「ごめんね、私のせいで・・・」
「あぁ、いや! 恵人を責めているんじゃなくて!」
元はと言えば最初に捕まったのは自分。 それがなければこんな場所に恵人が来る必要はなかったのだ。
―――それを言うなら宇宙に来なければ・・・。
―――いや、よそう。
―――どんな危険も覚悟していたんだから。
そのようなことを行定が考えているとはしらず、佳与は楽しそうに恵人の服を観察していた。
「恵人、その服は? 超可愛いじゃん!」
言われてみれば恵人の服装が全然違うものになっている。
「あぁ、これ? この子が着せ替えてくれたんだ。 まるで着せ替え人形になった気分だった」
「本当に着せ替え人形で遊ばれたみたいだな」
「地球ではお目にかかることのないような可愛い服だね!」
その言葉を聞き違和感を覚えた。 巨人たちの服はお世辞にも洒落ているとは言えないもの。 なのに恵人が着せられた服は明らかに文明の色が濃い。
もしかすると他に人間が来たことがあるのかもしれないが、その場合その人間はどうなってしまったのか、それを考えると身震いしてしまう。
「どうしたの? 寒い?」
「いや、暑いくらいだよ。 えーと、で、これからどうする?」
「三人いればここから出られる可能性はあるんじゃない?」
「ここにいる巨人さんは?」
「さっきからずっと何かの作業をしていて俺たちはほったらかしだ。 危害は加えられていない」
「そうなんだ・・・。 ならどうして私たちを攫ったのか分からないね」
「本当にそれ。 巨人たちにとってアタシたちは小人でしょ? こんな変わった生き物がいたら普通実験とか食材とかに使いそうなのに」
佳与の指摘はもっともで、この先何をされるのかはまだ分からない。 自由を奪われているのは確かなため単純に逃がしてくれるとは思えなかった。
「じゃあ、とりあえず巨人が目を離している隙に脱出方法を考え・・・ッ!?」
それがフラグとなったのか、先程まで静かだった小さな巨人が急に動き出した。 瓶を掴んだかと思われると突然瓶をどこかへ運ぼうとする。
「突然何だ!?」
巨人にとって何のこともない行動でも、中にいる普通のサイズの人間からしたら、どんな遊園地のアトラクションよりも激しい乗り物だ。 それを行定は既に体験して知っている。
更に今度は中に三人いるのだ。
「わぁぁぁッ!! 止めてくれぇぇぇ!!!」
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