第19話 初めての護衛 1

 レッサータイガーという予定外のことはあったが、それ以外は順調に予定をこなして、ミローたちがスキルを得てから一ヶ月が経過した。

 イレアスは現状使える二種の炎の扱いになれて、制御能力の向上が見られた。そのおかげか一回だけだがスキルの使用回数も増えている。

 読み書き計算の方もそれなりに順調で、魔術の本も読める範囲が広がっている。理解しているとは言い難いため、勉強はまだまだ必要だ。専門ではないバルームでは魔術師への指導は難しいので、一度ほかの魔術師に講師をしてもらえば理解がいっきに進むかもしれない。

 それについてバルームはイレアスと話し合い、魔術師への講師依頼をシーカー代屋に出した。

 それを受けてくれた魔術師に丸一日かけて、基礎とそこから発展する知識と実技を教授してもらう。

 知らない人と二人だけというのはきついとイレアスが言うので、バルームは魔術師に許可をもらい一緒に話を聞くことにする。ただ一緒にいるのは暇なので、教えてもらったことを忘れないように細かく書き残していった。

 今後は書き残したものと魔術師の指導を思い出して、魔術方面の鍛錬は進んでいくことになる。

 ミローは柔剣に繋がる指導をバルームに頼んできた。自分に合っているかもということで、そちらを伸ばすことにしたのだ。

 今は満遍なく技術を伸ばすよりも、一つを重点的にやってしっかりとした技術を身に付けたかった。

 生存に繋がる技術なので、バルームも反対などせずに意見を受け入れて教えていく。柔剣ではなく被害を無視して敵を倒すといった無茶を通す技術を求められていたら、反対して教えなかっただろう。

 実際に柔剣方面に進んでみるとしっくりくるようで攻撃の見極めや回避が上手くなっている。バルームもその分野が得意なので教えやすかったため技術が伸びたという理由もありそうだった。

 それと同時進行で、剣に魔力を込める指導も少しずつ進められた。こっちの実用化はまだだが、ものになりそうな感触は掴んでいた。


 そんな時間を過ごして、二人は確実に強くなっている。それは数値にも現れていた。

 鑑定の石版で能力を調べると、予定通り新たに2へと上がった能力があった。

 ミローは速さが2へ、イレアスは感覚が2へと上がったのだ。これにより二人とも強さが2へと変化した。

 成果を報告に行ったときに話したクルーガムによると、そう遠からずまた能力が上がるだろうという話だった。

 ミローは速さと同時進行で感覚も磨かれていて、イレアスも筋力が同じように鍛えられていたということだった。イレアスは流民時代と違って健康的な生活ができているという理由もあったそうだ。

 ちなみにバルームはなんの変化もなしだった。自己鍛錬はかかしていないが、魔物はレッサータイガー以外にろくに倒していないし、そのレッサータイガーもバルームには不足だからだ。

