第20話 初めての護衛 2

 職員は十分ほど依頼に関して同僚に聞いて回って、別の職員を連れて戻ってきた。


「こちらの同僚が知っているということなので、聞いてみてください」

「ありがとう」


 連れてこられた職員とバルームたちはテーブルに移動して、依頼について話し出す。


「駆け出し用のもの、報酬は高くなくていい、人格的に優れている依頼人という条件でよろしかったでしょうか」

「ああ」

「あなたの報酬も高くなくていいと判断しても?」

「基本的には。駆け出しには討伐不可能な魔物が出て、俺に倒せと命じられた場合は相応の報酬をもらうつもりだ」


 こう言っておかなければ、安い報酬で無茶をさせられる可能性もあるのだ。

 それを職員は想定済みのようで頷く。シーカーに無茶をさせられて困るのはシーカー代屋も同じなのだ。


「では基本的に安くということで話を進めます。受けていただける場合は、先方に緊急時の報酬に関して話しておきますね。この依頼は人と荷物の護衛です。山奥の村に商売に行く商人が護衛を求めています。行く先が旅のついでというには向いていない街道から外れたどんづまりの村であり、魔物被害も少ない場所なので、人気のない依頼ですね。危険度が下がるため相応に私どもが設定する報酬金額も下がるからですね」


 移動のついでに受けられるなら、報酬が少なくてもまあいいかと思えるが、行き止まりであり見所のない村ということで行きたがるシーカーもいない。


「危険な魔物はいないのか?」

「そう聞いていますね。村にあまり近づくこともなく、シーカーを雇わず村人たちだけでどうにかできているんだとか。山にいる獣たちで十分魔力を賄えているんでしょうね」

「そういったとこなら護衛報酬も下がるか」


 納得だとバルームは頷く。


「依頼人はどういった人なのだろうか」

「五十歳を過ぎた男性です。店を持っていますが、そちらは子供に譲って、のんびりと行商をやっています。行商が性に合っているんだそうです。今回のようにあまり人の行きたがらないところへと商売に行っていますね。以前依頼を受けたシーカーからは特別文句などでていません。私も依頼人と会って話したことがありますが穏やかな人でしたね」

「向かう先の正確な情報と移動方法を頼む」

「目的地は北にある山間の村。山を一つ上り下りした先の村です」

「そんなところに村が?」


 魔物被害が少ないと言ってもやはり危ないんじゃないだろうかとイレアスが聞く。


「昔、腕の良い家具職員がいまして、その職人は質の良い木を求めてそこに家を建てました。その職人に技術を習いたい弟子たちも集まって小さな村ができたんですね」

「家具作りで盛んな村なんですね」

「いえ今はもう職人はいません。職人の死後に後継者問題が起こり、やり過ぎた者は捕まって、争いを避けた者は村を出ていました。そういう流れで、職人はいなくなってただの村として細々と続いています」


 不便だが愛着もあるということで、村人たちはそこで生活を続けている。

 外との交流が少ない村で、余所者への警戒心は高めだ。しかしわざわざ村まで来てくれる依頼人のありがたさは十分にわかっていて、依頼人と一緒に行けば警戒心は下がった対応になる。


「片道四日、山道もそう厳しいものではありません。荷物は馬車に載せて、シーカーは徒歩です。駆け出しが護衛するには問題ない道だと思います」

「最後の質問だ。依頼人と会って、それで受けるかどうか決めることはできるか?」

「大丈夫です。明日にでもここで会えるようセッティングしますか?」


 それで頼むとバルームが頷く。

 会う時間は昼食頃になる。

 依頼に関してはこれで終わり、三人は宿に戻って鎧とブーツを身に付けて動きを確認して解散する。

 翌日、午前中で狩りを終わらせた三人はシーカー代屋へと向かい、昨日の職員に声をかける。


「少し前に来て待っていますよ」

「遅れたか?」

「いえ、依頼人が早めに来ただけですので安心してください」


 個室で待っているということで案内してもらい、職員と一緒に入る。

 そこには事前に聞いていたように五十歳過ぎの男がいた。行商をするためか体力低下を防ぐ運動でもしているのだろう。体つきからは衰えが見えなかった。


「パンドルさん、こちらが依頼に関して話を聞きたいと言っていたシーカーたちです」

「パンドルと言います、本日はよろしくお願いします」


 三人もよろしくと頭を下げた。

 職員は仕事があるからと部屋から出ていき、四人は向かい合うように座る。


「改めてこちらからも自己紹介を。この子らの世話をしているバルームと言います」

「ミローです。駆け出しのシーカーです」

「イレアス、です」


 名前だけ名乗りそうになり「です」と付け加えた。さすがにいつもの口調はまずいと考えたのだ。

 そんなイレアスを微笑ましそうにパンドルは見る。それだけで人柄の良さがうかがえた。

 パンドルのその態度で、この依頼を受けてもいいなとバルームは考える。それはそれとしてイレアスにはあとで一言言っておこうとも思う。

 依頼人の中にはシーカーをただの荒くれと見る者もいて、ある程度丁寧な口調は礼儀を弁えていると判断されて、依頼人たちを安堵させる効果もあるのだ。


「依頼を受けるかどうか決める前に聞きたいことがあります」

「はい、なんでしょうか」

「この二人は、護衛依頼を初めて受けるのですが、それでも大丈夫なのでしょうか。正直この依頼を練習にしようと思っているのです」

「まじめにやってくださるなら大丈夫ですよ。それにあなたは経験あるのでしょう?」

「ありますね。真面目にやるつもりです」

「でしたら問題ありませんね」


 ありがとうございますと言い、バルームは次の質問をする。


「シーカー代屋から聞いているかもしれませんが、基本報酬は私も安くなっています。ですが予想外のことが起きたら実力に見合った報酬を受け取ることになっています。そのことについては聞いていますか」


