1-11

 授業が終わり、放課後になると、ミコトの周りにクラスメイト達が集まってきた。

「ねえ、ミコトくんってアメリカから来たんだよね? 学校、どんな感じだった? そんな変わらない? ガールフレンドとか居たの?」

 必要以上に接近して来るボブカットの女生徒が、ミコトにそう尋ねてくる。

「まあそんなところだ」

 そっけなく答えると、彼女は口を尖らせ、すこしだけ身を引いた。

「やっぱり海外の学校だと授業も違うの?」

「ああ、まあ、そうだな」

 適当な、当たり障りない解答でミコトはクラスメイト達の質問をミコトはかわしていく。

「へぇー、じゃあさ、七不思議とかもあったりしたのかな?」

「ナナ……フシギ?」

聞き覚えのない言葉にミコトは首を傾げ、聞き返した。

「お、アメリカにはやっぱり無い? 学校の恐い話とか、そう言うヤツ。白学ウチにもあるんだよ」

「ほう。興味がある。是非聞かせてくれ」

 ミコトが食いついてきたのを嬉しそうにメガネの女生徒がにっと笑って続ける。

「えっとねぇ……。まずは『屋上の幽霊』っていう話があってね」

「幽霊だと?」

「うん。校舎の屋上に自殺した生徒がいたんだって。それが今でもそこにいて、夜中に歩き回ってるんだって」

「成程。エクソシストに連絡するべきだな」

「え」

 ミコトを囲む生徒たちがぽかんとした顔をする。

「珍しい事ではない。霊魂というものは時に生ける人間の妨害をすることもある。被害が出る前に対処するべきだと思う。しかし日本のにもエクソシスム……、があるはずだ。先生方に要請してもらうように頼んだ方がいい」

「う~ん、天原クンはミリタリーだけじゃなくてオカルトマニアでもあったのかあ」

「天原君、ちょっと不思議ちゃんだよねー」

 至極真面目に言ったつもりだったが、勝手にクラスメイト達は解釈かいしゃくし、納得した様子だ。話がややこしくなりそうだったので、とりあえずミコトは否定するのをやめた。

「えーと、あとはねー、『地下に眠る怪物』かな」

「地下……」

 その言葉を聞いたとたん、ミコトは眉をぴくりと動かし、続ける。

「それはどういう内容なんだ?」

「なんでも、毎晩地面の下から唸り声みたいなのが聞こえるんだって。地下に怪物は閉じ込められてるから大丈夫だけど、どこかにある封印を解くと、扉が開いて外に出られるようになる……なんて噂もあるみたいだよ」

「その入り口はどこにあるんだ?」

「うーん、詳しくは分からないけど、旧校舎に隠し部屋があるんじゃないか、って言われてるよ。ま、旧校舎は立ち入り禁止だけどね」

「旧校舎関連は色々話があるよねー。政府が隠してる研究所があるとか、超古代文明の遺跡があるとか……。老朽化が進んでるのに取り壊さないのが一番のナゾかもね」

 ぽりぽりとスナック菓子を食べながら、クラスメイト達は旧校舎の噂を上げていった。

(旧校舎か……昼、校舎裏から見えたあの木造の校舎だな。……調べてみる価値はありそうだ)

 考え込んでいるように黙り込むと、細長いスナック菓子でミコトは頬をつつかれ、我に返った。

「おいおい天原クン、まだまだ七不思議はあるよ~? 今日は全部聞くまで帰さないぜ」

「む……まだあるのか」

「あるよう! 音楽室のピアノとか、色々」

 音楽室のピアノがとても遺跡に関係する情報とは思えなかったが、しかし万が一という線も考えられないわけではない。すべての事柄に、ゼロパーセントなんて確率はありえない。ごくわずかでも、可能性があるなら情報を逃すわけにもいくまいと、ミコトは耳を傾ける事にした。

「では、他の七不思議も――」

 ミコトが言いかけた時、がらっ、と勢いよく教室の扉が開かれた。

「おう、編入生はここのクラスにおるか!」

「アニキの借りを返しに来たぞぉ!」

 大柄な金髪の男子生徒と、やせぎすのマスクをはめたその友人らしき男子がずかずかと教室に入ってきた。あきらかにわざと制服を着崩し、上靴を履き潰しているのを見るに、典型的な不良生徒のようだ。

「うわー、なんかめっちゃ怖いんですけど」

「天原君に用事あるとかなんなの……?」

「やべえな、俺達も巻き込まれんじゃねえの?」

「マジ勘弁してほしいよな」

 こそこそと話す生徒たちをかき分け、二人はミコトの方へ近づいてきた。ミコトの周りにいた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように慌てて離れて行った。

「おいコラ、オメーか編入生は!」

「…………」

 金髪の方の眼前で指を突きつけるが、ミコトはただじっと彼を睨みつけるだけで、何も答えない。

「無視か! いー度胸だな!」

「編入早々に喧嘩売ったそうやないか、おぉ?」

「……何か用事だろうか。簡潔に頼む」

 金髪は淡々と尋ね返したミコトの胸倉を掴み上げた。

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