 神殿から出た三人はそろそろ靴が出来上がった頃だろうとベッセ靴屋に向かう。


「こんにちは」


 工房入り口からミローが声をかける。

 それに反応しムアルが手を軽く振る。


「ミロー。完成しているぞ。あとは履いてもらって微調整すれば渡せる」

「ほんと? よかったー」


 棚に置いてある二足のブーツをムアルは取って、テーブルに置いた。

 注文通り脛半ばまであり、ベルトで止めるようになっている。

 どちらが二人のものなのかムアルは指で示し、履いてくれと頼む。

 早速二人は自分のブーツを取って履く。


「小さくはないか?」

「そこは大丈夫」「私も」


 そう返して歩いたり、足首を曲げたり、跳ねたりしていく。


「少し足首周りが硬いかな」

「それは新品だからな。しばらくすれば慣れる」


 バルームが問題ないと言い、ムアルにそうだろうと尋ねる。


「ええ、誰でも最初はそういった感想を持ちます。大きすぎといった感じや内部で変に当たって痛いところとかないか?」


 動いていた二人はないと返す。

 その返答にムアルはほっと安堵の溜息を吐く。


「半月以内に問題が起きたら、タダで手直しするから来てくれ」

「うん、わかった」

「半月を過ぎてもなにか異常を感じたら、お金がないとか言わずに持ってこい。つけでどうにかするから」

「ありがとう」「ありがとうございます」


 礼を受けたムアルは、まだ履き心地を確かめている二人からバルームへと向き直る。


「ひとまずご注文の品は完成いたしました」

「ご苦労さん」

「熟練シーカーの目で見て、なにか異常があれば本人がなにも言わずとも持ってきてもらえると助かります」

「わかったよ。そのときは世話になる」


 ムアルは、今後も妹のことをよろしくお願いいたしますと頭を下げる。

 ムアルに見送られて三人は店を出る。次に向かうのは以前駆け出しセットを買った店だ。


「今後の予定は護衛でしたよね」

「その予定だな。ちょうどいい依頼があるといいんだが。野営することになるから家族にはしっかりとそのことを伝えておけよ」

「はい」

「あと野営についてのあれこれは忘れてないな?」


 ミローとイレアスはしっかりと頷く。


「そっちもたぶん大丈夫です。それに私が忘れている部分はイレアスがフォローしてくれると思います」

「うん、任せて」


 イレアスが忘れている部分はミローがフォローするだろう。一人であれこれしないですむのは助かる話だと二人は同じことを思っていた。

 店に到着し、そのままカウンターにいる店員に話しかける。


「この二人の防具を買いたい」

「いらっしゃい。どういったものをご所望で?」

「こっちは前衛、こっちは後衛。予算はそれぞれ赤硬貨で三枚だ。あと前衛は重いものは避けたい。この予算じゃ金属製の鎧は買えないからいらない心配だろうが一応な」

「了解です」


 店員は在庫を思い出し、値段に合うものを考えていく。


「前衛のお嬢さんは革の鎧を。後衛のお嬢さんは鎧かローブか選んでほしいですね。実際見てみないことにはわからないでしょうし、在庫を持ってきます。少々お待ちを」


 三人が頷いたのを確認し店員は倉庫へと向かった。

 戻ってきた店員は二つの革鎧をテーブルに置いて、どういったものか説明する。

 両方とも魔物の皮を使ったもので、違いは硬さに重点を置くか、軽さに重点を置くかというものだ。その違いも大きく異なるというものでもないので、好みで選んでよいだろう。

 説明を終えて店員はまた倉庫に戻っていく。

 黒に近い茶色の鎧はどちらも肩当てがなく、腰周りを守る草摺りがある。

 

「触ってもいいんでしょうか」

「触れるくらいなら問題ないだろ」


 ミローはそっと触れた。ある程度の柔らかさはあるが、今使っている貫頭衣よりもはるかに丈夫だとわかる。


「こんな感じなんですね。ちなみに金属製の鎧はいくらくらいするんでしょう」

「最低でも金貨からだな。胸の部分だけ金属板をくっつけた革鎧だともう少し下がる」

「先生の鎧はいくらしたの?」

「これは金貨十五枚だな。五年くらい前に必要金額が貯まって買ったものだ。それだけの価値はあった。もっと高いものもあるぞ、金貨百枚の鎧を見たことがある」


 今の二人では到底稼ぐことのできない金額の鎧があると聞いて、少し呆けている。

 そこに店員がイレアス用の防具を持って戻ってきた。


「なにかありました?」

「鎧の金額について話していたんだ。金貨百枚の鎧があるぞと言ったら驚いてな」


 店員は納得いった様子だ。


「武具はお金をかけるとどこまでも高くなっていきますからね。貴重すぎて値段をつけられないものもありますし。現代だと輝剣星と呼ばれる剣士の剣がそんな感じですね」


 輝剣星は大陸南部の国にいるという最高峰の剣士であり、酒場に行けば彼を含めた仲間たちの活躍を吟遊詩人が歌っている。

 演劇にもなっているので、ミローならば見たことがあるかもしれない。

 バルームも聞いたことがあり、そんなすごい人がいるんだなと完全に違う世界の人物だという感想を持っている。


「こちらが後衛のお嬢さんの防具です。ローブと鎧に近い服です。どちらも服の上から着込めるものですね」


 ローブは灰色で、厚めの生地だ。羊の魔物を材料にしている。

 赤茶の鎧は魔物の皮を材料にしている。見た目はノースリーブで太腿までのボディコンに近い。ミローの鎧よりは柔らかいのだが、貫頭衣よりは硬い。太腿の片方にスリットが入れられていて、少しは動きやすいようにと考えられている。

 動きやすさはローブの方で、防御力は鎧になる。


「私は頑丈さの方かな。イレアスはどちらにする?」

「一度着てみないとわからない。鎧の方が動きにくかったらローブにする」


 試着は大丈夫と店員から聞き、二人は店の奥へと案内されていった。

 店員に手伝ってもらい身に付けていく。

 ミローは硬い方を選び、イレアスは鎧の方を選んだ。実際に着てみるとたしかに動きにくさはあったが、それでも思った以上ではなかったので防御力を選んだのだ。

 一ヶ月の魔物狩りで貯めたお金で鎧を買って店を出る。

 次はシーカー代屋で依頼探しになる。

 バルームが受付に向かい、それに二人もついていく。受付が空いているため、自分たちで探すよりそちらの方が早いと判断したのだ。


「今いいだろうか」

「はい、問題ありません」

「駆け出し用の護衛依頼か荷物運びを探している。それらが未経験で経験させたい、報酬は高くなくていいので人が良い依頼人だとありがたい。条件に合うものがあれば教えてもらえないか」

「そういった依頼は強さが2へと上がっていることが推奨されるのですが」

「上がっている」


 バルームがそう答えると職員は驚きを顔に出した。

 驚くようなことなのかと当事者の二人は首を傾げる。


「早いですね。もしかしてあなたが主導して魔物を倒していました?」


 バルームが数を倒して、そのおこぼれを二人はもらっていたのかと思い聞く。


「いや、この二人が戦い、俺は周囲の警戒をやっていた」

「そうですか。やはり指導者が付きっきりだと早いのですね」


 貴族や金持ちではない駆け出しに指導者が付きっきりというのは珍しく、レッサータイガーの件よりも前にシーカー代屋は三人のことは認識していた。

 だからミローとイレアスが魔物と戦い始めて、まだ二ヶ月もたっていないことを知っているのだ。


「そんなに早い成長なんですか?」


 ミローの質問に職員は頷いた。


「普通は二、三ヶ月かけるものですよ」

「そうだな。俺のときもそんな感じだった。あれこれと無駄に考えることがなくなるから、その分効率のいい鍛錬ができたんだろう」

「そうなんでしょうね。失礼しました。依頼に関して調べてきますので、少しお待ちください」


 職員は椅子から立つ。条件に合うものがあるか、ほかの職員にも聞いて依頼を探す。

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