 シーカー代屋が伝え忘れてはいないだろうが、確認はしておいた方がよいと思い聞く。ミローたちに再確認の大切さを伝えるためという理由もある。

 それにパンドルは頷いた。


「聞いていますし、同意しました。そういったことがないのが一番なのですけどね」


 そうですねとバルームも同意する。アクシデントは起きるときは起きるものだが、練習のときにまで起きてほしくはない。


「ほかに質問はありますか」

「あとはこまごまとしたものですね」


 荷物を馬車に載せていいのか、出発日と時間、道中で注意すべきこと、必要になりそうなもの。こういったことをバルームは聞いていき、パンドルも丁寧に答えていく。

 最後にミローが好奇心から質問をする。


「パンドルさんはどうしてこういった行商をやっているんですか? お店を持っていると聞きました。それなら仕入れで外に出ることはあっても、わざわざ山にまで行く必要はないかなって思うんですけど」

「ミロー、あまり依頼人の私情に踏み込むようなことは駄目だぞ」


 パンドルならばそういった質問も許してくれそうだが、言っておかなければならないことでもある。


「かまいませんよ。儲けの少ないこういった行商をどうしてやっているのか気にする方はいますからね。一言で言えば恩返しですなぁ。若い頃にまだまだ取引相手がいないとき、そういった足を運びづらい人たちとの取引で儲けを出していました。それと出先で倒れたことがありまして、そんなとき親切に看病してくれたのも彼らなのです。看病してもらったのは今回行く村ではないのですけどね。だから恩返しとして今も交通の不便な村に行っているのです」

「なるほど」

「あとは領主様から頼まれたという理由もあります」


 恩返しという理由に納得していたミローは、領主という存在が出てきて首を傾げた。

 これにはバルームも同じ気持ちだった。


「私が行商をしていることが治安の向上に繋がっているのだとか」

「そうなのですか?」


 どうしてなのかわからずバルームは聞き返す。


「外との繋がりが少ないせいで、自分たちの都合を優先した結果、物が足りないなら奪ってしまえばいいと考える者もいるそうなのです。そういった山賊へと堕ちてしまう者たちを減らす効果があるのだと説明されましたね。完全にいなくなっているわけではないようですが、少しでも減っているのが助かるのだとか」


 少しは補助金も出ていて、そのおかげで儲けが少なくてもやれているという面もある。

 兵を見回りに出すよりも、補助金の方が安く済むので領主としてはパンドルはありがたい存在なのだ。

 質問はこれで終わりになり、依頼を受けることを告げて、店に帰るパンドルを三人はシーカー代屋の入口まで見送る。

 受付に向かった三人は、依頼を受ける手続きをして、必要なものを買うため町の中を歩き回る。


 翌日の昼食後、三人は町の北入口に向かう。そこがパンドルとの待ち合わせ場所なのだ。

 入口から周囲を見ると、荷車の中を確認しているパンドルがいた。木箱や袋がいくつも荷車に置かれてロープなどで固定されている。


「こんにちは」

「あ、こんにちは。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「荷物を荷車に置いていいですよ」


 三人が頭を下げて、持っていたリュックや鞄を荷車のどこに置いていいのか聞く。

 パンドルは空いているスペースを指差し、バルームたちはそこに置かせてもらう。


「一人くらいは乗れるスペースもあるので、疲れたらいつでも言ってください」

「ありがとうございます、助かります」

「いつでも出発できますが、大丈夫ですか? 忘れ物などありませんか?」


 確認するようにパンドルが言ってくる。


「最低三度は確認するように言ってありますので大丈夫でしょう」

「では出発しますね」


 パンドルは御者台に移動して、馬に合図を送る。ゆっくりと歩き出した馬車の後ろから三人はついていく。

 早速バルームは今後について話し出す。


「今回は三つにわかれて護衛することにする。二人は馬車の左右どちらか。俺は後方だ。魔物が茂みとかに隠れていることがあるし、空から鳥の魔物が襲いかかってくることもある。そういった部分を見ていくように。茂みが不自然に揺れていたり、魔物がこっちに来ていたら皆に聞こえるように声に出すんだ」


 二人は頷いて、馬車の側面に移動する。ミローは左、イレアスは右だ。

 移動を始めて一時間くらいは何事もなく進むことができた。

 北の狩場にいる魔物はダンゴムシで、それは音を立て移動する馬車に接近しないのだ。

 駆け出しの狩場を抜けて、一人前となったシーカーが狩場にする場所に入る。

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