運次第の宇宙旅行④
「・・・ねぇ、今の何・・・?」
震える佳与の言葉が指しているのは当然巨人のこと。 科学が進んだ現代でも巨人の存在は確認されていない。 ただもちろん、大きな発見という喜びではなく、純粋な恐怖が声音に感じられた。
「とても大きな人間だった・・・。 私たちが縮んだ・・・?」
「いや、ロケットのサイズがそのままだということは俺たちの身体もそのままだということだ」
「それじゃあ・・・」
「佳与が言ったように巨人が正解だろうな。 さっきのバッタのこともある。 ここは地球と比べて何もかもが巨大な生物が住む星なんだ」
周りの木が地球では考えられない程巨大なのもそういうことなのだ。 ただ完全に巨大な物しかないというわけではなく、地面には小さな草のようなものも生えている。
―――苔、っていうわけではないよな・・・。
今は生態系について考えていても埒が明かないため、いったんその思考は頭の隅へと追いやった。
「そんなッ・・・! 巨人は行定を攫ってどうするつもりなの!?」
「それは俺にだって分からない」
食べる。 そんな考えが頭を過ったが、口には出さないようにした。 それに食糧として捕獲したにしては扱いが丁寧過ぎるような気もしたのだ。
「ごめん、私のせいで行定くんが・・・」
「こんな予測もできない状況では運が行く先を左右するんだ。 恵人のせいじゃない」
「・・・うん」
「ただボーっとしているわけにもいかないぞ。 何かされる前に行定を救出しないと。 俺はこれからあの巨人を追う、二人はここで」
「私も行きたい!」
「でも恵人は足が」
「そう思っていたんだけど時間が経って随分と楽になったの。 もしかしたら地球より傷の治りが早いのかもしれない」
「そんなことがあるのか・・・?」
「相手が巨人なら少しでも人数は多い方がいいでしょ? 足手纏いにならないようにするから」
「でも・・・」
役に立つより足を引っ張られる可能性が高いかもしれない。 しかし、二人をこの場に置いていけば安全とも言い切れない。 後に合流するための通信機器のようなものもないのだ。
「三人で行動した方がいいんじゃない? ここは巨人の住む星だったら物凄く広いはず。 バラバラになってアタシたちがもう一度合流できるって考えるのは都合が良過ぎると思う」
佳与の言葉に頷いた。
「・・・確かにそうだな。 じゃあ三人で行こうか」
「ありがとう。 でもどうやってあの巨人を追いかけよう? 普通に走っていたら日が暮れちゃうよね・・・」
「・・・そうだ」
天都は辺りを見渡し思案した。 一面に広がるのは自然ばかりで使えそうにない。 しかし、それはあくまで地球上にいる時の発想だ。 天都には考えがあり、三人は移動を開始する。
改めて思えばジャングルだと思っていた木々も地球で言えば何のこともない草木くらいなのかもしれない。 だが通常のサイズでしかない三人にとって道中の移動は大変だった。 いや、大変なはずだった。
―――傷の治りが早かったことと関係があるのかもしれない。
―――疲れがほとんどないな。
小さなサイズの三人からしたら起伏も激しく通常なら連続で歩くのはかなりの苦痛となりそうだ。 なのに、自分だけではなく、あまり運動の得意ではない恵人ですら息切れしていない。
「見つけたぞ! できるだけ高いところへ移動するんだ」
巨人を見失わないように、そして見つからないように慎重に移動する。 大きな岩を登り見下ろした。 そこで見つけたのは先程見たのと似たようなサイズのバッタが草を食べているところだった。
「ここが巨人の星ならバッタが巨大でも納得できる・・・。 バッタは雑食だけど基本的に温厚な生き物だ。 背中に乗って上手く操ることができれば・・・」
「・・・え? バッタに乗ろうとしてんの!? 嫌よ、そんなの気持ち悪い!!」
「でもそれしか手がないだろ? 走って追いかけるのはこれ以上は無理だ」
「でも・・・」
「佳与ちゃん。 私のせいで行定くんは捕まっちゃったの。 だから助けに行きたい。 駄目かな・・・?」
「ぅ・・・。 恵人がそう言うなら・・・」
