運次第の宇宙旅行⑤




行定は天都たちが来たことに気付いていないようだった。 天都たちからしても行定の顔がギリギリ見えるくらいで、全貌は分からない。


「どうする? どうやって助ける?」

「そうだな・・・。 とりあえずあの瓶を倒せるかどうか確認しよう」


棚をよじ登り行定のもとへと到着した。 巨人の大きさからすれば瓶はそれ程大きくはないが、それでも小さな家くらいの大きさはある。


「あッ! みんな!!」

「行定! 無事か!?」

「あぁ、怪我もないよ。 ここへ入れられただけで特に何かをされたりはしていない。 運ばれている時は物凄い揺れで死んだと思ったけどな」

「そりゃあ大変だったな。 今から助けるから」


巨人が戻ってくる前に救出しなければならない。 三人で力合わせて瓶を倒そうとするが、瓶の幅が分厚くあまりにも重くてビクともしなかった。


「無理か・・・」


棒があればテコの原理を使えたが、残念ながら棒はバッタの食料になってしまった。 もっともそれでも倒すことはできないだろう。

テーブルから落とすことはできるかもしれないが、その場合に行定の身の安全の保障はない。


「って、おい! 瓶を倒す気か!?」

「そうだけど?」

「瓶が割れて欠片が俺に飛び散ったらどうするんだよ!!」

「あ、悪い・・・。 だけど他に方法がなくないか?」

「他の方法を探してからの最終手段にしてくれ! どう考えても怖ぇだろ!!」


仕方なく机上を確認して使えそうなものを探す。


「じゃあ瓶の上に到達できるよう階段を作ろう。 そしてこの紐。 これに行定を巻き付けて三人で引き上げるんだ」


落ちていたロープのような紐を金具にくくり付ける。 この部屋は書斎なのか筆記具のようなものがあちこちに転がっていた。 もちろんどれもこれも巨大だ。


―――行定が連れてこられたのはここでよかったのかもな。


消しゴムなどの小物を積み重ね何とか階段状にすることはできた。


「・・・で、誰が登るの?」


そう言って佳与は天都を見る。


「いや、俺が登ってもいいんだけどここは体重が軽い女子が行って、俺はロープの端を引っ張った方がよくないか?」


その言葉に佳与と恵人は顔を見合わせる。 佳与は恵人の怪我を見て渋々前へ出た。


「じゃあ、アタシが登るよ・・・」

「おい、佳与! 俺を救出するのがそんなに嫌か!?」

「別にそういうんじゃないってー」


佳与に紐を持たせ消しゴムの階段を登ってもらった。 その下で天都と恵人はロープを掴んでいる。


「行定ー。 受け取ってー」


佳与は瓶の上から中を覗き込んでそう言った。 紐を垂らすと行定はそそくさと自分の身体に巻き付ける。


「じゃあ三人で力を合わせて引き上げるぞ! せーのッ!!」

「・・・いたたたたたッ!!」

「少しの間だから我慢してくれ!!」

「我慢はするけど腹に紐が強烈に食い込んで・・・ッ!」


瓶の高さが結構あるのもあり、三人では引き上げるのは厳しかった、 それでも行定が少し浮いていることから、少しの希望を信じ引っ張り続ける。


「いだだだだだ!! もう無理だ無理!! ギブ! ギブッ!!」


痛がる行定を問答無用で引っ張り続ける。 その時廊下から巨人の足音と声が聞こえ始めた。


「うわッ!?」


三人はビクリと反応し思わず力を緩めてしまう。 その反動で瓶の縁にいた佳与も瓶の中へと落ちてしまったのだ。


「しまったッ!」

「痛ッ! おい、佳与! 急に落ちてくるなよ!!」

「アタシのせいじゃないんだから仕方ないじゃない!!」


そして今の状況を察したようだ。 瓶の中からだと小さな音は聞こえないらしい。


「誰か来たのか? なら今すぐに逃げろ!!」

「でも折角ここまで来たんだし!」


瓶の中には囚われた行定と佳与。 二人を置いていく気にはなれなかった。


「お前たち二人も捕まったらどうするんだよ! そしたらもうどうすることもできないだろ!!」

「・・・ッ、分かった。 また後で」


天都と恵人は急いで机を降りた。 とりあえず床の上にいれば視界に入ることはないため安全だろう。 移動している最中に巨人が部屋の中へ入ってくる。 恵人を守りつつ様子を窺った。


―――・・・何を話しているのか分からないけど、二人に危害を加えるつもりはなさそうだな。


ここに居続け会話をするのは危険なため、一度恵人と廊下へ出ることにした。


―――一人また減ってしまった。

―――二人で救出なんてさっきの三人の状況を見ていたら不可能だぞ?

―――どうする・・・?


ロケットを奪われたことも心配だが、まずは仲間を救出するのが最優先だ。



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