第9話 泣く紫乃と笑う双葉
目の前にいる彼女は、いつものしっかり者の紫乃じゃなくて普通の恋する女の子だった。眩しすぎるくらいに熱くて甘い言葉をくれる、乙女だった。
思わず笑みがこぼれてしまう。
「……そうだったんだ。紫乃も私のこと、好きだったんだ」
彼女の告白が終わって、ポツリと呟く。
紫乃の涙声に反して彼女のそれはどこか誇らしげで、喜びに溢れていた。
震える紫乃の肩を小さな体躯でギュッと抱きしめる。
嬉しかった。
純粋に嬉しかった。
紫乃が自分の事を好きでいてくれたこと。
泣いて、泣きじゃくってくれるくらい自分の事を想ってくれていたことが。
「安心してよ、紫乃」
「…………なにが」
「私、好きな人の名前、言ってないよ?」
そう言うと双葉は紫乃の耳を「はむっ」と軽く噛んだ。
「ひぁふっ⁉」
普段の彼女からは考えられないようなメルヘンチックな声が漏れる。
その反応に思わず微笑んでしまう。
「フフッ……どんな声出してんの」
可愛いっ、と紫乃の頬を突いてみた。
紫乃が睨む。
「……わ、私が今どんな気持ちでっ……!」
絞り出すような声。
ちょっとやりすぎてしまったと反省する。
双葉は眉を逆立てた紫乃に苦笑しつつ、彼女に本当のことを話すことにした。
今日、神社に誘った本当の理由を。
「……恥ずかしいから一回しか言わないよ。 ……だから紫乃、よく聞いて」
「な、なに……」
「今日さ、神社に紫乃を誘ったじゃん? それで二人でお願いして……で、おみくじも引いたけど、実はおみくじが本当の噂の方でさ……」
「……そ、そうなんだ」
ポカンとしたような紫乃は、何だか新鮮で可愛かった。
双葉はコクンと一度頷いてから話を続ける。
「で、好きな子とおみくじ引いてどっちも恋愛運が良ければ……つ、付き合えるって……いうね?」
そこで双葉は言葉を区切った。
恥ずかしさを隠すようにウインクする。
「……って、ことは――」
おずおずと紫乃が口を開く。
双葉の真意に気づいたようだった。
しかし噛みしめるようにそれを言おうとする紫乃がじれったくて、恥ずかしくて。
双葉はすぐに言葉を継いだ。
「わ、私も紫乃のことが大好きってことっ――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます