第6話 おみくじの結果
「……何お祈りしたの?」
お参りを終え、双葉が訊ねる。
「そりゃ、双葉の恋が上手くいくようにお願いしたよ」
「そっか……じゃあ、私の恋はかなうかなっ」
そう言って、ニコッと微笑む。
どこか意味深な笑みだった。
「それじゃあ、おみくじも引こうよ」
そう言って、一角にあるおみくじ箱を指さす双葉。
まるで狙っていたかのような流れだった。
「あれもするの?」
「ここまで来たら、やろうよ!」
そして何故か「まぁ? 私は別におみくじの結果なんか気にしないけどさっ」と虚勢を張る。口では「結果は気にしない」と言いながら、めちゃくちゃ乗り気で紫乃の制服の袖を引っ張ってくるのが可笑しかった。
「はいはい、分かった分かった」
ノリノリな双葉に従って、紫乃もおみくじを引くことにする。
財布から百円を取り出す。
おみくじ箱は百円を入れるとくじが中から滑り落ちてくるタイプの物だった。
まず始めに見たのは双葉。
「あっ、大吉だ!」
やったね、と運勢が書かれた箇所を紫乃に見せる。
そして各項目の確認もしていき。
「あっ恋愛は……一途に思い続ければ叶わん、だって‼」
やったー、と心底嬉しそうに両手をあげる。
一方。
「うわっ……凶じゃん」
最悪、と紫乃は顔をしかめた。
紫乃のおみくじには、どどんと「凶」の一文字が印刷されていた。
フォローの仕様がない、最悪の運勢だ。
一応各項目に身を通してみるものの、書いていることもネガティブなことばかりだった。
・勉学……足元をすくわれる。
・健康……日々、早寝早起きし、節制しよ。
Ext……。
救いがない、とはこのことである。
読んでいるのも嫌になってきた。
「それじゃ、結んで帰ろ」
紫乃はさっさと読むのをやめ、今回引いたおみくじを糸に結ぶ。
「恋愛運はどうだった?」
「恋愛? あ~、多分待ち人来ず……見たいだったと思う」
正直あまり読んでいないが、適当に返す。
凶、ならそれくらいが相場だろう。
するとそれまでの双葉の態度が一変する。
紫乃の結果を双葉は許さなかった。
「…………そんなの、ダメ」
「えっ?」
「ダメだよ、紫乃!」
「ええっ、何が?」
「もう一回、もう一回おみくじ引こっ!」
ギュッとスカートを掴み、紫乃を引き留める。
必死なのが伝わるくらい彼女の手には力があった。
どこか凄みを感じる。
「……で、でも、おみくじの結果はどうでもいいんじゃなかったの?」
先ほどの双葉の言を質す。
気にしないのではなかったのか。
「そ、それはそうだけど……紫乃が凶なんて私が受け入れられないから!」
そう言って双葉は自分の財布から百円を取り出す。
どうしても引いて欲しいらしい。
「わ、分かったからっ」
紫乃は双葉を制止すると、自身の財布から百円を取り出した。
もう一度おみくじを引く。
「……これがラストだからね?」
「うん、分かってる!」
恐る恐る確認すると、今度は大吉だった。
双葉が気になっていた、恋愛運の項目を真っ先に確認する。
紫乃よりも双葉の方がソワソワしていた。
恋事、伝えればまさに叶わん――なかなか良さそうなことを書いている。
これなら双葉も許してくれるだろう、と紫乃は一安心する。
(まぁ、伝えれば、ね……)
暗に自分の事を言われている気がして、少しだけ心に刺さった。
「どうだった?」
「ああ、うん。私も、恋事が上手くいくってさ」
それを聞いて、双葉も納得する。
「よし、じゃあ結んで帰ろっか!」
先ほどとは違い、ホッとしたような表情だ。
「……結局、なんで二回も引かせたの?」
「だって紫乃だけ悪いなんて、気持ち悪いでしょ?」
「私はどっちでも良かったけど……」
「まぁいいじゃん、なんでも!」
解せぬ、といった顔の紫乃をよそに満面の笑みを浮かべる双葉。
やりきった、というような達成感に満ちた顔をしている。
(双葉も満足したみたいだし……いいのかな)
紫乃は再びおみくじを結び、階段を降り始める。
先に降りる双葉の背中を見つめながら、紫乃は軽く息をついたのだった。
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