運次第の宇宙旅行③
「行定!!」
「あ、天都・・・ッ! 頼む!! 助けてくれぇ!! よく分かんねぇけど、巨大なバッタに追われているんだ!!」
「とりあえず二人は樹の裏にでも隠れてて!!」
―――といっても流石に大き過ぎる・・・ッ!
―――やっぱりここは地球じゃないんだ!!
「天都!!」
佳与が野球バット程の長さの棒を投げてくれた。 先が尖っていて武器として扱えそうだ。
「何でもいいから追い払ってくれ!!」
もう行定には逃げ道がない。 バッタが何を食べるのか分からないが、このサイズ感なら人間ですら簡単に捕食できるだろう。
手に持つ棒は武器にできるとはいえ、昆虫の固い装甲を貫けるとはとても思えない。
―――映画とかなら目とか狙うんだろうけど、それで暴れられたりしたらどうなるのか分からない。
腰を抜かした行定は当然として、天都も普通の大学生に過ぎない。 それでも間に割り込むように立てたのは、宇宙に来る危険性を理解し覚悟も決めていたからだ。
「そ、それ以上近付いたら目を突くぞ!!」
その声がまるで聞こえていないかのようにバッタは距離を詰めてきていたが、天都と鋭い棒先を見てか大きな羽を広げてどこかへ飛び立っていった。 緊張が解けると同時に天都もその場に座り込む。
「もう終わったかと思った・・・」
「助かったよ・・・」
「行定、怪我はないか?」
「あぁ、大きな怪我はない。 ヘルメットを取っているけど三人共酸素は大丈夫なのか?」
「こんなに植物が周りにあるんだ。 酸素は十分だ」
行定にもヘルメットを外してもらった。 行定がいた場所の周辺にもロケットらしきものは影も形も見当たらない。
どこまで行っても自然豊かな光景が広がっていて、生きる分には何とかなりそうだが帰るとなると絶望しかない。
「まずは帰るためのロケットを捜し出さないとな。 行定は見ていないか?」
「少し歩いたけど、ロケットらしきものは見つからなかったな」
「そうか・・・。 とりあえず探索しながらロケットを見つけよう」
―――緊急ボタンを押してしまったことは三人にとても言えない・・・。
あの時そうしなければ絶対に助からなかったかどうかは分からない。 ただ墜落に近い形で無策で星に落ちたとすれば、まず全員死んでいた。
元々ロケットには必要最小限のエネルギーしか積んでいないため、それを使えば通信で近くを航行している宇宙船に助けてもらうことしかできないのだ。
だがそれでもロケットを探すことが無意味なわけはなく、この未開の星でエネルギーをどうにかすることができれば動かすことはできる。
自然物しか見えない場所で不安しかないが、ロケットまで行けば何か考えが浮かぶかもしれないのだ。 そうしてジャングルを歩き回ること数十分。
「喉が渇いたー・・・」
「食糧とか何も持ってきていないんだ」
「それは分かっているけど・・・。 あ!」
佳与が見つけたのは植物に付いている水滴だった。 朝露にしては少々時間が遅いが、地球ではないため不思議にも思わない。
「これだったら飲んでもいい!?」
「有害ではなさそうだから大丈夫だと思うけど・・・。 雫にしては大き過ぎないか?」
疑問を感じている天都以外の三人は既に雫を飲み喉を潤していた。
「美味いぞ! 天都も飲んでおいたらどうだ?」
「あ、あぁ・・・」
確かにその雫は美味しく、喉から流れ込み身体全体に染み渡る。 意識してはいなかったが、天都自身疲弊していたことを実感した。
「そこらへんの葉っぱとかも何とかして食べられないかな?」
「食べるのは止めておこう。 とりあえず飢えてどうしようもなくなるまでは」
少し休憩を挟むと探索を再開した。 その時ようやく馴染みのあるロケットを発見する。
「「「あった!!」」」
皆声を合わせロケットへ駆け寄る。
「あぁ、やっぱり機体には損傷が見られるな・・・」
「でも中は大丈夫そうだよ」
確かに中の操縦席は異常をきたしているということはない。
「ロケットが墜落した原因は何なんだろうな?」
「パッと見大丈夫そうだけど、エネルギー残量が空になってしまっている」
「・・・!」
「エネルギーの補給なんてどうすればいいの!?」
「そうだな・・・」
周りを見ても植物だらけで使えそうなものがない。
「私たち、ここから帰れないの・・・?」
恵人が不安になるのも分かる。 だがそれでも地球に似て酸素のあるこの星へ辿り着くことができたのは幸運だった。 いや、幸運なんて言葉では済まされないレベルだ。
「・・・ん? 何か音がしないか?」
行定の言葉に皆押し黙り耳を澄ませた。 確かに物音というより足音に近いような音が聞こえた。
―――・・・いや、音があまりにも大き過ぎる。
考えていると大きく地面が揺れ始める。
―――地震!?
―――いや、もしかして・・・。
4人の頭には先程の巨大バッタが浮かび、このまま惚けているわけにはいかないと判断した。
「隠れよう!」
幸い地面には起伏が多いため隠れる場所には困らない。 身を潜めると様子を窺った。
「「「ッ・・・!」」」
そして足音の正体がついに姿を現した。 25メートルのプールにすっぽりと嵌まりそうな大きさの人のような何か。 少々原始的な恰好であるが、毛皮のようなものを体に巻き付けている。
その容姿に三人は息を呑んだが、佳与だけは声を荒げていた。
「に、人間・・・ッ!? 違う! 巨人よ、巨人!!」
「おい・・・ッ!!」
佳与が叫ぶのを止めようとした時には既に遅かった。 巨人は佳与の声を聞いて4人の存在に気付いたのか辺りを探し始めている。
「逃げるぞ!!」
4人はこの場から逃げだした。 だが逃げている最中に恵人の脚にツルが絡まりこけてしまった。
「恵人!!」
それを見た行定が率先して助けにいった。
「あぁ、駄目だ! ツルが切れねぇ・・・ッ!」
行定は覚悟を決めたのか恵人の前に立ちはだかった。
「おい、行定!?」
「天都! 恵人を助けて三人で逃げろ!!」
「行定はどうするんだよ!!」
「あとで合流する!!」
「そんな無茶な! だって巨人に見つかったらもう」
「さっき助けてくれたんだから、今度は俺が頑張る番だ! いいから早くしろ!!」
天都はそれを聞いて周りに使えそうなものがないかを探した。 野球ボール程の大きさの石を拾いツルを切り裂こうとする。 幸いツルはそれ程固くはなく、恵人を解放することができた。
「・・・駄目。 動けない」
だが恵人は転んだ拍子に足を怪我してしまい歩けないようだった。
「恵人、背中に乗れ!!」
天都が恵人を背負うことにした。 その間に巨人は距離を詰め、いとも簡単に行定を摘まみ上げてしまう。
「ゆき・・・ッ」
もうどう考えても助けられそうになく、ここででしゃばれば行定の覚悟を無駄にしてしまう。 幸い巨人は行定をすぐにどうこうするようなことはなさそうだ。
三人は声を出さずに身を潜め巨人が去るのを待った。
―――行定が巨人に捕まった・・・。
―――どうにかして助け出さないと。
巨人は腰に付けていたポーチのような場所に行定を入れ、去っていこうとしたのだが去り際に気付いてしまうのだ。
「おい、嘘だろ・・・!?」
巨人が気付いたのは天都たちが作ったロケットの存在で、それを軽く拾い上げるとどこかへと持ち去っていった。
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