恵人も本来は虫が苦手である。 以前サークルでの集まりの時、小さな蜘蛛に怯えて100メートルくらい逃げたのを憶えている。 そんな彼女が勇気を出すところに佳与も感化されたようだ。
「でも上手くいくのかな・・・」
「時間がないから作戦が十分に練り込めない。 でも今なら乗るところまでは上手くいくと思う。 その後は半分以上運任せだ」
「そんな・・・」
「ただ勝算は高いとみているよ。 さっき追い払った時の様子からして狂暴ではなかったからな。 まぁ、何かあれば俺の命を懸けてでも二人を守るから」
「天都くん・・・」
「俺の合図で二人共飛び降りろよ。 いいな? ・・・せーのッ!!」
皆一気に飛び降りた。 見事バッタの背中に飛び降りる。 バッタは急な衝撃に驚いたのか高く跳び上がる。 その瞬間、天都はバッタの触角を掴むのに成功していた。
「凄い速い・・・ッ!」
「でもやっぱり方向が全然違うわよ!?」
「触角を持つだけでは足りないか。 あとは上手くいくかどうかは天の神様次第・・・ッ!」
天都は持っていた棒で羽の動きを阻害し進行方向を変えた。
「天都やるじゃん!!」
「どうやら運がよかったようだな!」
「運がいいのもあるかもしれないけど、ちゃんと行動した結果だから誇っていいと思う」
「そう真正面から褒められると普通に照れるな」
三人は振り払われないようしっかり互いを握り締めていた。 そうしてしばらくすると建物が見えてきた。
―――かなり高度な文明があるぞ?
―――そう言えば巨人はちゃんと服を着ていたもんな。
もっとも巨人が着ていた服装から判断すると、建物の文明は高度過ぎるように思えた。 明らかに四角い建物で家というよりはビルやマンションに近い出来栄えだ。
もしかするとロケットに興味を示したのは自身の文明に近しいものだったのか、そう思ったが流石にそう考えるには違和感が大き過ぎる。
天都は広めの平地を見つけると、バッタを誘導し無事に降り立つことができた。
「死ぬかと思った・・・」
「よく耐えたな」
「本当に飛ばされるところだったよ。 天都がアタシたちを掴まえてくれていてよかった」
喋っているうちに天都はバッタに持っていた棒きれを食べられてしまっていた。
「あ!」
「お腹空いていたのかな?」
「まぁ、運んでくれたんだからその運賃っていうことにするか」
まだ利用価値はありそうだったのに残念であるが、バッタは既に飛び去っていってしまいどうしようもない。
「この中に行定くんはいるのかな・・・?」
「巨人の進行方向からすればその可能性は高い。 それにもし違ったとしても何かしらの収穫はあるはずだ」
その時地面が揺れた。 巨人による地響きなどではなく、自然ながら大きな揺れだ。
「地震か?」
しばらく揺れたが特に気に留めることもなく、開いている窓から侵入し、広過ぎる建物の中を探索し始めた。 中は外から見る以上に文明が発達している様子だった。
地球で言うなら工場や研究所、そんな表現が近い。 しばらく進むと声が聞こえ慌てて陰に隠れる。
―――ここには複数の巨人がいるのか・・・。
耳を澄まして会話の内容を聞き取ろうとするも駄目だった。
―――日本語じゃないのは分かっていたけど地球の言語とは少し趣が違うな。
―――俺たちの知らない星の言語っていうヤツか。
「ねぇねぇ、天都!!」
「ん?」
「あの右にいる巨人が持っているの、アタシたちのロケットじゃない!?」
「ッ! 確かにそうだ・・・!」
咄嗟に反対の手を見るがそこには行定の姿はなく、ポーチもなくなっていた。
―――先にどこかへ置いてきたのか?
―――あの巨人は左から来た。
―――なら左側の部屋のどこかに行定はいるのかもしれない。
そう推測し巨人が去った後左側へと進んだ。 扉の隙間からほふく前進で中へ入り部屋の中を見渡す。 いなかったら部屋を出て違う部屋へ。 その繰り返しを続けているとようやく発見した。
「行定・・・ッ!」
行定は大きなテーブルの上に置かれた瓶の中に入れられていた。
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